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障害のある子と健常児が同じ学校で共に学ぶ〜インクルーシブ教育の思い出

    長谷川 澄(カナダ在住)


*左、車イスのジャン・Pさん(小学5年生当時)

 「れいわ新選組」の舩後靖彦氏と木村英子氏の当選を多くの日本の人が歓迎している一方で、“介護人のコストは自分のポケットマネーから頼むよ”と言ういじましいツイートが出たり、“キツイ言い方だが迷惑行為”とまで言う、人間性を疑うツイートに5万もの「いいね」が付いているという記事を読んだ(日刊現代、室井佑月コラム、東京新聞7月30日記事)。木村英子氏が自分の政策の一つとして、提唱しているインクルーシブ教育を35年も前に目の当たりにした者として、自分の経験を伝えることが、何かの役に立つかも知れないと思い、これを書いている。

 カナダの教育制度は、州によって、かなり違うのだが、私のいるケベック州の場合、障害を持つ子どもは、原則的には保護者の希望で、普通学校を選ぶか、障害児のための学校を選ぶかを決めることができる。35年前に、私の子ども達が小学校に通っていた時にも、既にそうだった。(障害児のための学校にも普通児枠があり、普通児のために、そういう学校を選ぶ保護者も一定数いることを後に知った)。息子のクラスに筋ジストロフィーの男の子がいて、始めは、何とか自分で歩けたのに、途中から手動の車椅子になり、6年生の頃には電動車椅子になった。ジャン・Pと言うその子の両親は、ずっと同じ学校に通うことを希望したので、学校は、6年間、その子の教室は一階に決め、建物の前後の入り口とトイレを車椅子で入れるように改造した。女の子のトイレも同じ時に改造した。その頃、用事で学校に行った私が、トイレに入ると、他のトイレが空いているのに、車椅子用のトイレの前には行列ができていたので、笑ってしまった。

 ジャン・Pは、少しずつ筋力が弱ってきていても、意気軒高で、電動車椅子になってからは、車椅子の後ろにちょうど子供一人立てる足を置く場所があるので、そこに級友を交代で乗せ、ボタンを押して、かなりのスピードで、校庭を走り回る遊びをしているのを休み時間などに行き合わせると見ることがあった。ある時は、何か行き違いがあったのか、「それじゃ、お前はもう、車椅子に乗せてやらない」と言っているのを聞いたこともある。体が他の子のようには動かなくても、自分の武器を使って、優位に立とうとする、その逞しさ、したたかさに目を見張る思いだった。

 学校に通うのには、車椅子専用のスクールバスが、いくつかの学校をまわって、ジャン・Pたちの送り迎えをしていた。しかし、遠足やスキー教室の時には、他の子と同じスクールバスに車椅子を乗せ、担任の若い男の先生がジャン・Pを背負って、乗り降りしていた。「スキー教室で、ジャン・Pは何をするの?」と聞いたら、「橇に乗せて、皆で引っ張って、面白かった!」と息子は言っていた。

 ジャン・Pがクラスに居ることで、他の子たちが学んだことは、計り知れないものだった。夏休みに子どもたちを連れて日本に行った時、息子は、自分の小遣いで、ジャン・Pにだけ、色々買っていたので、「あんたはジャン・Pと一番仲良しだったの?」と聞くと、「そうでもないけれど、他の子は、行きたければ、大人になってから、自分で日本に行けば良いけれど、ジャン・Pは、そうできないかも知れないから」と言っていた。そんなことは、親には、教えたくても、教えられることではないと思う。

 親や先生さえ知らない処で、子どもたちは、大変な事件に行き当たり、子どもたちで何とか解決したりもしているらしいと息子の話から衝撃を受けたこともある。

 ジャン・Pは、弁の立つ子だったので、口喧嘩で負けることは殆どなかったけれど、ある時、すんでのことで、殴り合いにもなりかねない状況になり、周りの子たちが喧嘩相手を引き離したところ、悔しかったのか、リュックという、その相手の子が「良いや、どうせお前は、僕より早く死んじゃうんだから」と言ってしまったのだ。それは、皆がうすうす知ってはいても、決して口にしてはいけないことなので、その場は、凍り付いたようになってしまったそうだ。その時、ウオルターという、ホッケーの練習のために学校をさぼる事が多く、留年もしていて、歳も身体も大きい子が「そりゃリュックは、8月生まれの赤ちゃん(カナダは9月新学期だから、8月生まれが一番年下になる)だから、俺たちよりは、長生きするだろうよ」と言った。その一言で、その場の空気がふっともどり、皆、救われたそうだ。

 後で、ジャン・Pの居ない処で、リュックはウオルターに「助けてくれて、ありがとう」と言い、皆もお礼を言ったそうだ。家で、その話をしてくれた息子は「学校の勉強と頭の良い、悪いは全く関係ないんだね。ウオルターは、クラスで一番頭が良いよ。僕は、頭の中で、リュックのバカ,バカ、バカと思うばかりで、何をすればよいか、見当もつかなかった」と感に堪えたように言っていた。私も、他の子より年長とは言え、たかが13歳くらいの子がとっさの場合に、そんなことが言えたことに驚愕した。大人の私にも言えたかどうか自信がなかった。そして、子どもたちが一人の子のとんでもない失言に、皆で凍り付いたようになって心配したり、他の一人の言葉の機転が、その最悪の状況を強引にねじ伏せたりしたことから、どんなに多くを学んだことだろうと、心を打たれた。ジャン・Pが、クラスにいたことで、子どもたちの得たことは、大人の想像を絶していたと思う。


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