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LNJ Logo 山口正紀のコラム:憲法21条を踏みにじる学校・警察・裁判所一体の権力犯罪
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●山口正紀の「言いたいことは山ほどある」第5回(2020/7/25 不定期コラム)

憲法21条を踏みにじる学校・警察・裁判所一体の権力犯罪――ビラ配り高校生の不当逮捕・勾留


*高校生Iさんを逮捕・勾留している碑文谷署

 7月8日朝、東京都目黒区の公道で、高校の水泳授業のあり方を批判するビラを配っていた高校生が近隣の中学校副校長に「公務執行妨害の現行犯で私人逮捕」された。レイバーネットに掲載されたレポートを読みながら思った。この国は今、憲法を尊重、擁護すべき立場にある公務員=教員、警察官、裁判官が結託して憲法を踏みにじるようになった。長引くアベ政治の下、もはやまともな人権感覚はマヒしてしまったのか……。

 レイバーネットの記事、映像によると、「事件」の概略はこうだ。8日朝、目黒区立第九中学校近くの路上で、高校生Iさんが「寒くてもコロナ禍でもプール強行!」との見出しのビラを中学生に配っていると、同中の高橋秀一副校長がビラ配りをやめるよう言ってきた。近くの都立小山台高校の水泳授業を批判する内容だ。 前日もこの副校長からビラ配りの妨害を受けていたIさんは、「公道上でのビラ配りであり、何も問題はない」と抗議したが、副校長は執拗にビラ配布の中止を要求。そのうち校長も現場に現われ、ビラ配りをやめさせようとした。

 Iさんはその様子を記録しておこうと、スマートフォンで撮影を始めた。すると副校長は「肖像権の侵害だ」などと言いながら、スマホを取り上げようとした。副校長は「アイタタ」「スマホで殴られた」などと言い出してIさんの身柄を拘束し、警視庁碑文谷署に通報した。約20分後、署員が駆けつけ、Iさんは同署に連行・勾留された。

 逮捕の「体裁」は、「私人(常人)による公務執行妨害罪の現行犯逮捕」だという。勾留の「被疑事実」は、「被疑者は高橋(副校長)の右手を携帯電話機で殴打する暴行を加え、もって同人の職務の執行を妨害したもの」とされている。

 公安警察の実態を少しでも知る人は、「なんだ、これは。まるで転び公防じゃないか」と思うはずだ。被疑事実のない市民を何が何でも逮捕するため、公安警察官が「標的」の体にぶつかるなどしてわざと転び、「公妨」と叫んで同僚警察官に標的を逮捕させるでっち上げの手口。副校長はこんな公安の常套手段をいったい、いつどこで学んだのだろうか。

 そもそも、ビラ配りをやめさせることは、副校長の「公務」(校務?)なのか。現場は中学校の敷地ではなく、校門からも200メートル以上離れた公道だ。Iさんが中学生の登校を妨害した事実もない。


*逮捕・勾留に抗議する人

 この「事件」で問われるべきは、ビラ配りを妨害した副校長たちの行為であろう。憲法21条違反、表現の自由を侵害する人権侵害以外のなにものでもない。

 副校長らによるIさんの身柄拘束は、「私人(常人)逮捕」とされている。だが、これも常軌を逸した違法かつ重大な人権侵害だ。 私人逮捕は、「現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる」(刑事訴訟法213条)との規定に基づく。ただし、それには条件がある。犯人が現行犯人であること(同212条)、犯人が逃亡する恐れがある場合(同217条)などだ。その要件を満たさない私人逮捕は、逆に逮捕監禁罪や暴行罪に問われる。

 Iさんがスマホで副校長らの行動を撮影しようとした行為は、どう拡大解釈しても「公務執行妨害の現行犯」にはならない。副校長らのビラ配り妨害は「公務」ではない。「逃亡する恐れ」もなかった。現にIさんは現場にとどまっていた。

 副校長による身柄拘束は、「私人逮捕の要件」を満たさない。不当にIさんの身柄を拘束したものであり、刑法220条の逮捕監禁罪が成立する明らかな犯罪行為だ。

 高橋副校長に「私人逮捕」の手口を指南したのは、おそらく公安警察官だ。碑文谷署は、副校長の言い分を鵜呑みにし、でっち上げた容疑でIさんの身柄を拘束、勾留した。

 こんな学校と警察が結託した不当逮捕、人権侵害をチェックするのが、法の番人たる裁判所の本来の役割だ。ところが、東京地裁はIさんの勾留・勾留延長をノーチェックで認めた。そればかりか、Iさんに対する「勾留理由開示」の手続きで、学校・警察による権力犯罪・人権侵害を追認する共犯者になった。

 傍聴者のレポートによると、17日の勾留理由開示手続きは、悪名高い「地裁429号警備=弾圧法廷」で開かれた。私はこれまで何度も429号法廷を傍聴・取材してきた。

 傍聴者は、裁判所入り口、法廷入り口で2回にわたって所持品・身体検査をされ、バッグや財布、携帯などの持ち物を取り上げられる。法廷では、笑い声を洩らしただけでも退廷を命じられ、屈強な警備員に抱えられて裁判所構外に放り出される。レイバーネットではおなじみの「裁判所前の男」大眄菊鵑気鵑虜枷宗秘密保護法強行採決に反対して国会で議場に靴を投げた男性の裁判など、「権力に逆らった人々」を傍聴者ともども「凶悪犯」扱いしてきたのが、この429号法廷だ。

 東京地裁は、こんな国家権力むき出しの暴力法廷を、ビラ配りをしていただけで公務員たちに不当逮捕された高校生のために「用意」した。佐藤薫裁判長は、弁護人が何を聞いても「答えられない」を連発し、勾留理由を開示しようとはしなかった。そして、それに抗議した傍聴者に退廷命令を出し、法廷外・裁判所構外に暴力的に放り出した。

 学校・警察・裁判所が結託したあからさまな権力犯罪。それをチェックする最後の砦が、マスメディアだ。ところが、問題の429号法廷について司法記者クラブはこれまで、「知らぬ顔」を決め込んできた。私やビデオプレスの松原明さんが大高裁判で「弾圧法廷の実態を報道してほしい」と記者クラブ幹事に取材を要請しても、無視されてきた。

 今回は、『東京新聞』が429号法廷を取材し、7月18日付「こちら特報部」欄に、《表現の不自由 次々に/中学校近くの公道でビラ配り/副校長注意でトラブル、現行犯逮捕》の見出しで大きく報道した。弾圧法廷の暴力実態までは記事化されなかったが、弁護人の質問にほとんど答えない裁判官の姿、勾留理由「不開示」の実態は報じられた。

 だが、『東京新聞』以外のメディアは、今回も沈黙している。憲法を尊重し、擁護する義務(憲法99条)を負う公務員――教員・警察官・裁判官たちが、ビラを配る高校生から表現の自由を奪い、逮捕監禁の罪を犯している。憲法をあからさまに踏みにじる公務員たちの権力犯罪は、「知る権利」に奉仕するはずのメディアが市民に伝えるべき最も重大なニュースではないか。


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