本文の先頭へ
LNJ Logo 石川源嗣のコラム :ジョン・リード『世界を揺るがした10日間』を読んで
Home 検索
 




User Guest
ログイン
情報提供
News Item 1517817955873st...
Status: published
View


東部労組の石川です。

ジャパンユニオン組合ニュース2018年2月号コラム<Focus of News>を
アップしました。

<Focus of News>2018年2月号

■ジョン・リード『世界を揺るがした10日間』を読んで■

 ロシア十月革命を描いたジョン・リード『世界を揺るがした10日間』(Ten 
days that shook the world)を読んだ。昨年11月、光文社から「古典新
訳文庫」として出版された伊藤真さんの新訳だ。読みやすかった。
 感想は次の通り。

(1)革命のリアリティを実感する。
 本書は1917年ロシア十月革命の現場からの実況報告である。
 ジョン・リードは闘争の最前線であるペトログラードとその周辺を駆けめぐ
り、煮えたぎった、まさに革命のるつぼ、革命の息吹、「革命の日々」を活写す
る。
 「どこの兵舎でも夜ごとに集会が開かれ、昼間にも絶えることなく熱い議論
が終日続いた。/スモーリヌイでは、ペトログラード・ソビエトが絶え間なく
集会を開いていた。代表者たちが床で眠りに落ち、再び起き出して論争に加わ
り、・・・」。
 「労兵ソビエト第2回大会・第1回会合の開会を宣言する!」
 そして、「幹部会選出の投票で、ボリシェビキ14、社会革命党7、メンシェビ
キ3。/旧指導部が壇上から降り、トロツキー、カーメネフらが取って替わった。
わずか4ヶ月足らず前には、見下され追われる身の一党派(セクト)にすぎな
かったボリシェビキである」と、ボリシェビキが圧倒的な大衆的支持を受けて
多数派になっていく過程が描かれる。
 ついに、11月7日、「ロシアの市民たちへ! 臨時政府は打倒された。国家権
力はペトログラード労兵ソビエトの機関である軍事革命委員会の手に移った」。
 その権力奪取の翌11月8日、「全国民は沸き立っていた。だが、うわべだけ
見ればすべては落ち着いていた。ペトログラードでは路面電車が走り、店舗や
レストランは営業中で、劇場も開いていた」。
 「ソビエト大会の代議員たちの集まりは、みすぼらしい格好の兵士たちや、
垢じみた労働者たち、それに農民たち、生き延びるための過酷な苦闘の中で身
を屈し、傷だらけになっている貧しい人びとだった。/それに比べ、ドウーマ
の関係者たちはみな、たらふく食べ、立派に着飾った連中だ」ともいう。
 これら革命のリアリティを実感したからこそ、本書に誤解や事実誤認がある
にもかかわらず、レーニンは「私は全く注意が緩むことなく最大の関心をもっ
てジョン・リードの本『世界を揺るがした10日間』を読んだ。私はこの本を無
条件に全世界の労働者に推薦する」との序文を寄せたのだろう。

(2)本書で一番好きな場面。
 本書は以前読んだはずだが、ほとんど記憶にないので、読んでいなかったの
ではないかと思った。しかし唯一鮮明に覚えていた箇所があった。たぶん農民
出身と思われるボリシェビキ派の兵士とインテリゲンチャとの、民衆に囲まれ
ての討論の場面だった。
 100人ばかりの実業家や役人や学生が二人の兵士を取り囲んで、ある青年(イ
ンテリゲンチャ)は兵士が銃を向けることに抗議している。しかし兵士は「階
級は二つあるんだよ。プロレタリアートとブルジョアジー」というのを繰り返
す。
 インテリゲンチャは、「レーニンが封印列車で帰り、ドイツから金を受け取っ
ていたことも知ってるか?」
 「まあ、そんなことはよく知らないが」と兵士はかたくなに言った。「彼こそ
まさに俺たちが聞きたいと思っていることを言っているように感じるね。・・・
いいかい。階級には二つあるんだよ。プロレタリアートとブルジョアジーで・・・」
「階級は二つだけでだね。こっちの味方でなければ、あっちの味方なわけで」
と兵士は頑固に続けた。
 今にして思えば、この場面は、私にとって「階級闘争・階級観点」との最初
の出合いかしれない。

(3)権力奪取のあとも集会や討論が自由闊達に継続して展開されていること
に驚く。
 メンシェビキやエスエルが何の制限もなく自らの意見を饒舌に喋っている。
しかし革命とは本来そうあらねばならないものであろう。
 ボリシェビキに反対する意見も詳細に紹介されている。レーニンやトロツキ
ーに対する罵詈雑言がまかり通る。
 考えつくありとあらゆるデマ、事実無根のデマが飛び交い、革命のるつぼに
おける活気あふれる各主張のごった煮状況が活写されている。ウソやデマは、
事実であるかどうかではなく、相手に打撃を与えられるかどうかで、いくらで
も醸成される。
 ジョン・リード自身、監獄で虐待、拷問、虐殺が行われていると聞けば、監
獄まで飛んで行って事実無根を確かめている。
 また、「誰もがボリシェビキは三日天下に終わるとたかをくくっていたのだ。
―おそらくレーニンとトロツキー、そしてペトログラードの労働者と素朴な兵
士たちを除いて・・・」というのも、よく理解できる。当時の正直な実感だっ
たのだろうと思う。

(4)ボリシェビキと他党との共闘
 本書で気になったのは、リードが「レーニンとトロツキーは妥協と戦ってい
た。ボリシェビキのかなりの割合の党員たちは、『全社会主義政党による連立政
権の樹立』という線までは譲歩してよいと考えていた。/だがレーニンは、傍
のトロツキーとともに、岩のように動じなかった」と述べている箇所である。
 この記述に間違いはないと思うが、と言って、レーニンは一度決めたら何も
変えない唯我独尊の頑固者というわけではない。レーニンほど情勢の変化に機
敏に対応した活動家はいないのではないか。
 9月のコルニーロフがペトログラードに迫って軍事クーデターを企てていた
あとも、メンシェビキや社会革命党との共闘を模索していたのはレーニンであ
った。
 しかし「即時休戦」を主張するボリシェビキにとって、「革命的排外主義者」
との共闘はあり得ない。戦争継続のための共闘はないということだろう。

(5)革命の見通し
 本書から少し離れるが、レーニンは亡命先のスイスのチューリッヒで講演し
た際、「われわれ老人たちは、おそらく、生きてこのきたるべき革命の決戦を見
ることはないであろう」と有名なことばを残している(「1905年の革命について
の講演」全集23巻)。
 しかしこの講演のわずか1ヶ月後に2月革命が勃発し、革命は勝利に向けて
突き進んだ。
 情勢の変化など、なかなか見通せるものではない。レーニンが言うように、「ヨ
ーロッパの現在の墓場のような静けさにあざむかれてはならない」(同上)。い
つ情勢の激変が起こるかもしれないのだ。

(6)そしていま
 ロシア十月革命から何を学ぶか。
 私たちはいま、ソ連崩壊という厳然たる事実の地平から、ジョン・リードの
描くロシア革命を追体験するほかない。
 私たち労働組合運動を担う者にとって、日々の日常活動が組合活動にとって
欠かすことのできないことはいうまでもない。
 同時に広く長い視野をもって日常活動を見直すことも求められている。
本書はそのための格好の素材になるのではなかろうか。
 ロシア革命の現場から現在を見直し、彼らがめざした「社会主義」をどうと
らえるのか。
 新自由主義と真っ向から闘う武器としての「社会主義」がいま問われている
のかもしれない。(石)

Created by staff01. Last modified on 2018-02-05 17:05:56 Copyright: Default

このページの先頭に戻る

レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について