太田昌国のコラム:そして、その間に、ゼロ歳児は8歳になる | |||||||
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そして、その間に、ゼロ歳児は8歳になるかつて、1965年の日韓条約締結をめぐる国会審議について調べていて、新聞の縮刷版や関連する単行本ではわからない点が生じ、議事録に当たってみた。発言の要旨を手短かまとめた新聞記事や書物では理解できなかった点が、なるほど、このようなやり取りだったのかと腑に落ちたことがあった。前世紀末に行なわれたオウム真理教最高幹部の裁判でも、公判の翌日には紙面を2面ほども使って詳報していた毎日新聞取材班がまとめた公判報告書(単行本)では、どうしても理解できない箇所があって、公判調書や弁護団長の手記と照合してみた。すると、どんなに詳しい記事のようではあっても、所詮は、担当者の主観に基づいて発言要旨がまとめられる以上は、実際の発言との間には、無視し得ぬ「落差」が生まれる場合もあることを痛感した。公判で問われていることの、どの面を重視し、どこを無視して報道するかという判断もまた、現場で取材している記者とデスク次第でいかようにも変わり得ることも実感した。被告の麻原氏の個性が強いだけに、記者は法廷での麻原氏の様子を克明に描写するぶん、検事・弁護士・証人の言葉のやり取りを軽視したと見受けられた。 こんなことを思い出したのは、ほかでもない、10月10日付けの朝日・毎日両紙を読んで、不審に思った点があったからだ。両紙はそれぞれ、首相が10月9日(朝日紙は)「朝日新聞などの」、(毎日紙は)「毎日新聞などの」インタビューに応じ、というリード文で、インタビュー記事をまとめている。内閣記者会とのオフレコ・パンケーキ朝食会でもなく、記者会見でもなく、数社を相手にしたらしいインタビューとは何か。毎日紙には、9日のインタビューは毎日・朝日・時事通信の合同で実施したとある。3社以外の内閣記者会常勤社(19社)に加え、地方紙・外国プレス・フリー記者のうち抽選で選ばれた10人が傍聴したとの付記もある。前首相は、自分に「好意的な」読売新聞と産経新聞との「独占」会見を好み、また、露骨な排外主義を前面に押し出す『正論』『月刊Hanada』『WiLL』誌にも好んで登場したものだが、この特定数社が合同で実施した首相インタビューなるものが、「公平さ」を欠くことは明らかだ。パンケーキ朝食会には欠席した朝日新聞が、この方式を主体的に選んだのは、なぜか。それを知りたい。そして両紙とも、インタビュー要旨を一問一答形式で載せているが、例の学術会議メンバーの人事をめぐって、次のような箇所がある。(1・2番目の問答は、表現上の小さな差はあるが、両紙に共通。◆は首相の発言) 「――最初に学術会議が推薦した会員候補案を観たのはいつで、誰からの報告か。 首相がこの通り発言したのであれば、学術会議推薦リストから6人を削除したのは誰で、いつの段階だったのかを、記者はなぜ聞かなかったのだろうか? それを聞かずに、「Go to トラベル」についての質問にすぐ乗り移った、ジャーナリストとしての記者の感度が理解できない。 奇特なひとがここで現われる。フランスはリベラシオン紙の特派員、西村カリンさんが質問権のない、いわゆる「別室」での傍聴に参加し、インタビュー全体の音声を録音し、SoundCloud上で公開した。それに気づいたライターの望月優大氏が、ご苦労にもすべてを文字起こしして、同氏のフェイスブック上で公開した。 → https://www.facebook.com/hiroki.mochizuki 望月氏は移民に関わるさまざまな情報発信をしており、日ごろから注目している。望月氏には耐えがたいほどに「虚しい」ものであったろうこの全文起こしの作業から、何が明らかになるか。新聞に載る発言要旨の記事からも、その無内容ぶりは十分に伝わってくるが、それでも、記事は少しでも読者が理解しやすいように、首相の言葉を「まるめる」。前首相の支離滅裂な国会答弁を、NHKニュースがどこか「辻褄があってるかの」ごとく編集したように。そのことが、無慈悲なまでに、暴露される。そこに広がっているのは、ジャーナリストも加担しての、底なしの虚無だ。語るべき言葉を持たない人物が首相の座に就いている政治は、前任者を引き継いで間もなく8年目を終える。生まれたての赤ん坊は、もう8歳になる。 Created by staff01. Last modified on 2020-10-11 20:24:45 Copyright: Default |