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朝日新聞バッシング:村岡到

危険な狙いに反撃を、報道の正確さの重要性


『探理夢到』10月号に掲載予定。


「朝日新聞」が八月五日、六日に従軍慰安婦問題の特集を組み、三二年前に報道した吉田
清治(故人)の証言が誤報であることを認めて取り消し、さらに、九月一一日に記者会見
を開き、木村伊量社長が、東京電力福島第一原発事故の政府事故調査・検証委員会が作成
した、吉田昌郎所長(昨年七月死去)に対する「聴取結果書」(吉田調書)について、五
月二〇日付朝刊で報じた記事を取り消し、読者と東京電力の関係者に謝罪した。

これらをきっかけにして、いわゆる右派ジャーナリズムによって朝日新聞バッシングが猛
烈な勢いで展開されている。異常な事態と評するほかない。煽情的宣伝文句を売り物にす
る週刊誌が見るに堪えない大見出しを乱発しているだけでなく、石破茂自民党幹事長まで
が国会に証人喚問せよとまで示唆し、安倍晋三首相もバッシングに加担している。「誤報
」と言うなら、安倍首相が昨年九月七日にIOC総会で福島原発事故について「アンダー
コントロール」と大嘘をついたことをこそ追及しなくてはならない。

この一連の危険で騒々しい事態に対して、何よりもはっきりさせなくてはならないことは
、朝日新聞バッシングの危険な狙いを見定め、断固として許さないという声を高めること
である。危険な狙いとは、多少とも時の政府に批判的な言論を許さない風潮を作り上げる
ことである。バッシングのなかでは「売国」なる用語が飛び交っている。

この急所を確認したうえで、いくつかの重要な論点について、ごく簡単に明らかにしたい
。

従軍慰安婦問題と吉田調書問題については、明確にすべき核心は、前者については戦争中
に韓国などの女性に従軍慰安婦として過酷な人生を強制した事実の存在とそれは人道的に
許されるべきではなく、女性の人権を蹂躙するものであったという反省が日本国家と国民
に課せられていることである。後者については原発事故の過酷さがどれほど酷いものであ
るかを事実を通して認識することこそが重要なのである。未曽有の危機に直面して、指揮
命令系統が混乱し、緊急の判断を適切に下すことが如何に困難かを知ることこそが重要な
のである。「命令違反」の有無を表面的に強調することは、核心から目を逸らすものであ
る。

次に重要なことは、報道の正確さと読者の側の認識力を高めることである。偶然にも姓が
同じ二つの「吉田」報道において共通に問われたことは、発言した事実の有無やその正確
さである。業界用語で「裏を取る」ことの重要性である。また、読者の側も、報道された
内容が、事実の記述なのか、推測なのか、直接の言動なのか間接話法なのか、などについ
て明確に区別して認識する能力を備えなくてはならない。過度に強調した表現は、仲間内
の陶酔感には役立つが、認識を深めるブレーキでしかない。

同じように、何が主張されているのかよりも、誰が言ったのかに傾斜して理解する習性を
捨てることが肝要である。「朝日は嫌い」だから……などと考えてはいけない(私事なが
ら、私も「東京新聞」に変えた組ではあるが)。

味方に不利なことは隠したがる傾向が極めて強い。公平さをきわめて欠く社会・現状では
社会的弱者がいわば「弱み」をさらすことを避けるのは必要な場合もあるが、政党やいく
らかでも公的な性格を持つ組織や個人は、弱点を自ら明らかにすべきであり、そのほうが
信頼を増やすことになる。例示したほうが分かりやすいだろうが、今度の事態について、
共産党の「赤旗」の報道は極めて不十分である。

また、マスコミを「マスゴミ」などと蔑んで表現したり、「ブルジョア新聞」などと蔑称
する傾向がある。今回の事態だけではなく、確かにそう言いたくなる報道と報道姿勢が顕
著である例も少なくない。NHKを除くテレビ局はスポンサーによって支えられているし
、昨今のNHKは安倍首相好みのいかがわしい会長がトップである。

しかし、このような「階級的偏見」に陥ってはならない。それは、進行する危険な事態に
対して、訳知りの冷笑的な態度に陥るほかないからである。マスコミの内部でギリギリの
ところで真実の報道を求める真剣な努力を尽くしているに違いないジャーナリストも存在
しているはずである。そういう努力を励まし支えることこそが強く求められている。

渦中のジャーナリスト池上彰氏は、『週刊文春』の連載コラムで「『罪なき者、石を投げ
よ』」とキリストの言葉をタイトルにして、朝日への「節度」を失った「批判」に警告を
発した。「売国」について「問答無用の言論封殺の一環です」として、「こんな用語は使
わないように」と諭している(九月二五日号)。大いに賞賛すべき態度・言論である。『
週刊文春』も朝日新聞バッシングの一味であるが、この警告を掲載拒否はできない。「マ
スゴミ」認識では、この池上コラムを公平に評価することはできない。

この事態を発行部数拡大のチャンスとして利用する読売新聞などの販売活動は邪道の極み
である。一時的に朝日から読売に変わる読者が増えるだろうが、結局は新聞への信頼の低
下を招き新聞離れを助長することになることを知るべきである。

言論への抑圧に視点を据えれば、〈スラップ訴訟〉にも強い関心と注意を向けなくてはな
らない。この聞きなれない言葉は、自分に不利益な言論を「名誉棄損」を口実にして法外
な損害賠償を要求して裁判を起こすことを意味する。DHCと吉田嘉明社長は、雑誌『フ
ァクタ』や澤藤統一郎氏などに二億円から六〇〇〇万円の損害賠償を要求している。澤藤
氏は憲法第二一条の表現の自由が係争点の核心だとして反撃している。だが、この〈スラ
ップ訴訟〉をどのマスコミもミニコミも取り上げない。「スラップ訴訟か」などと腰を引
く者もいるが、言論への抑圧を狙うこのような事象についても、その重要性を認識して反
撃・報道することが強く求められている。

Created by staff01. Last modified on 2014-09-22 15:18:32 Copyright: Default

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