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LNJ Logo 〔週刊 本の発見〕『資本主義の終焉ー資本の17の矛盾とグローバル経済の未来』
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毎木曜掲載・第88回(2018/12/20)

矛盾こそ希望だ

●『資本主義の終焉ー資本の17の矛盾とグローバル経済の未来』(デヴィッド・ハーヴェイ著、2017年11月刊、2800円、作品社)/評者:志真秀弘

 ハーヴェイのエネルギッシュでユーモアに満ちた語り口は冒頭から読むものをとらえて離さない。しかも豊富な論点に満ちている。本書は、資本主義を動かす資本の17の矛盾を解き明かす。17の矛盾は、第1章から始まって第17章まで各章立てになって展開されている。それを紹介しよう。はじめに7つの矛盾が「第吃堯〇駛椶隆靄榲な矛盾」のなかで紹介される。順番に紹介すると「〇藩儔礎佑噺魎慌礎諭廖岫∀働の価値と貨幣」「私的所有と国家」「せ篥領有と共同の富」「セ駛椶範働」「資本は過程なのか、物なのか」「Ю源困隼駛楞大の実現」となる。こう書くと、なにやら面倒な叙述が想像されるかもしれない。しかし心配はいらない。著者の論は思弁的なそれからは遠い。著者は説く。直面するのは根底的原因より兆候であって、多様で時に神秘的にさえ見える外観に覆われた事態の真実をわれわれは「暴露せねばならない」。資本が内包する矛盾が、彼の関心のまとだ。彼は「弁証法的な矛盾概念は豊かな可能性を有しており、扱いにくいものではまったくない」と強調する。(「序章 資本がもたらす矛盾について」21ページ)危機のたびにヴァージョン・アップしてきた資本主義が、特に2008年9月のリーマン・ショック以後どう変わりつつあるかを、著者は分析する。

 一方、矛盾は他のいくつもの矛盾に結びつく。例えば資本と労働の矛盾をみよう。「左派の思考には、労働市場と職場を、階級闘争の二つの中心領域だとして特別視する傾向がある。」生産点でこそ「プロレタリアートの前衛は自己を鍛え上げ、社会主義革命への道へと導くとされる。」しかし、資本と労働の矛盾は、資本の流通過程の矛盾(第6章)あるいは生産と実現のそれ(第7章)と深く結びついている。これを考えれば生産点こそ中心という考えは、さしずめ「不幸な誤解」である。運動にとって、今や職場以外にも闘争領域は広がっていて、ある場合にはそちらの方が重要なことさえある。例えば、アメリカの労働者は所得の三分の一を住宅に支出して家主や不動産屋、銀行(ローン)などに取られてしまう。教育、医療、運輸、通信、水道などの公的サービスは次々と民営化され、結果として大衆は資本に所得の大半を奪いかえされる。左派はこれらの分野を政治戦略に組み込む必要がぜひともある。

 第局瑤蓮岷親阿垢觧駛椶量圭癲廚般召鼎韻蕕譟◆岫┻蚕僉∀働、人間の使い捨て」「分業における矛盾」「独占と競争」「地理的不均等発展と資本の時空間」「所有と富の格差」「労働力と社会の再生産」「自由と支配」の各章からなる。第1部の矛盾は場所と時代を変えても変わらないが、第2部のそれらはたえざる変化にさらされている。1970年代後半からの「新自由主義的反革命」による大きな変化は反資本主義運動に困難をもたらしたが、それは同時に政治的チャンスも与える。「賞味期限の過ぎた」意見に固執せず、運動は資本の急速な展開に対応して「未来の歌」を書かなくてはならない。ハーヴェイは人民の権力によって初めて資本主義は終わることを強調する。その点でアウトノミア、アナキズムの思想と異なる。フェミニズムの理論家たちには「資本中心」と批判されているとも書く。だがそれは、伝統的左派の考え方への距離の置き方からわかるとおり、彼の狭さではなく広さの現れである。フェミニズムの理論家の仕事への賞賛も惜しんでいない。

 彼の提案するオルタナティブはあくまで具体的な分析のうえに立って、資本の切り捨てる人々全てを包み込む広がりを目指していることはこの第局瑤任睫昔討任△襦

 最後の第敬瑤蓮峪駛椶砲箸辰憧躙韻別圭癲廚梁蠅如岫無限の複利的成長」「飴駛椶伴然」「運祐崟の疎外と抵抗」の三章からなる。ここではどの一つをとっても、極点から崩壊へと進みかねない矛盾を資本が内包しつつあることを示す。だが、資本主義は自動的に崩壊しない。その考えを、彼はきっぱりと否定する。資本は危機をたらい回ししながら、永遠に生き延びる。それを止められるのは人民の意志のみなのだ。

 知的不毛で際立ついま、これほど豊かな議論を呼び起こす力を備えた本は近来ない。400ページを超える大作で論点が論点を呼んで止まらないが、本文は明解で読みやすい。訳者の方々の労を多としたい。

 著者は「矛盾こそ希望だ」というベルトルト・ブレヒトの言葉を結びに引いている。加えてハーヴェイのこの本こそ希望だと言いたい。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美・佐藤灯・金塚荒夫ほかです。


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