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LNJ Logo 〔週刊 本の発見〕クリーンな大統領になります『運命 文在寅自伝』
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毎木曜掲載・第106回(2019/4/25)

クリーンな大統領になります

『運命 文在寅自伝』(文在寅、矢野百合子訳、岩波書店、2700円、2018年10月刊)/評者:小林たかし

 本書は、タイトルに「文在寅(ムンジェイン)自伝」とあるように、キャンドル集会の直後、2017年5月に韓国大統領となる文在寅の自伝だが、盧武鉉(ノムヒョン)元大統領についての回顧録でもある。

 1982年、かけだしの弁護士だった著者=文在寅は、釜山に開設された「盧武鉉・文在寅法律事務所」で、先輩弁護士・盧武鉉のパートナーとなる。著者は、20年後の2003年に青瓦台(大統領府)で盧武鉉大統領の片腕となり、2009年に彼が自殺するまで、盧武鉉に寄りそうようにして闘いつづけた。

 「序文」には、生前の盧武鉉元大統領が、一人で回顧録を書くのは荷が重いからと、ともに働いた人たちとの共同作業を提案していたのに、なにも手がつけられぬうちに突然、永久(とわ)の別れがきてしまった――そこで、「ともに書く回顧録」の一番手として自分がこの本を書いた――とある。

 本文は「出会い」「人生」「同行」「運命」の四つに分かれる。「第犠 出会い」で読者は、1970年代から90年代に、二人の弁護士が人権弁護士として、また労働弁護士として、民衆とともに闘った民主化闘争を追体験できる。二人は、1987年の6月民主抗争以降、彼らの法律事務所に釜山労働問題研究所を併設し、争議支援はもとより、200以上の労働組合の組織化に尽力する。読者はそこで、やがて大統領となる二人の若き闘士に出会う。

 「第蕎 人生」は、著者の出生から弁護士になるまでの回顧録。両親は朝鮮戦争時の避難民。著者は避難生活のさなか1953年に巨済島で生まれ、小学校からは釜山で貧しさのなかに育つ。そして学生運動、逮捕と除籍、現夫人との出会い、空挺部隊での兵役生活、復学と反独裁デモ、二度の拘置所生活などが回想される。

 「第珪 同行」は、著者が大統領秘書官として、盧武鉉大統領と青瓦台で働いた5年間の記録だ。(*写真右=盧武鉉大統領)

 盧武鉉政権の第一の課題は、「君臨しない青瓦台」(権威主義的でない政府)をつくることだった。この政治姿勢は、「クリーンな弁護士」になることを目指していた弁護士時代の延長線上にある。その姿勢は、著者以外の閣僚や高官にもゆき渡った。高官たちは私生活で、飛行機も列車も普通席を利用し、自分の車を自分で運転し、個室のない普通の店で食事をし、他の人といっしょに行列に並び、小さな集合住宅に住み、一人で好きなところを歩きまわった。

 貧しくて大学にいけなかった盧武鉉のまなざしは、下層の民衆に向けられていた。それは、大統領となった著者にも引きつがれ、文在寅は就任式で、「クリーンな大統領になります。何ももたずに就任し、何ももたずに退任する大統領になります」と宣誓する。

 2007年3月から大統領府秘書室長を務めていた著者は、10月の第2回南北首脳会談を最大の出来事だったとふり返る。盧武鉉は、首脳会談に出向くのに、どうしても列車でソウルから平壌へ行きたいと主張したが、北側の線路の老朽化で望みは叶わず、徒歩で軍事境界線を越えることになった。

 けれど11年後に、盧武鉉の望みが叶う道が開けた。昨年9月、第5回南北首脳会談「平壌宣言」に、南北鉄道の連結が明記され、11月から鉄道の共同調査がはじまった。この調査の過程で、ソウルを出発した列車が、38度線を越えて1200キロ走った。「朝鮮半島の運転者」を自称する著者の構想=「朝鮮半島新経済地図」にある半島縦断鉄道が、夢ではなくなったのだ。

 文在寅大統領は、盧武鉉元大統領がやり遂げられなかった課題に全力で取り組んでいる。たとえば、済州島四・三事件など、国家による人権侵害事件の真相を究明する「過去事 整理作業」は、盧武鉉政府が稼働させたが、李明博(イミョンバク)政府になって中断した。文在寅政権は「真実和解のための過去事 整理委員会」を再稼働させ、未解決事件の調査を国民とともに推進している。

 終章である「第絃 運命」は、自殺した盧武鉉元大統領の葬儀委員長を引き受けた著者の、苦渋に満ちた告白である。著者は、「あなたはすでに運命から解放されたが、私はあなたが残した宿題に縛られている」と結んでいる。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美・佐藤灯・金塚荒夫ほかです。


Created by staff01. Last modified on 2019-04-25 10:21:18 Copyright: Default

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