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太田昌国のコラム : 英女王即位70周年記念行事を見つめる一視点 | ||||||
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英女王即位70周年記念行事を見つめる一視点
ケン・ローチの一連の映画の登場人物になるような人びとは、これらの社会層とどう重なるのだろう。まったくかけ離れたものなのだろうか。マーガレット・サッチャーが長期政権の座にあって、新自由主義政策が吹き荒れた時代を背景とした映画だったろう、鉄工所を解雇されて進退窮まった中年の男たちが、男性ストリップ・ショーを開いて日銭を稼ぎ、観客席の女性たちが「熱狂的な」拍手を送る『フル・モンティ』(1997年)とか、ストライキでたたかう炭鉱労働者への支援カンパ活動を行なったレズビアン・ゲイの人びとを、当の労働組合が受け入れないなかで、どんなふうにして両者の「共闘」が成立したかの過程を実話に基づいて描いた『パレードへ、ようこそ』(2014年/写真)などには、古の大英帝国に今なお実在するのであろう、こころ温かでたくましい、魅力的な庶民が〈群衆〉として登場するが、これらの人びとと、女王の即位70年を祝賀する人びととはどの程度まで重なり合うものなのだろう。
こうして「植民地帝国」という視点を導入すると、「即位70周年祝賀」行事の見え方は、本来ならば異なったものにならざるをえない。この点については、「しんぶん赤旗」に先立って、5月30日付け「毎日新聞」の「女王陛下の70年」と題する記事がある。在ロンドンの篠田航一記者の手になるこの記事は、「英連邦とアフリカに深い理解」を持つ女王が、当時なおアパルトヘイト(人種隔離)政策を続けていた南アフリカの問題に関心を持たないサッチャー首相に、「配慮がない」として失望していたと描き出している。その上で、「君臨すれども統治せず」というエリザベスの気構えや、「自分の祖先が関わってきた帝国主義時代の負のイメージに対する責任感」が強調されるのだが、それは、前皇后・美智子に関わっての、日本メディアの報道の在り方と重なってくる。「属国」に「君臨」し得た旧植民地帝国としての過去も問わず、「王室制度」の存在妥当性も問うことなく、それらの過去を当然の前提として、現在だけを描き出すこと――その態度は、歴史の真実を隠蔽することに力を貸すだろう。 上記の「しんぶん赤旗」は旧植民地からの声を伝えている。5月31日付けの米国AP通信ですら「英国の旧植民地では、多くの人々が彼女(エリザベス)を、いまなお傷跡を残している帝国の過去にとっての中心人物とみている」と伝えている。ケニアの漫画家、パトリック・ガタラも「帝国が数百万人にもたらした恐怖の記憶は、(祝賀の)語りの中にはほぼ全く存在しなかった」と指摘する。ケニアは、1952年から60年にかけて、独立闘争と英国植民地当局による過酷な弾圧を経験しているだけに、ガタラの次の言葉も響く。「ケニア人に彼女(エリザベス)の名前でもたらされた恐怖について、認識、謝罪、償いをする気は、彼女にも、その子孫にもない」。 こうして、旧植民地帝国に住む「国民」が「王を戴く」城内平和を謳歌するとき、そこに潜む欺瞞を突くのは、常に、被植民地からの眼差しである。日本の皇室報道に対しても、この視点からの批判的な読み替えを行ない続けたいと思う。 Created by staff01. Last modified on 2022-06-10 12:42:20 Copyright: Default |