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ある外国人労働者の自立〜映画『コンプリシティ/優しい共犯』(近浦啓 監督)

    笠原眞弓

 外国人技能実習生という制度があることは、今やほとんどの人が知っている。そしてその制度が、人権の視点からも問題ありということも知られてきた。外国人労働者の受け入れが始まった1990年代後半、房総の干物製造業を訪ねた時に従業員のほとんどが中国人だったことや、今の外国人技能実習生制度が発足してから、長野県のレタス産地で有名な川上村を訪ねると、夏の農家の手伝いが学生アルバイトから中国人に、宿舎が農家受け入れから近くのアパートに代わっていたことを思い出す。それまでは、食事も何もかも家族と一緒だったが、そのころは、すべて実習生自身が賄い、農家は手間がかからなくなってよかったと話していた。

 この映画は、夢を持って来日したにも関わらず、あまりに過酷な労働条件に耐えられなくて実習先を逃げ出した青年の物語である。逃げること、嘘をつくことを余儀なくさせる社会制度って何なのかと思う。そんな中でも、何とか自己を保ち誠実に生きようとする実習生の一側面である。

 チェン・リャンは、技能実習生として中国から来た。この映画に出てくる青年は、祖母や母親想いで優しい。祖母の反対を押し切って日本に「出稼ぎ」にきたからには、錦を飾らないわけにはいかない。でも現実は、約束とは大違い。実習先を逃げ出して、仲間と窃盗を繰り返す生活。支給された携帯電話には、以前の持ち主への電話が頻繁にかかってくる。そんなある日、周旋屋から仕事の紹介電話が。思わず彼チェン・リャンは、その仕事を前の持ち主のリュウ・ウェイとして受け、親父さん(藤竜也の存在感が素晴らしい)と娘で切り盛りする蕎麦屋の住み込み店員になってしまう。

 蕎麦屋で、そば打ちを習うリュウ。「ちゃんと打てるようになったら北京で蕎麦屋をやろう」という親父さん。その親父さんの悩みは、息子に引退を迫られていること。

 店にはチェンの在留資格を問う電話がかかり、そんな人はいないというものの、親父さんは「一体君は、誰なんだ?」と。しかし深追いはしない。続いて警察も踏み込むが、親父さんは…。

 場面が変わって店で出会いお互いに惹かれ合う女性、葉月があこがれの北京へ渡り、そこから電話をかけてきて映画を見てきたと。それに彼は答える。

 そこで私は初めて涙があふれた。彼の「自分探し」=「青春」 は終わり、越えなければならない壁をどう越えるのかと。

 幸せは、人が作っていくものだとしみじみ感じさせる作品だ。繰り返される中国での家族との場面が、彼の人間性を表しホッとする瞬間だった。

*2018年製作/116分/日本・中国合作/1月17日より新宿武蔵野館公開中その後全国順次公開


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