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ヒューマンライツ・ナウは本日2018年3月6日、声明
「カンボジア: スポーツウェア製造工場で次々と起こる
女性労働者の大量卒倒事故。 アシックス、プーマ、ナイキら
国際ブランドに対し、再発防止と労働環境改善を求める。」
を公表しました。

声明のPDFは下記よりダウンロードできます。
http://hrn.or.jp/wpHN/wp-content/uploads/2018/03/cambodia-mass-faitings.pdf

ウェブサイトより声明の全文をご覧になれます。
http://hrn.or.jp/activity/13373/


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カンボジア: スポーツウェア製造工場で次々と起こる女性労働者の大量卒倒事故。
アシックス、プーマ、ナイキら国際ブランドに対し、再発防止と労働環境改善を求める。
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2018年3月6日 国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ

1 はじめに
カンボジアでは近年、縫製・靴工場で労働者が作業中に卒倒する事故が相次いでいる。
カンボジアの国家社会保障基金(NSSF)[1]によれば、2015年には32工場で1806人の労働者
の卒倒事故があり、2016年は、18工場で1160人の労働者の卒倒事故があったという。[2]

国家社会保障基金(NSSF)のスポークスパーソンは、その要因として精神的問題(34 %), 肉
体的問題 (22 %), 化学薬品の影響 (18 
%)、労働者の長時間労働 (16 %) 等を指摘した[3]。

こうした事態について2017年6月、デンマークの調査機関であるDanwatchと、イギリスの
新聞Guardian共同で、国際スポーツブランドであるナイキ、プーマ、アシックス、ベスト
セラーズ、VF 
Corporationのサプライヤー工場で働く労働者の聞き取りを行い、調査の結果を発表した
。

両者は、これらの労働者が卒倒した工場と、委託先である著名スポーツブランドの関係を
指摘し、卒倒事故の背景に劣悪な労働環境の問題があると指摘する[4]。

東京を拠点とする国際人権NGOであるヒューマンライツ・ナウ(HRN)は、大量卒倒の背景
にある有名スポーツブランドの製造工場の労働環境に深刻な懸念を表明し、工場に製造発
注をする著名ブランドに対し、事態を真摯に受け止め、再発防止を進めるよう求める。

2 カンボジアの工場で相次ぐ労働者の卒倒事故
Danwatchは、2016年から2017年におけて、卒倒事故が発生した工場で働く14人の女性労働
者にインタビュー調査を実施し、労働条件、通勤環境、食事、住居、労働条件に関する実
情等を聞き取った。さらに、医師、労働組合指導者、NGO、政府職員、また事業者団体に
インタビューを行い、卒倒事故の原因を究明した。

DanwatchおよびGuardianによれば、報告書発表前の6か月の間に、ナイキ、プーマ、アシ
ックス、ベストセラーズ、VF 
Corporationの5ブランドのサプライヤー工場で、600人を超す労働者が大量卒倒した後、
入院したとされる[5]。

また、Danwatchの調査によれば、2017年2月には、ナイキの製造工場で28人の労働者が卒
倒し、その直後にデンマークの会社ベストセラー[7]の製造工場の労働者36人が卒倒して
入院したとされる[8]。

さらに3月には、40人ほどの労働者がプーマの工場で卒倒したとされる。[9]これらの数字
は、国家社会保障基金(NSSF)によっても確認されているという[10]。

3 大量卒倒事故の背景にある労働環境
Danwatchらの調査によれば、卒倒事故の中には、火災事故や煙の発生等のアクシデントが
工場内で発生し、労働者がパニックに陥って次々と労働者が卒倒したケースもあるとされ
る。

同時に、Danwatchらは、こうした工場内のアクシデントが大量卒倒事故に発展する背景に
は、製造工場の劣悪な労働環境があると指摘する。

Danwatchの調査報告書には、多くの工場では労働者の作業が行われる部屋は非常に高温多
湿で換気も十分でないこと、長時間にわたり大量の作業を休憩なしで行っていること、労
働時間内の水分や栄養の補給が十分に行えないこと等が指摘されており[11]、深刻な労働
環境が大量卒倒事故の背景にあることがうかがわれる。

GuardianとDanwatchの調査の結果、労働者から指摘された労働環境上の問題は以下のとお
りである[12]。

(1)雇用条件:長時間労働、低賃金、不安定な雇用

Guardianの報道によれば、女性労働者たちの多くが、1日10時間、週6日間の労働を行って
おり、疲労困憊し、空腹の状態だったという。[13]

また、女性労働者たちの多くは一家の生計の柱として、子らや家族の生活を一手に支えて
いるが、彼らの受け取る賃金は著しく低い。

カンボジアの2017年当時の最低賃金は月額153ドル(2018年から170ドル)とされるが、一家
の生活に必要な生活賃金は少なくとも300ドル以上と推計されている。[14] 
ところが、調査対象となったスポーツブランドのサプライヤーでは、いずれも生活賃金が
支払われておらず、その約半額に過ぎない最低賃金ベースの賃金支払いにとどまっている
。[15]

Guardian及びDanwatchの報告書は、こうした状況では労働者は家計のやりくりのために栄
養のある食事をとれないうえ、生活賃金を受け取るために法定を越えた残業を余儀なくさ
れる可能性を指摘する。

さらに、これらの工場で雇用されている女性の多くが、短期間の雇用契約を締結しており
、雇用が著しく不安定であることも事態を深刻なものとしているという。

調査によれば、女性たちは残業を断ることで雇用契約が更新拒絶されることを恐れ、長時
間残業を受け入れざるを得ない状況にあるという。

不安定な短期雇用は、いつ打ち切られるかわからない状況は、労働者に多大なストレスを
与え、過酷な労働環境の改善を提案することも躊躇させている。[16]

カンボジアの労働法規は、一日の残業時間の上限を2時間としており、経営側による残業
の強制を禁止している。[17]そして、残業は「特別な緊急事態の場合」のみ許され、雇用
主は残業を断った従業員に罰を与えてはならないと明記している[18]。しかし、卒倒事故
が発生した工場でこの法規制が果たして遵守されているのか、さらなるモニタリングの必
要性がある。

(2) 工場環境:高温多湿、換気不足

Guardian及びDanwatchの調査はまた工場の労働環境が著しく劣悪であると指摘する。

労働者へのインタビュー結果は、多くの工場で工場内の気温が非常に高いうえ、換気や空
調の使用は十分とは到底言えないことを示唆している。

例えば、Danwatchらのインタビューに応えたアシックスのサプライヤー工場の女性労働者
は、 
「工場のいくつかの部門には温度を下げるための小さなファンが設置されているが、他の
部門では埃を除去するために置かれているだけである」とし、工場内の温度は「非常に暑
い」と訴えた。[19]。

Danwatchが彼女に工場内の温度を計測してもらったところ、午前11時半は32~34度、数時
間後には35~36度に上がり、一つの建物では37度と測定されたという。

同調査によれば、こうした状況にも関わらず、彼女の工場では、1時間に24アイテム、一
日で240アイテムを生産しなければならないため、彼女は「作業はきつい」と訴えたとい
う。

同調査では、プーマの労働者にも工場内の温度を計測してもらった結果、35度という計測
結果が得られたという。

このように高温・多湿の環境でありながら、多くの工場では、エアコンディショナーもな
く、換気設備も十分でなく、労働者が栄養・水への十分なアクセスができないという。[2
0]

Danwatchの調査に、医学の専門家は、製造過程で使用されている化学物質の健康への悪影
響も指摘した。[21]

こうした調査結果を受け、産業医学の専門家は暑さ、水分補給の不足、栄養不足と消耗と
いった状況が重なれば、卒倒・ひいては大量卒倒は起こるべくして起こると指摘しており
[22]、産業医学の別の専門家は、精神的プレッシャーの高い仕事に高温多湿、食料、水、
休憩へのアクセスが否定されることは「奴隷的状況だ」と指摘した。[23]

カンボジアの労働法は気温が高いことで労働者の健康に影響がある場合は扇風機か空調に
よって職場の温度を低くしなければならないと定めているものの[24]、ベトナムのように
工場内の室温を32度以下とする規則は制定されていない。[25]

今回問題が指摘されたアシックス、プーマ、ナイキ等のブランドは労働環境に関するポリ
シーを明確にしている。

例えばアシックスはグローバル行動規範において、安全かつ衛生的な環境を提供すること
を約束すると表明し[26]、ビジネスパートナーには仕事場に「適切な[略]温度調節、換
気システム等を含め、安全かつ健康的な労働環境を提供する」よう求めている[27]。

しかし、GuardianGuardian及びDanwatchの調査を踏まえれば、卒倒事故が発生した工場で
は、こうした法規制や企業ポリシーが遵守されていなかったことが疑われる。

4 カンボジア政府、カンボジアの縫製産業の業界団体、及び、ブランドが講じた対策
 
こうした実情に対する政府・産業界の対応は、決して十分なものではない。

カンボジア政府は今年の1月より最低賃金を月額170ドルに引き上げたが、生活賃金とのギ
ャップはまだ埋まらず、加えてカンボジア政府による市民社会に対する一連の弾圧の一環
として、労働組合活動を抑制する法律が発効している。[28]
縫製産業の業界団体であるGMAC(Garment Manufacturers Association in 
Cambodia)のDanwatchらの報告書公表の直後の対応は極めて否定的なものである。GMAC事
務局長のKen 
Loo氏は一連の大量卒倒事故について、「数字は常に誇張されている。」「GMACは大量卒
倒問題に関して配慮するが、優先課題ではない」[29]、「この大量卒倒事故の中には、労
働者が示し合わせて卒倒したふりをしたものもあった。「労働者]は視察者を見たらわざ
と倒れる」[30]、「126人の労働者が被害を受けたと宣伝されているからと言って、労働
者126人が実際に倒れたわけではない。労働者がこんなに多く卒倒すれば、世界中の医師
はカンボジアに集まりこの現象を調査するはずだ」[31]などとして被害を過小評価し、背
後にある労働環境の問題点を分析しようという姿勢が見受けられなかった。
GMACは2017年9月に、無限雇用契約、最低賃金、労働組合、雇用契約の解約、労働許可証
、団体労働協約、休暇、ストライキ、職場の衛生・安全等に関するガイドラインをウェブ
サイトに発表した[32][33] 
。このガイドラインには、作業場で発生する熱が、作業員の健康を害したり、作業の妨げ
にならないように、雇用主は扇風機、換気扇、エアコンなどを用いて、作業場を冷やす方
策を講じなければならないと記載されている[34]。また、換気についても、換気は扉や窓
、通気口によってなされ、その合計面積が、平方メートルで計算した場合に、建物の面積
の4分の1以下であってはならないと記載されている[35]。さらに、作業員用の衛生的な飲
料水を用意することも雇い主に義務付けられている[36]。労働時間については,緊急時を
除いて日に9時間,又は週に48時間を超えてはならないと記載している[37]。しかしなが
ら、このガイドラインについてGMACがウェブサイトに公表した以上、どのような履行確保
の努力をしているかは不明であるうえ、定期的な休憩,生活賃金の保障、短期間雇用制度
の濫用の課題については言及がなされていない。

Danwatch、Guardianの指摘を受け、ナイキ、プーマ等の各ブランドも事態を深刻に受け止
め、いくらか対策を講じていくと表明した[38]。
ナイキは事態を深刻に受け止めるとし、コードオブコンダクトで、工場の室温を30度と定
め、それを上回ることが監査で確認された場合は、サプライヤー工場の冷却装置とエアコ
ンディショナーを導入させるとしている。また、短期雇用契約は許容しないと表明してい
る。[39]

さらに、ナイキは2017年秋、ジョージタウン大学の学生らの提起を受けて、海外のサプラ
イヤー工場の労働環境について、独立した民間調査機関であるWorker 
Rights Consortiumによる独立監査を受け入れる合意をし、監査の透明性を高めている。[
40][41]。

プーマは、換気設備の定期整備を行うこと、健康診断の導入を進めること、労働者調整委
員会の設置をすることをサプライヤーに要求したと報じられている。[42]さらにプーマは
大量卒倒問題に対して,エネルギーバーの提供,健康診断及び換気扇の定期整備を行うよ
うにサプライヤーに提言したと報告されている。[43]

アシックスもGuardianに対し、労働者に対する意識と健康に関するトレーニングの実施や
換気施設の改善等の具体的な措置を講じると回答したとされる。[44]
しかし、少なくとも日本語の公式ホームページ上には、大量卒倒事故に関する言及は見受
けられず、説明責任を果たしているとは認めがたい。

HRNは、DanwatchおよびGuardianの調査結果を踏まえ、2016年11月のアシックスのカンボ
ジアのサプライヤー工場における労働者の大量卒倒等について、アシックスに問い合わせ
たところ、「報道にあったような37度という事実はないという報告を受けた」とし、大量
卒倒事故の背景には、「まずインフルエンザで体調不良の労働者が業務中に大声を出して
気絶し、それを見た周囲の労働者が卒倒し、連鎖したというサプライヤーからの情報があ
った」との回答を得た。

また、アシックスは、現在、室温が32度を超えないようにモニターしており、大型の扇風
機も導入し、栄養がとれるように食事代の補助も工場が実施しているとも回答している。

アシックスは、「卒倒の原因というのは、室温、化学物質、過去のポルポト政権の悪行に
よる精神的な問題、仮病など色々な潜在的原因が指摘されているが、当社でも特定はでき
ていない。カンボジアの労働者には低血糖が多く、卒倒しやすいとも聞いている。また、
仮病がないかをGMACが見極めようとしているという情報もあるが、それに関わらす現地の
ステークホルダーと継続的に協働し当社商品に関わる人々の労働環境を改善していきたい
。」と述べている。

しかしながら、仮に室温が32度であっても上記のようなストレスのかかる環境下では、IS
O(国際標準機構)7243及び国際労働機関が公表した『縫製製造業における労働環境・生
産性向上』マニュアル[45]に基づき、高すぎるといえる。

仮にアシックスの主張が事実だとしても、インフルエンザで体調不良の労働者が病休をと
ることもできないまま、就業する労働環境そのものの改善が必要である。


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注釈、及び、続きはウェブサイトにてご覧下さい。
http://hrn.or.jp/activity/13373/

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