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LNJ Logo レイバーネットTV報告: 「やさしい猫」「入管」をめぐってビッグ対談
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異質なものを排除する日本人の見えない壁に風穴を開けたい

「やさしい猫」から学ぶ入管問題 2023/6/12レイバーネットTV・第189号

「やさしい猫」がNHKのドラマで、9月25日から再放送があるくらい大人気だ。テレビのない私に友だちが、本を貸してくれた。ぐんぐん引き込まれた。何しろ七面倒くさい法律を分かりやすく説いているし、物語としてもドキドキだし…。フィクション小説の著者は、だからといって入管法など、事実と違う作り事を書くわけにはいかないと、緻密な下調べをしている。だからこそ、この物語は人の心を打つのだと思う。この小説の誕生に深くかかわった指宿昭一さんの持ち込み企画だが、この小説が読まれ、ドラマが観られることで、日本国内に住むすべての市民(とあえて言う)が直面している、バカ気た入管の外国人に対する差別対応をやめさせる力になると信じたい。それにしても深刻な問題にもかかわらず、スタジオは終始、笑いの絶えない明るい雰囲気で進んでいった。(報告=笠原眞弓)

アーカイブアドレス:
https://www.youtube.com/live/mhKbf-GUeuA?si=kekPpd2u2_YBm4QL

出演:中島京子(作家)・指宿昭一(弁護士)


*背景をリニューアル

◆指宿昭一さんによって「やさしい猫」の概要が語られる

小説「やさしい猫」は、クマラさんとミユキさんの出会いから結婚、そして途中、非正規滞在になってしまったクマラさんが裁判に勝利するまでをミユキさんの娘マヤちゃんが語ったもの。小説をもとに同題のテレビドラマともなり、人気を博する。(6月にNHK地上波で放送。9月25日〜29日までBS4Kで再放送)

◆入管の収容者が救急車も呼ばれず亡くなった?「勉強会」という食事会のはじまり

著者の中島京子さんは、新聞に連載小説を頼まれる。以前から気になっていた、牛久入管での死亡事件のことを思い出した。そのことを書きたいが、法律的なことをちゃんと押さえたいと友人の弁護士に相談。すると、弁護士と元入管職員、行政書士など、複数のブレーンとの勉強会(食事会)が複数回設定された。その中に指宿さん(ハムスター先生)がいらした。第一回の集まりから、相当厳しい現実が滝のように流れてきたと中島さん。しかも帰り道で、友人の弁護士に手をしっかりつかまれて「逃げないでね!」と言い続けられていた。一方指宿さんたちも、はじめは緩くしようと打ち合わせをしていたのに、激しすぎたと反省していたとか。

◆小説だけどウソをつかないを通した

中島さんはフィクション作家だが、この作品の中では「ウソをつかない」と決めていた。勉強会は続き、模擬裁判も数回実施した。豊富な事例を持つ弁護士によるポロッとこぼれる話が、小説にリアル感を与え、膨らませていったとか。中島さん自身も模擬裁判で、参考人質問を受けているうちに、その人の気持ちがつかめていき、それがエピソードとして小説を膨らませていった。

◆クマラさんはなぜ在留資格を失ったのか(小説のはじまり)


ミユキさんは、スリランカ人のクマラさんと東日本大震災後のボランティアの場で出会い、その後帰宅してから偶然再会して、結婚することになった。結婚パーティの日取りも決まっていたのに、クマラさんの勤務先が倒産。ところが彼はミユキさんに本当のことが言えず、嘘をついて就職活動をしていた。そのうちクマラさんのビザも切れてしまい、内緒にしていられなくなる。二人は入籍して、クマラさんは晴れ晴れと品川入管へ行くのだが、その最寄り駅で職務質問にあい、「非正規滞在」の外国人として入管に収容されてしまう。物語は裁判で勝訴するまで続く。

◆2017年(五輪前)だからクマラさんの在留資格の更新ができなかった 

国はオリンピックを控え、治安の維持のために外国人の”効果的排除”を打ち出した。つまり、在留資格の厳格化を通達したのだ。これまでならクマラさんの例では在留資格がとれたはずなのに、このオリンピックに向けた行政の姿勢が彼を窮地に追いやったという。2016年の東京新聞はこの厳格化を批判的に報道しているが、このころは一般に知られていなかっただけに、どうしても小説に書いてもらいたかったと指宿さん。続けて指宿さんは、品川駅前は交通違反の取り締まりの強化月間のよう不法滞在者の検挙をしているので、手前の駅で降りて、タクシーで行くようにとアドバイスしていると。

◆「在留資格がほしいから結婚したんだよね」と責められて


ミユキさん自身、在留資格がどういうものかを知らないでクマラさんと付き合っているのだが、書いている中島さん自身何も知らなかった。ところが入管職員の質問は、例えば「在留資格が切れてから結婚したよね」「在留資格ほしいから結婚したんだよね」と当事者の気持ちとずれながら、そう言われるとそうではないとは言えないけど、自分の感覚とはずれていると、揺さぶられていくのもブレーンたちに教えられたことだとか。事例を持たない弁護士の中には、そんな質問の突っ込みを知らない人もいますよと指宿さん。

◆外国人と結婚する(家族になる)という周囲の反応

ミユキさんとクマラさんの結婚は、周囲の反応も描かれる。ミユキさんの山形県人のお母さんは「いい人だかどうだかは、関係ねーやな。スリランカ人との結婚だば無理だろうや」といい、前夫(マヤちゃんのお父さん)の家族にも外国人だから信用していいのかと聞かれるし、友だちの「騙されていないか」や「いい外国人はいいのよ」の言葉も微妙だ。このような言葉は、よくかけられるが、実際にあるであろうことを書かないわけにはいかないと中島さんは言う。

◆ビザのための結婚ってそんなに悪いこと?

「クマラさんは頑張っているし、いい学校出ているし、立派な仕事だって持っているし」とミユキさんに言われることがクマラさんにとって失業したと言えなくなる原因の一つだったかもしれないと中島さんはクマラさんを思いやり、ビザのための結婚がそんなに悪いことなのかと疑問を呈する。日本人だったらお金のために結婚する人もいるのになぜ入管では、そうではないと証明しなければならないのかがよくわからないと中島さん。一方で「偽装結婚」と言われるのが嫌でビザがとれるまで、結婚したがらない人もいる。実際には、当事者や家族ですら在留資格の制度についてよく知らないし、弁護士でも知らない人がいるという。

◆帰国を促す作戦のための医療不処置対応ってアリなのか


指宿さんは、牛久入管で体調を崩した収容者に対し入管では何の対応もしないので、外から救急車を呼んだが、追い返された経験がある。ドラマの中でミユキさんがブチ切れる場面がある。驚くべきことに、「辛くなれば借金してでも帰国したくなるだろう」そうさせるために入管は治療を極力しないと、入管の悪魔の言葉を指宿さんは私たちに伝える。名古屋入管で食事がとれなくなって亡くなったウシュマさんの場合もそれに通じるという。

◆ウシュマさんの事件が公になったのは遺族の積極的な訴えがあったから

2021年にウシュマさんの事件の実態が明らかになったのは、なんといっても被害者の2人の妹さんが実名で日本のやり方に異議の声を上げたので、マスコミも取り上げたし、一般市民も関心を持ったからという。やはり当事者の声は強く人々に響くのだろう。多分、残された遺族が、だんだんとこれは個人的な問題ではないと気づき、公に解決する必要性に気づいたのではないか。それは大事なことと指宿さん。

◆クルド人(難民)の問題も特徴的にある〜日本生まれのハヤト君の悶え

マヤちゃんのボーイフレンドとして登場するハヤトくんは仮放免なので、入管の許可をもらわなくては今住んでいる県境を越えることが出来ない。それを知らないマヤちゃんは、躊躇する彼を説得して県境を越えて遊びに行く。また彼がモデルにスカウトされたと、素直に喜び友だちに言いふらしたりしている。移動の自由がないことをはっきり説明できないハヤト君は、彼女を避けていく。マヤちゃんは後に規制がさまざまにあることを彼の担当弁護士から聞くことになる。

◆会場の感想・質問から

〈1〉ドラマに「ご主人のフルネームを……」と聞かれる裁判シーンがあり、ドキッとしたが……
指宿: あれは実際に「アルアル」なんですと。スリランカ人の名前は長くてなかなか覚えられない。だからニックネームで呼び合う。それが「偽装結婚」では?と突くきっかけになる。現場経験から出てくるセリフです。

〈2〉裁判でどれくらい勝つのか?
指宿:入管の裁量権がとても大きく勝訴するのは大変。50件ほどかかわって4%の勝率だが、それでもかなり高い方である。

〈3〉小説では、マヤちゃんがこれから生まれてくるきょうだいに説明するスタイルにな っているが?
中島:内容がとても難しかったので、マヤちゃんが誰かに説明する形しかなかった。

◆5ミニッツ ジョニーH
スリランカの誰でもが唄える童謡「金色の蝶」を原語と日本語訳と替え歌で。

◆お知らせ うしろとワカメ
今回の冒頭と終わりの「お知らせ」コーナーは、後呂良子さんと新スタッフの大場ひろみさん(ワカメ)が担当した。

*次回レイバーネットTVは9月27日(水)「尾澤孝司裁判判決」19時半


Created by staff01. Last modified on 2023-09-29 22:30:48 Copyright: Default

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