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毎木曜掲載・第262回(2022/7/14)

食べ物の変遷から時代が見えてくる

『シュウマイの本』(シュウマイ潤 著、産業編集センター)評者:根岸恵子

 暑い日が続きます。食欲が減退し、ヒィヒィと日々を過ごしているあなたに、おいしいシュウマイをお届けしたくて、この本を紹介します。

 シュウマイはちょっとかわいくて、それでいてちょっとすましていて、決して私たちを裏切らない。かみしめるとガツンと肉汁が口中に広がる大きなシュウマイ。小ぶりで一口サイズのシュウマイは味がマイルドで飽きが来ない。薄皮で海鮮を素材にしたおしゃれで高級感たっぷりの新しいシュウマイ。実はシュウマイは奥が深い。

 著者のシュウマイ潤さんとは、新宿ゴールデン街で知り合った。もともと変わり者の多く集まる界隈、一癖も二癖もありそうな輩のなかで潤さんは目立っていた。シュウマイに固執しとことんまで追求している。なんでシュウマイなん?と思う人も多いだろう。潤さん曰くジョージ・マロニーの「そこに山があるから」という、そんな感覚に近いという。シュウマイに魅かれ、3年間で食べ歩いたシュウマイは200種類以上に及ぶ。それを文化人類学的手法で、フィールドワークをもとに分類しデータベース化した。そこから見えてきたのは、シュウマイの文化的、歴史的な背景と、支え続けた中華料理屋とシュウマイにこだわった会社、それからもちろん庶民の存在。

 この本ではシュウマイの歴史を、若手お笑い芸人を第7世代と呼ぶのに倣い、シュウマイの黎明期から新世代シュウマイまでを、7つの世代に分けて解説している。

 誰もが漠然と信じているように、シュウマイはもともと中国の食べ物である。シュウマイは点心と呼ばれる小麦粉を練って作った皮に包まれた食べ物の一つだが、その歴史は古く隋の時代にさかのぼる。シュウマイが名物となったのは清の乾隆帝の時代。日本には明治以降中国の人が日本に渡ってくるのと同時に食べられるようになったらしい。そう考えればシュウマイから日中関係が見えてくる。私たちの食文化は決して独自に発展したわけではない。食が輸入されると同時に多様化していく文化そのものを垣間見ることができる。

 明治以降、横浜、神戸、長崎が開港され、その地に中華街が作られた。そのなかでシュウマイの存在がいち早く確認できたのは、もちろん横浜だ。いまでも横浜名物の地位は揺るぐことがない。しかし、当初シュウマイの味は基本的に中国のものだった。それが第2、第3世代を経て、「日本的シュウマイ」が誕生し、それは、「本格派中国的シュウマイ」と「町中華シュウマイ」の分化を生み、町中華シュウマイは日本の庶民の味として定着していった。

 町中華とは『町中華とはなんだ』(立東舎)によると「個人経営の大衆的中華料理店」のことだ。かつてはどこの町にもあった大衆食堂。いまではファミレスのチェーン展開などによって、閉店を余儀なくされあまり見なくなった。町中華のシュウマイは「和食的な優しさが滲み出ている。存亡の危機にある町中華のシュウマイをなんとか残そうと思うなら、とにかく食べに行く。急いで味わうべし!と潤さんも書いている。

 さて、時代は流れ、シュウマイは食べに行くものから、おうちでお手軽総菜に変化していく。家族の形態も変わり、一人暮らしが増え、共働きが当たり前になった今、食べ物は作るものから買って帰るものとなった。デパートの総菜売り場には旨そうなシュウマイ、スーパーの冷凍食品の定番としてもシュウマイが並ぶようになった。

 そしていま、シュウマイは新たなご当地食品としてその地位を築きつつある。ブランド化し、独特な形や味のシュウマイが次々売り出されている。第6世代のシュウマイだ。シュウマイは時代の趨勢に乗っかった。続く第7世代のシュウマイは未来のシュウマイだ。シュウマイ新時代の幕開けである。こうして何気ない小さな食べ物でも、その変遷を見ていくと時代が見えてくる。シュウマイ一つから世界が見えるのだ。

 潤さんはさらに飛躍して、潤さん独自のシュウマイの世界を探して歩きつづけるだろう。この本の中には、潤さんが歩いて食べてきた多くのシュウマイのお店が紹介されている。ぜひガイドブックとしても利用して、食べに行ってください。シュウマイに関するお役立ち情報も満載だし、おいしいシュウマイの食べ方もある。ああ、シュウマイ食べに行きたいなあ。

 駅前の飲み屋がコロナで閉店し、2年間もベニヤで覆われていた。最近通りかかったら、新しくオープンするという。そのメニューに変わり種のシュウマイがいくつも書かれていた。ちょっとうれしくなった。今度時間があったら、シュウマイで一杯やりましょう。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人、志水博子、志真秀弘、菊池恵介、佐々木有美、根岸恵子、黒鉄好、加藤直樹、わたなべ・みおき、ほかです。


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