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米最高裁「ジャニス対AFSCME」で反労働組合の判決〜どう跳ね返していくか


*「ジャニス事件判決は私の声を奪っている」

〔解説〕
 レイバー・ノーツ誌7月号はいつもの形式ではなく、6月27日に出された「ジャニス対AFSCME」(アメリカ州郡自治体従業員組合連合)事件の連邦最高裁判決の特集号である。この判決は41年前の最高裁判決を覆し、公務員労組が非組合員から組合費相当分を徴収することを禁ずるものである。ここ数十年続いてきた労働組合を弱める攻撃の集大成であり、アメリカの労働組合全体にとっては大打撃である。この攻撃をどう跳ね返していくか、これが今回の特集号のテーマである。ここではその巻頭記事「これまでの歩み」を翻訳して掲載する。しかし、アメリカの労働事情にくわしくない人には分かりにくい内容なので、背景説明と判決そのものの解説をしてから本文を掲載する。

●アメリカの労働組合の現状

 アメリカの総労働者数は約1億3600万人で、組織率は10.7パーセントなので、労働組合員数は約1400万人で、内半数約700万人が公務員で、残り700万人が民間労働者である。公務員の組織率は34.4パーセントで、民間の6.5パーセントの5倍以上である。今年にはいってストライキの波が続いている教員組合のように戦闘的に活動している公務員労組を叩き潰そうとするのが、今回の最高裁判決の意図なのである。

●労働権州とエージェンシー費

 アメリカの労働法制では労働者の過半数の支持を得た労働組合だけが団体交渉権を持ち、使用者と労働協約を結ぶことができる。その労働協約は非組合員を含む全労働者に適用されるので、ただのりを許さないために非組合員から団体交渉のための費用を労働組合が徴収する制度がある。これをエージェンシー費と呼び、組合費の6割から9割の金額となっている。このエージェンシー費を徴収することを認めるかどうかは州ごとに州法で決められる制度となっている。エージェンシー費を認めていない州を「労働権」州と呼び、現在は過半数の28州となっている。「労働権」州では組合に入るか入らないか選択の自由が労働者にあり、オープンショップであり、当然組合の組織率は低くなっている。

●「ジャニス対AFSCME」事件の連邦最高裁判決

 公務員労組については1977年の最高裁判決によりエージェンシー費制度が合憲とされ、認められてきた。その結果公務員労組の組織は高く維持されてきている。イリノイ州の公務員であるマーク・ジャニスは組合員ではないのにAFSCMEにエージェンシー費を取られているのは表現の自由を認めている合衆国憲法修正第一条違反だと訴えた事件である。連邦最高裁判事は5対4でこの訴えを認めて、エージェンシー費制度は憲法違反だと認定した。これにより公務員労組は非組合員からエージェンシー費を徴収することができなくなり、組合費収入と組合員数の落ち込みが予想される。

●民間労組への影響

 民間労組の組合員700万人の内、労働権州にいるのが200万人で、残り500万人が非労働権州にいて、エージェンシー費制度の下で活動している。今回の判決により非労働権州でも労働権州を目指す攻撃が強まり、アメリカの全労働組合からエージェンシー費制度を奪い、オープンショップ状態にして組合を潰そうとする経営側と右派の攻撃が一層厳しくなることが予想されている。 (レイバーネット日本国際部 山崎 精一)

*アメリカ労働運動の翻訳記事は毎月25日前後に紹介します

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オープンショップとなったアメリカで労働組合の力を築く

これまでの歩み

 連邦最高裁判所の「ジャニス対AFSCME」事件の判決が出て確定的となった。つまり、今後は7百万人の連邦政府と地方自治体職員は「労働権」州で働く200万人の民間部門の組合員と同じ環境で働くことになる。今やアメリカは「オープンショップ」状態となったと言って良い。この結果、すべての人が影響を受ける。労働条件が引き下げられ、組合財政が枯渇し、労働組合の政治的力と地域での力が削減され、「労働権」州でない州、つまりエージェンシー費が認められている州で働く500万人の民間部門の組合員が強い攻撃にさらされることになる。

●脅威は本物だ

 このジャニス事件判決は、経営側と1パーセントの金持ちが何十年にわたって労働者の力を弱め、富をより上に吸い上げようと仕掛けてきた攻撃の最新のものである。決して初めてでも二番目の敗北でもない。

 この判決によって組合員を失うことになると労働組合指導部が恐れるのは当然である。組合員の数は既に減少してきており、組合が勝利することはめったになく、多くの組合員が組合がなんの役に立つのかと疑問に感じている、という労働組合の寂しい現状を知っているからである。また組合員の経済状況が厳しく、機会があれば組合を抜けようとしている人が多いことも知っている。 この判決の恐ろしい危害を怖れて多くの組合は組合員とのつながりを強化しようと努めているが、そのやり方は不十分すぎる。必要なのは労働組合を上手に売り込むことではない。基本に立ち戻ることである。組合員を獲得する見込みは行動によってしか勝ち取れない。組合が力を持っていると確信しなければ組合に加入する人はいない。

 労働組合の力はどれだけの数の労働者が一緒に行動し、どのくらい強い行動を取れるかに掛かっている。組合費を納入している組合員の数は潜在的な力に過ぎない。連帯の精神を持っている労働者がどれだけいて、職場で団結して立ち上がる人がどれだけいて、経営側の意図を見抜けるように仲間を教育できる人がどれだけいて、自らの組織である労働組合のために闘う人がどれだけいるのか、ということが大切なのである。

 労働組合が労働者自身の組織になるのは、労働組合が「組合役員」のことではなく、「職場での権利を守るために日々一緒に行動して私たち」のことを指すようになった時である。労働組合とは労働者が団体行動によって、職制を抑えつけ、休憩を取る権利を行使し、上司の過剰な監視を潜り抜け、新規採用者を迎えてきちんと育てるようにすることである。

 もし労働組合がこのような課題に取り組んでいるなら、オープンショップだろうとなかろうと、労働者は喜んで労働組合に加入してくる。

●単純だが簡単ではない

 労働組合を組合員にとって本当に必要なものにできるか、それは分かり切っている。しかし、だからと言って簡単ではない。基本に戻るためには、これまでの古い習慣を捨て、使っていない筋肉を強化し、傾聴に努めなければならない。もっとやさしい方法があると言うのは自らを欺くことになる。

 この特集号は現状を振り返ることから始め、次にこれから起こることを予告する。反組合攻撃はオープンショップを実現することでは満足しないからである。

 次にあなたの労働組合の危険度を測る演習が続く。次の職場委員の集まりで「オープンショップ危険度チェック」を使って議論を始めてみよう。最後に核心に触れる。労働組合が経営側の最悪の攻撃に立ち向かえるようなるための処方箋(注)である。

●何が問われているか?

 オープンショップ状況でも諦めてはいけない、もう一つの理由がある、諦めている暇などないからである。組合に忠実な人のことを考えてみよう。組合が個別課題や損得勘定以上の意味があるから組合に忠実なのである。その人たちは他の労働者の闘いを自分のものとして感じている。闘いを骨身に感じており、一番大事な価値と同じだと感じている。あなたもそうでしょう。

 この世にはそのような人がもっと大勢必要なのである。職場での闘いは労働者一人一人を変身させ、経営側には元に戻すことはできない。闘いは労働者が力を持っていることを教え、力をどう使うかを教えるのである。

 今のひどい現状を見てみよう。ほとんどの仕事は劣悪で、政府は解体され、パートタイムが当たり前になり、悪いやつらは金もうけで笑いが止まらず、地球は環境危機に直面している。これを全て変えるには何百万もの正義を求める人々が力を発揮しなければならない。あなたの職場、全ての職場はより良い世界を築くための練習場なのである。

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(注)「民主的であれ」を始め6つの処方箋を特集号で紹介している。その内容は日本労働弁護団発行の『職場を変える秘密のレシピ47』で詳しく述べられているので参照してもらいたい。http://roudou-bengodan.org/secrets/


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