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LNJ Logo 映画紹介『フリーダ・カーロの遺品―石内都 織るように』
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●映画紹介
服が蘇るとき 『フリーダ・カーロの遺品―石内都 織るように』(小谷忠典監督)
                         笠原眞弓

 石内都とフリーダ・カーロ。このお二人を合わせたら、一体何が起こるのか。 カーロは、メキシコの前衛的画家で、数年前に彼女の伝記的映画と、ほぼ同時に開催され た展覧会を観て、その激しさと自己に忠実な生き方に強く響くものがあった。カーロは、 彼女の作品を前衛と言われると、「リアルな自分だ」反論したという。そんな感性の彼女 の「遺品」を、石内さんがどう撮るかというのにも関心があった。 石内さんは、これまでも亡き母の下着などの遺品を接写することで母を受けいれられたと 聞いた。また、広島の被爆衣装をカメラに収め、その独特の作風でも有名である。彼女の その写真を観て、フリーダ・カーロの財団から遺品の撮影の打診があったという。 カーロは、母の出身地のオアハカの民族衣装をいつも着ていた。石内さんは、美しい衣装 には目もくれず、小児麻痺の体を支えたコルセットを撮りはじめる。カーロ自らがコルセ ットのお腹に開けた穴、置くとそのまま自立している硬いコルセット。左右の足の長さに 合わせて作られた靴。繕ったあと。痛み止めのモルヒネの小瓶。カーロが住んだ家の一室 に次々運ばれ、自然光の中であるときは、庭の木漏れ日の下で、撮影されていく。 一点一点のエピソードを聞くうちに、カメラの目が変わっていくのがわかる。敬意の距離 が、いつの間に共感の距離へと。そしてあまり撮りたくなかったスカートのデザインの由 来を聞いたあとに、石内さんは服を大切にする知恵に感じるものがあって、新たな構図で 撮り始める。 ところで、こられの写真の展覧会がパリで行われた。そこである男性が、服がまるで肌の ようだと言う。「服は皮膚だ」と遺品を撮影しながら石内さんは語っていた。石内さんの 母の服も、広島の遺品も着ていた人の思いを撮り手が引き出したからこそ、皮膚を感じさ せるのではないか。カーロの写真も、しかりなのだろう。 ところどころに挿入されるオアハカの刺繍現場は、改めて監督がメキシコに行き、撮影し たと聞く。その映像は、映画を単なる撮影の記録映画からもっと普遍的なものへと昇華し ていった。 今でも母親たちが刺繍をし、傍らで幼い少女がその手元を見つめる。若い娘は祖母の代か ら伝わる衣装で、ダンスを踊る。親友の、病の床にあるおばあさんの衣装を譲り受けた若 い踊り手が静かに踊りだすと、あたかも不自由な肢体を解放されたカーロが、傾いた陽光 の中に現われて踊っているようだった。 『フリーダ・カーロ』89分/8月8日シアター・イメージフォーラムより全国順次公開


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