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LNJ Logo 〔週刊 本の発見〕『ゴッドドクター 徳田虎雄』
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毎木曜掲載・第152回(2020/4/2)

せめて「生命だけは平等だ」

『ゴッドドクター 徳田虎雄』(山岡淳一郎 著、小学館文庫、730円) 評者:大西赤人

 世界は、新型コロナウイルスに揺さぶられている。日本でも感染者数はジワジワと増え、専門家、医療者の多くからは、東京はじめ大都市における感染爆発、ひいては医療崩壊は不可避と指摘されつつある。日本政府による――近々の「布製マスク二枚配布」に至るまで――あまりにも拙劣なこれまでの対策に関して不満や疑問を書き出したらキリがなさそうだが、それは本欄の趣旨とは異なる。

 今回ばかりでなく、未知の病、とりわけ致死力を持つ感染症に立ち向かう医療者の勇気は並大抵のものではない。目の前の患者を診断・治療・介護することにより、自らも感染し、命を落とすかもしれない中で、その危険を受け止める。それは、医学・医療の究極の一面であり、「聖職」という言葉や「ヒポクラテスの誓い」を想い起こさせる(ただし、後者については、現代においてはむしろ批判されがちな牋綮佞離僖拭璽淵螢坤燹疉禪⊆腟銑瓩両歡Г箸いΩ方も多い)。

 当然、医師であろうと看護師であろうと、働いて対価を得る数多《あまた》の職業の一つに違いないものの、なにがしの救いを求める患者という弱い立場からは、過剰に相手を神聖視し、期待を抱いてしまう。大西は、生まれつきの体質で病院との縁が絶えないけれども、まだ十代の頃、入院中に若い女性看護師と雑談していて、何かの拍子に深い考えもなく燹敕時の呼び方で】看護婦さんって、やっぱり「奉仕」する仕事ですよね瓩噺にしたところ、彼女に突然狢臉招もそんなふうに思っているんだね!瓩筏たА圓韻靴》ばまれ、むしろ面食らったことなども浮かんでくる。

 それと同時に、人の命をも左右する医者や病院、あるいは薬などに課された重要な使命とは裏腹に、それらが持つ金にまつわる生臭さ、胡散臭さというのも、多くの人に共通する感覚だろう。『ゴッドドクター 徳田虎雄』は、2017年に発行された単行本『神になりたかった男 徳田虎雄』(平凡社)を元に、著者が「まるで新たに書き下ろしているような感覚」で加筆、改稿を行なったという文庫版である。2019年時点で病院数71、職員数33340人、年間入院患者数679万人、同外来患者数839万人、関連施設を併せた年商は4600億円という巨大民間病院グループ「徳洲会」の創始者である徳田。その存在はもちろん知っていたが、金に物を言わせて医療業界に旋風を巻き起こし、出身地の奄美(徳之島)で札束飛び交う選挙戦の末に国会議員にのし上がった怪しげな人物……という程度の――言わば偏見に満ちた――大雑把な印象しか持っていなかった。

 2002年、徳田は難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症。その後、病勢が増して話すことが不可能になったものの、文字板を目で追うことでコミュニケーションを保ちつづけ、現在も「徳洲会」系列病院の特別室で闘病生活を続けているという。従って、山岡は、徳田自身に聞くことは出来ず、周辺の人々――中でも、同じ徳之島出身で「徳洲会」のナンバーツーと呼ばれた盛岡正博への取材が主体になったものと思われる。

 盛岡は、京大医学部在学中は全共闘運動に挺身。卒業後は精神科医となって病棟開放化運動に携わり、米国での勤務後、徳田に乞われて「徳洲会」に加わる。そして、その成長期を表からも裏からも支えたが、1994年に徳田と袂を分かってからは、倏逝式緡鼎良祗瓩噺討个譴深齋扈唹谿綮佞望靴れ、佐久総合病院に赴くという徳田に勝るとも劣らない波瀾万丈、興味深い人物だ(現在は、学校法人「佐久学園」理事長)。「……そろそろ遺言のひとつも残しておくかな」とインタビューに応じたという盛岡に関して、山岡の筆致は幾分甘めな嫌いはある。

 徳田の決め台詞は「生命だけは平等だ」だったそうだが、実はその前に「せめて」が添えられていたという。

 「世のなか、生まれの違いは変えられん。頭の良し悪しも仕方ない。貧富の差はあるだろう。だが、せめて、生命だけは平等だ」

 自分の育った徳之島に病院を建てたい、島の人々に、日本中、世界中の同じような境遇の人々に十分な医療を与えたいという素朴な願いが徳田にあったことは間違いなく、彼がその「理想」を「現実」の物として行くパワーに共感し、惹かれた人々は多かったのだろう。しかし、そのために徳田は、強大な「政治」の力に頼ろうとした。本書の中には、金丸信、二階堂進、小泉純一郎、安倍晋三など、特に自民党の実力者によって一喜一憂させられる痛々しい徳田のありようが描き出されている。

 徳田一族との直接的な関わりはなくなった「徳洲会」グループだが、今でもその理念として、「生命だけは平等だ」が掲げられている。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美、根岸恵子、杜海樹、ほかです。


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