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毎木曜掲載・第159回(2020/5/21)

揺さぶられる日々からの脱出

『コロナの時代の僕ら』(パオロ・ジョルダーノ、飯田亮介訳、早川書房、2020年4月刊、1300円)評者:志真秀弘

 家にいながらコロナの日々に揺さぶられている。外出もままならないし、まして遠出など思いも寄らない日常で、いったいこの先どうなるのだろうかと、考え込まずにはいられない。3.11のときに感じた社会が崩れながら同時に変わりそうな感じとでもいうのだろうか。そんな時サンフランシスコ・和美の「米国・コロナレポート」や飛幡祐規の「パリの窓から〈監禁日誌〉」はかの地の息づかいを感じさせ、視野を広げてくれる。そしてこの本はイタリアのコロナの日々を伝える。

 著者パオロ・ジョルダーノは今30代後半のイタリアの著名な作家で、20代のときに書いた『素数たちの孤独』は200万部をこすベストセラーになった。新型コロナウィルスがイタリアで広がり始めた2月下旬、かれの記事「混乱の中で僕らを助けてくれる感染症の数学」が現地の新聞に載り、評判になる。この文章にそのあと書かれたエッセイを加え3月末に原書が刊行され、4月末には日本で出版された。

 すでに何人もの人がこの本の魅力を語っている。たとえば、家にいるのは感染者が感染させる人の数(基本再生産数)を抑えて、その数値を1未満にするためだと、ビリヤードにたとえて説明する時の明解さ。それは、人類という共同体への想像力を働かせることの必要を促すとかれは説く。ウィルスをめぐってフェイクニュースが駆け巡る。戦争にたとえてみせる「詐欺」的な言葉が氾濫する。ウィルスの由来を中国だと決めつけて、日本人旅行者を攻撃するような風潮も生じる。「アジア人の顔を見分けることができぬ僕らイタリア人」とジョルダーノも書いているが、問題はさらに先にもある。 ウィルスは環境破壊が生んだ「難民の一部だ」。今回のパンデミックの原因は軍事実験などではなく「自然と環境に対する人間の危うい接し方、森林破壊、僕らの軽率な消費行動にある」。

 それを考えて忘れずに準備することを強調しながら、本書は終章に進む。この「あとがき コロナウィルスが過ぎたあとも僕が忘れたくないこと」が断然いい。それは私に昔みたイタリア映画―『鉄道員』『ひまわり』『わが青春のフローレンス』『ニューシネマパラダイス』など―人びとのたたかいがあり哀しみがあった映画たちを思い出させた。

 いつかはこのパンデミックも終わる。条件付き日常と警戒が交互に変わり、倒産や失業など甚大な損害は残り広がり、復興が始まる。アメリカもフランスもイタリアも日本も同じだろう、そのとき。

「支配階級は肩を叩きあって、互いの見事な対応ぶり、真面目な働きぶり、犠牲的な行動を褒め讃えるだろう。自分が批判の的になりそうな危機が訪れると、権力者という輩はにわかに団結し、チームワークに目覚めるものだ。一方、僕らはきっとぼんやりしてしまって、とにかく一切をなかったことにしたがるに違いない。到来するのは闇夜のようでもあり、また忘却の始まりでもある。/まずはめいめいが自分のために、そしていつかは一緒に考えてみよう。僕には、どうしたらこの非人道的な資本主義をもう少し人間に優しいシステムできるのかも、経済システムがどうすれば変化するのかも、人間が環境との付き合い方をどう変えるべきなのかもわからない。実のところ、自分の行動を変える自信すらない。でもこれだけは断言できる。まずは進んで考えてみなければ、そうした物事はひとつとして実現できない。」

 イタリアの人びとのたたかいの歴史が流れ込み凝縮した素晴しい詩であり、世界の人びとに呼びかける印象的なラストシーンといえないか。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美、根岸恵子、杜海樹、ほかです。


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