本文の先頭へ
LNJ Logo 「名ばかり個人事業主」の実態と課題に迫る/脇田滋編著『ディスガイズド・エンプロイメント』
Home 検索
 


「名ばかり個人事業主」の実態と課題に迫る〜脇田滋編著『ディスガイズド・エンプロイメント』

北健一(ジャーナリスト)

 ご恵贈いただいた脇田滋編著『ディスガイズド・エンプロイメント—名ばかり個人事業主』をようやく読めました。本書はホットな現場報告(第1部)と国際的視野からの脇田先生の論考(第2部)からなっており、新型コロナ禍の下ますます重要になっている「雇用類似」保護の社会的議論に重要な一石を投じる1冊です。

 「雇用類似」をめぐっては、学術書や研究報告は別とすると、規制緩和派からの発信が先行してきました。書籍でいえば、代表的な例が大内神哉『会社員が消える』(文春新書、2019年2月)です。規制緩和論ではない、労働者の権利を拡充するスタンスでこの問題を考える本の登場が待望されていましたが、本書はそれに正面から応えたものになっています。

 何といっても興味深いのが第1部に収められた12の現場報告です。ウーバーイーツは、ユニオン結成に対抗するように「傷害見舞金」制度を作りましたが、見舞金を申請するとアカウントを停めると言われる(場合がある=申請妨害)ことや配達員への評価の問題点が興味深かったです。丸八真綿販社で、社員を「個人請負」に切り替え、働くと「赤字」になるなどありえないほどヒドい。東電3次請・電気メーター交換の仕事では都労委命令を無視し仕事を減らし組合員を干しあげる仕打ちに憤りを感じます。スーパーホテル副支配人の手記も驚きの連続ですが、とくに出産制限には言葉を失います(男女ペアでホテル運営をさせる手法はコンビニFCとも共通面を感じます)。俳優の働き方も、特有の拘束性・従属性がリアルに描かれますが、「競争法(独禁法)の適用除外」という要求も重要な点です(日本では逆向きの議論があり、それはそれで一理あるのですが、私もこの項の筆者と同意見で「労使関係による競争制限」こそめざすべき基本方向と考えています)。

 音楽家の話ではユニオンが労働協約を結んでいることやドイツのKSK(芸術家の社会保障制度)に勇気づけられます。ヤマハ英語講師は雇用化にあと一歩という到達もさることながら、そこに至る過程と、子どもたちのためにもあきらめずに行動するという想いに打たれます。ヨガインストラクターも知らない話ばかりでしたが、相談に行った際の労委の対応とそれを受けた組合結成が感動的。クリーニングは、のれん分けに近かった「オーナー制」が偽装雇用に変質する過程が興味深く(なお、75ページにコンビニ店舗は「オーナーの所有」との記載がありますが、これは初期に多かった、セブンでいうAタイプで、現在はクリーニング・オーナーと同じく土地も店舗も持たない方=セブンのいうCタイプ=が多数です)。美容師・理容師でも、丸八真綿販社と同様、雇用を「業務委託」に置き換える動きが広がっているようですが、当事者には「労働契約よりも業務委託契約の方がよいと考えている人が多いのも現実」だとか。考えさせられます。コンビニも直面する課題が網羅的に描かれ「私たちを守る省庁がありません」という政治の課題が示されます。公取委も動かした楽天出店者の要求も喫緊の課題と思いました(これは競争法が正しく適用されるべき分野でしょう)。


*レイバーネットTV145号放送でも「個人事業主」問題を取り上げた・アーカイブ録画

 第2部では、脇田先生が国際基準(おもにILOの2006年「雇用関係」勧告)を踏まえ労働者性判断枠組みの変更を骨太に説いています。私は、厚労省検討会による雇用類似保護の検討はプラスに評価していますが、そこで外されているのが「労働者性」(労働法、とくに労基法上の労働者の範囲)の見直しです。戦前、戦後はわりと広かった労働者性が1985年労基研報告で狭められ、時代に合わない狭いモノサシがその後ずっと使われてきたのですが、第2部はそれをどう変えていくかを主題に、ILO勧告、米国カリフォルニア州の裁判と立法、韓国の労働政策という参照軸を示し、日本での「運動の課題」を提起しています。全体としてとても参考になり、またこの課題解決に関わる身として励まされました。

 その上で、今後の課題として考えたいことの1つは、本書第1部で取り上げられた「雇用によらない働き方」の分類です。私見では、丸八真綿販社、スーパーホテル支配人、電気メーター交換技術者、ヤマハ英語講師、ヨガスタジオ講師、クリーニング店「オーナー」、理容師・美容師のように 峪愆命令も時間・場所拘束も強く、現行法制度でも労基法上(ないし労契法上)の労働者とすべき働き方」(ILOのいう誤分類)、ウーバーイーツ配達員、俳優・音楽家など芸能実演家のように◆峺醜塰‐紊蕨基法上の労働者とまでは言い難いが雇用に近く、労働法・労働保険上の保護を考えるべき働き方」、コンビニオーナー、楽天出店者のように「現行法を前提とする限り労基法・労契法等の保護にはなじまないが、労組法等適用など対等交渉ルールの整備と併せ公正取引を確保する法整備が求められるもの」に分類し、それぞれにマッチした要求と対策を考えるのがいいのではないでしょうか。そうするとタイトルの意味である「偽装雇用」は、,砲魯疋鵐團轡磴任△討呂泙蝓↓△砲發△訥度あてはまりますが、はやや違った課題となります。

 もう一つは、ここ数年の日本での「綱引き」の理解です。第2部では、「安倍政権が狙う危険な『雇用によらない働き方』の拡大」に厚労省・雇用類似検討会も含めていますが、そこはちょっと違う理解です。検討会のもとになっている「働き方改革実行計画」にも非雇用拡大の記載はありません。検討会の具体的議論は、労働者性を扱わないなどの制約はあるものの前向きに位置づけたいところです。また、建設アスベスト訴訟の一連の司法判断のうち「一人親方」救済を命じた内容と、ハラスメント防止法の国会附帯決議および厚労省指針は、第1部に登場する多くのユニオンの頑張りと併せ、この課題での日本での到達を示しています。「国際基準」とともに「日本での到達」も踏まえ、労働者性の見直しを迫っていきたいと思います。

 何より、「日本の労働組合に求められるのは、広く労働者を捉えて、その労働者全体を代表して活動し、交渉し、場合よっては争議行為でたたかうことです」(138ページ)という指摘に強く共感しますし、それをどう具体化するかを考えたいと思っています。広く読まれ、議論され、現場で活用されることを念じています。

*2020年7月10日発行・学習の友社・1400円+税


Created by staff01. Last modified on 2020-07-26 14:00:00 Copyright: Default

このページの先頭に戻る

レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について