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LNJ Logo 高井弘之 : 「朝鮮ミサイル問題」とは「アメリカ問題」である
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投稿者 : 高井弘之

「朝鮮ミサイル問題」とは「アメリカ問題」である ―政府・メディアの「脅威の演出」に扇動されないために―
十分な「加害」実績と具体的・現実的危険がある米軍・オスプレイの低空飛行に対してではなく、はるか宇宙空間を飛翔する弾頭なしのミサイルの試射をもって、日本列島の住民が危険だと政府が避難指示を出し、マスメディアが大本営報道をする。この全く「虚構の危険」に対して北海道などで鉄道が運休し、学校が登校を遅らせる一方で、東京朝鮮中高級学校の生徒は下校中の車内で日本人から暴言を吐かれ、足を踏みつけられた。この日の状況は、朝鮮学校の生徒にとってこそ、「現実の危険」だったのである。 このような状況が現出する大きな原因に、ミサイル実験の大前提として存在する「米朝関係の歴史と現実」がメディアで全く語られないこと、そして、平和外交を求める野党さえ、この「歴史と現実」を全く踏まえない主張に明け暮れているという深刻な状況がある。 そこで、この「ミサイル問題」を考えるに際し、最低限、認識しておきたいと私が考えることを、 以下、簡単に記しておきたい。 *米朝は戦争の「一時的」休止状態* まず押さえておきたいのは、アメリカ(合衆国)と朝鮮(民主主義人民共和国)は、1953年の朝鮮戦争「休戦協定」締結以来ずっと休戦状況にあること、つまり、いまなお戦争の相手国―敵国同士の関係だということである。 その朝鮮戦争(1950年〜)において、米国は朝鮮に対し、日本で生産されたナパーム弾などを使った激しい空爆によっておびただしい数の人びとを殺戮しただけでなく、以後、農業などの生産活動ができないように、ダムや発電所も徹底して爆撃・破壊し、全土を焦土化させた。さらに、核の使用計画も何度も浮上し、 沖縄から発進したB-29爆撃機が朝鮮上空で原爆投下のシミュレーション飛行を行い、「擬製」原子爆弾を投下したこともあった。〔注1〕 「休戦協定」後も、アメリカはその条文を守ることなく、韓国での自らの軍備の増強を続け、58年には核兵器を配備し、その後もその数を増やし続けた。そして、朝鮮を攻撃する意図があることを公式に表明しながら、朝鮮に対する核攻撃を前提にした米韓合同軍事演習を繰り返し、現在に到っている。 一方、朝鮮は、これらへの対抗措置をとりながら、「休戦協定」以降一貫して、これを平和条約に変え、国交を正常化することを求め続けているが、アメリカは応じて来なかった。 *米国に対する「防御―抑止力」としての核開発* 朝鮮が核開発に力を入れ始めた理由がよくわかる事例の一つとして、イラクのことを記しておきたい。周知のとおり、大量破壊兵器に関する米国主導の国連査察を受け入れ、それが存在していないことが確認されたあと、イラクは米国に侵略・占領され、フセイン大統領は殺害された。 この戦争前、米国からイラク・イランと共に「悪の枢軸」と名指され(2002年1月・年頭教書)、「核兵器による先制攻撃対象国」(同9月「国家安全保障戦略報告」)とされていた朝鮮政府は、当時、 以下のような立場を明らかにしている。 「国際社会の一致した反対にもかかわらず、米国によって強行されたイラク戦争は、国と民族の自決権を守るためには唯一、強力な物理的抑止力がなければならないという教訓をすべての主権国家に与えている。」 (朝鮮中央通信、2003・4・24) 「米国が敵対政策を放棄せず、朝鮮に対する核攻撃の威嚇を継続するなら、我々も核抑止力を保有するしかない。」 (朝鮮中央通信、2003・6・9) また、米との交渉によって「核開発放棄」をした反帝国主義国家・リビアは、その数年後の2011年、米・NATOの侵略を受け、最高指導者・カダフィ大佐は殺害された。これは、金正恩氏が朝鮮国家のトップの地位に就く二か月前の出来事である。 *米朝の「非対称的」対立構図* 90年代から始まるいわゆる「朝鮮半島核危機」以降、米朝の間では大きな合意が二度、成立している。「朝米基本合意書」(1994)と「第四回六者協議共同声明」(2005)である。どちらの場合も、「朝鮮の核開発の中止」と「アメリカが朝鮮を核攻撃(侵略)しないこと」とがセットの形で妥結している。〔注2〕 米国の約束不履行によって実現はしなかったが、これらの「合意」は次のことを明らかにしている。それは、互いに攻撃の可能性があるのではなく、アメリカの側にその可能性があり、朝鮮の側がその「脅し」を受けているということである。たとえば、米ソの間での軍事合意だったなら、相互不可侵条約とか相互に同じ質量の軍縮をする条約となったはずである。 しかし、米朝間における合意内容は、双方が互いに軍縮したり、不可侵の保証をしたりするものではない。朝鮮が核軍備の開発を中止することに対してアメリカが行うことは、自らの核開発の中止ではなく、自らの核兵器を朝鮮に対して使用しないことの保証なのである。互いに攻撃・侵略の可能性があるのではなく、アメリカの側のみにその可能性があるからこそ、このような合意内容になるのである。 たとえば軍事演習にしても、常にアメリカが朝鮮のすぐそばで行なっている一方、朝鮮がアメリカのすぐ近くで行なったことはない。 つまり米朝対立は、小国を飲み込もうとする側と断固として飲み込まれまいとする側の、本来、「対」ではないところの非対称・非対等な「対立」関係なのである。 *休戦協定を平和条約へ、そして、米朝国交正常化を!* これらの「合意」時と、トランプ政権後半の「米朝交渉」時期を除き、米国は一貫して、朝鮮への「経済制裁」緩和や国交正常化へ向けた自らの側の措置を同時的に行うことなく、朝鮮が先に核開発を中止することをのみ、一方的に要求し続けて来た。 しかし、休戦中とはいえ、戦争当事国として軍事対峙している一方の国だけに「武装解除―抑止力の放棄」を要求するならば、要求する側による確実な「不可侵の保証」が最低限の義務として存在しない限り、そのような「要求」が合意へと至ることは在り得ない。 つまり、いま、「北朝鮮の脅威」として騒がれている問題は、アメリカが朝鮮を決して攻撃しないことの確実な保証が存在する状況をつくり出すことによってこそ始めて解決される、いわば、「アメリカ問題」なのである。 この「問題」は、休戦協定を平和条約にかえ、米朝国交正常化を行うことによってこそ解決できる。そして、その「きざし」が見えるたびに、その芽を摘み取ろうと「妨害」して来た日本政府にそれをさせないことこそが重要な課題である。私たちは、このことをしっかりと認識しておかなければならない。 〔注1〕 アメリカ上院公聴会(1951・6・25)では、当時、次のような証言が行われている。ステンニス上院議員/・・ということは、実際において、北朝鮮は完全に破壊されたということだね。あそこの都市はもう形をとどめていないということだ。オドンネル将軍/はい、その通りです。結局はそんなことになったのです。・・朝鮮半島全体が灰塵に帰したということです。破壊は完璧なものです。建物とかいう名に値するものは何ひとつ残っておりません。〔略〕 ラッセル委員長/・・君は本当に軍人らしい立派な軍人だよ。アメリカの国民は君を誇りに思うだろう。 〔注2〕 たとえば、『第四回六者協議共同声明』(2005・9・19)は、以下の合意事項を、その核心に置いている。 「朝鮮民主主義人民共和国は、すべての核兵器及び既存の核計画を放棄すること・・を約束した。/アメリカ合衆国は、朝鮮半島において核兵器を保有しないこと、及び、朝鮮民主主義人民共和国に対して核兵器又は通常兵器による攻撃又は侵略を行う意図を有しないことを確認した。」

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