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LNJ Logo 〔週刊 本の発見〕『正義の人びと』/帝政ロシアの圧制とテロリスト
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毎木曜掲載・第29回(2017/11/2)

帝政ロシアの圧制とテロリスト

●『正義の人びと』(アルベール・カミュ 著、白井健三郎 訳、新潮社、カミュ全集5『戒厳令・正義の人びと』、1973年刊・古書)/評者=大西赤人

 本好きの人であれば少なからず、自分を変えた一冊とか、何度となく読み返す一冊とかがあることだろう。ところが大西には、それに類する特定の書物は思い浮かばない。狒蹐討瞭表颪ら、意識無意識にかかわらず何らかの影響を受けてきたのだ瓩伴分に都合よく解釈しているのだが、曲がりなりにも文章に携わっている割には、感性が案外鈍いのかもしれない。とはいえ、もちろん記憶に刻み込まれた作品はあるわけで、十七歳頃に読んだ――『異邦人』で知られる――カミュの戯曲『正義の人びと』は、そのうちの一つである。本作は、ロシア革命(1918年)に先立つ1905年に起きたモスクワ総督・セルゲイ大公(ロマノフ王朝最後の皇帝・ニコライ二世の叔父)暗殺事件を主題とし、大公の馬車に爆弾を投げた実行者・カリャーエフをはじめとするエスエル(社会革命党)メンバー=「テロリスト」たちを史実に基づき描いている。当時、筆者は、『正義の人びと』に引き続き、やはり彼らの姿が綴られた大佛次郎の『詩人』、アンドレーエフの『七死刑囚物語』なども読んだ記憶がある。

 東西冷戦構造が少なくとも表面的に崩壞して以来、とりわけ9.11米国同時多発テロの発生以降は、事件の最大の猗鏗沖畆圓燭詈胴颪亮臚海砲茲蝓▲謄蹇▲謄蹈螢好函▲謄躪餡箸箸寮錣い蓮∪こ人類社会に共通する「大義」と化している。もちろん日本においても、この「大義」自体に異議が唱えられることは皆無に等しく、世界各地から伝えられるテロ事象に対して、政治家も有識者もメディアも市民も保守も革新もひとしなみ爛謄蹐老茲靴撞されない!瓩叛爾鯆イ蠑紊欧襦しかし、時にそれらの非難は、発言する者のひとまずのアリバイあるいは免罪符に過ぎないもののようにも感じられる。(写真=アルベール・カミュ)

 そもそもテロ=テロリズムとは一義的な事柄ではなく、手近にWikipediaを開いても、「『テロリズム』の語の正確な定義には多数の困難が伴っており、100を超える多数の定義が存在している」「テロリズムの概念は、しばしば国家の権威者やその支持者が、政治的あるいはその他の敵対者を非合法化し、更に国家が敵対者への武力行使を合法化するためにも使用されている」などと記されている。仮に――現代における米国のような――圧倒的な力を持つ存在が、気に食わない弱小な相手を虫けらのごとく踏みにじったとしても、それがテロと呼ばれることはあるまい。即ち、基本的にテロとは、強大な権力に向かって非力・卑小な者が立ち向かうための最終手段として選択される。それが爛謄蹐狼されない瓩箸いμ羸擇蠏燭寮杵世砲茲辰得擇蠎里討蕕譴訃況に対して、筆者は常に一抹の割り切れなさを覚える。

 帝政ロシアの圧制に抗するカリャーエフは、セルゲイ大公個人を憎んでいるわけではなく、システムを体現する権力の象徴として彼の殺害を企図する。カリャーエフは、「僕たちは、もう誰ひとり人殺しをしなくなるような世界を築き上げるために殺すんじゃないか! この大地がついには罪のない人間たちでいっぱいになるためには、僕たちは犯罪者になることさえいとわないんだ」と叫ぶ。しかし、決行の日、馬車には計画と異なり、大公妃、大公の幼い甥、姪も同乗していたため、カリャーエフは爆弾を投げることが出来ない。戻った彼は自らの躊躇を恥じるが、他のメンバーの過半は、その中止を支持する。強硬派のステパンのみは「そんな子供のことなんぞどうでもいいと俺たちが決心したとき、その日こそ、俺たちは世界を支配し、革命が勝利を得るんだ」と批判するけれど、爆弾に信管を詰める危険な役を受け持つドーラは「もし人民全体が、あなたが味方して闘っている人民全体が、自分の子供たちの殺されるのを拒絶したらどうなるの? そうしたら、その人民までもやっつけてしまわねばならないわけ?」と反問する。二日後、カリャーエフは大公が独り乗った馬車を再び襲い、その命を奪う。

 彼らは、自ら「テロリスト」と称している。彼らにとってテロは単なる悪ではなく、題名の通り、その「正義」を実現するためのやむなき真っ当な手段と捉えられている。ただし、人を殺すことの代償として、カリャーエフは逮捕され、裁判を受け、自らの主張を述べ、絞首刑となる。当然ながらそこには、「正義」とは何かという重大な命題も併せて浮かび上がってくる。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美ほかです。


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