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非正規・主婦パートの現実を見よ〜書評『女性活躍「不可能」社会ニッポン』

     渡辺照子(派遣労働者)

 女性労働者の半分以上が非正規であるにも関わらず、世間はもっぱら大企業の総合職正社員の女性だけを「活躍」のメインに据えてはしゃいでいるように思えるのは私だけだろうか。もとより国のために「活躍」する必要はないし、既にどの女性労働者も活躍はしているが、それに見合った評価を得ていないだけなのだというのに。 女性の非正規労働者の大半はパートだ。基幹労働力として主要な戦力となっている。しかし、「専門家」は統計調査や、当事者である労働者を量的調査の対象としかとらえておらず、実態、リアリティが見えてこない。その苛立ちに応えてくれたのが本書だ。

 冒頭の「『非正規労働問題』を深く考えられる『上級者』を増やせ」の見出しに心が躍る。著者は「上級者」になるには専門知識が足かせになるかもしれず、センスが必要だと説く。そのセンスとは、労働面だけではなく生活面をとらえ、データにおぼれず実態を知る意欲を持ち、人為的に作られた就業形態を破る信念を持つことだ、と具体的且つ実効性ある提言を掲げてくれる。これならば専門家ではないワーキングプアの私でもできるかもしれない。

 本書は主婦パートを非正規労働の原型と位置づけてそのメカニズムを明らかにし、さらに虚像と実像を示し、たたかう主婦パートとして当事者を登場させる構成だ。著者の、たたかう主婦パートに敬意を払う姿勢と、彼女らの行動こそが何よりも第一級の資料だと述べたこと、彼女らの体験は非正規労働の本質にたどり着くとの主張がどれだけ労働者へのエールになることか。類書によくあるエピソードの列挙にならず、普遍性にまで到達しているから、彼女らの働きぶり、闘いぶりに共感が持てる。さらに、その精神に少しでも学びたいと思わせる説得性もある。

 「たたかう主婦パート」は誰なのか。それは、パートへの賃金差別是正に関わる重要な判決を生み出した丸子警報器裁判の主婦パート労働者たち。そして、家計補助者の状況に甘んじず、企業と闘い待遇改善を勝ち取り、ユニオンの委員長になった坂喜代子(ばんきよこ/写真)さんだ。

 後半にはその彼女ら当事者たち自身の言葉も掲載される。裁判闘争の報告、労働法学等の専門分野の研究の対象に収まりきらない生き生きとした人間模様が描かれ、一編の映画を観るようだ。

 実は坂さんがこの1月に病気で65歳で亡くなった。多くの人々がショックを隠しきれない。しかし、丸子のパート労働者たちの闘いと共に、坂さんの闘いの軌跡は私たち労働者のかけがえのない財産だ。私はそんな財産を残してくれた先輩たちを誇りに思う。

*「女性活躍『不可能』社会ニッポン〜原点は『丸子警報器主婦パート事件』にあった」 渋谷龍一著・旬報社・1500円+税 旬報社


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