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第26回・2014年1月4日掲載

フランス独立メディアへの攻撃
「誰がメディアパルトを殺そうとしているのか?」

 安倍内閣と与党は去る12月6日、戦後史上まれに見る非民主的なやりかたで、市民の知る権利と表現の自由を侵害する「特定秘密保護法」を強行採決させた。安倍首相の暴走は靖国参拝など拍車がかかる一方で、ニューヨークタイムズやワシントンポストが危険を社説で指摘するほどだ。そのうち国際社会全体が、この政権を民主主義とは見なさなくなるだろう。

 市民の知る権利、公共の情報にアクセスできる権利は、フランスでは革命中の1794年、公文書を編成する法律で「すべての市民はすべての保管所で、そこにしまわれている書類を指定された日時に無料で閲覧することを要求できる」と定められた。表現の自由は1789年の「人権宣言」の第11条にあり、1881年の「報道・出版の自由についての法律」によって法制化されたものが基準となっている。複数の革命を経ても、第二次大戦中のヴィシー政権のような専制政体による権力掌握が起きたフランスの歴史を見れば、市民の権利は常に闘って勝ちとり、守っていかなくてはならないものだとわかる。民主主義は憲法など法律と制度で規定されていても、それらは形骸化する危険が常にあるのだから、主権をもつ市民が培い、補強していかなくてはならないのだ。


  *写真=メディアパルト(2013年3月28日の画面)トップ記事は「オランド、左翼に別れを告げて」

 スノーデンの告発が明らかにしたように、テクノロジーの発達によって現在は権力による監視が大規模かつ緻密にできるようになり、同時に内部告発者を犯罪人化し、市民の「知る権利」を侵害しようとする動きが強まっている。また、フランスでは近年、大資本グループによる新聞・雑誌の買収が進んだため、メディアの独立性は困難に陥っている。そんななか、広告にも公的援助にも頼らず、読者の購読料のみで採算を立てるインターネット新聞「メディアパルトMediapart」(写真)が2008年に誕生した。調査にもとづいた良質で「公の利益」となる情報を提供しようという試みであり、政界・経済界の癒着や富豪、企業家、政治家の脱税・収賄疑惑などの事件をいくつも暴露し、市民の「知る権利」に貢献してきた。今年の7月、ベタンクール事件の情報源について「「プライバシー侵害」という不当な判決を受けたことを前回のコラムで紹介したが、この年末、メディアパルトに対して新たな攻撃がしかけられた。

 フランスでは、紙媒体のメディアに課される付加価値税(TVA消費税)が2、1%と低い。しかし、インターネット出現以前につくられたこの規定は、ネットを媒体とする報道メディアには適用されず、他の消費材と同じ19、6%の税率が課される。同じく報道を使命としているのだから、これはフランス憲法や欧州連邦基本権憲章の平等原則に反するとして、メディアパルトなど「ネット媒体の独立報道メディア組合(Spiil)」は税率の平等を求めてきた。それについて国の対応は「なるべく早く平等を達成する」というものであり、文化やメディア、国の援助についての3種の報告書も、ネット媒体の税率を紙媒体に合わせる必要性を強調していた。現政府の文化・コミュニケーション大臣や法務大臣、そして多くの議員も同率化に賛同していた。

 ところが、学校がクリスマス休暇に入る直前の昨年12月20日、メディアパルトとネット媒体メディア「アンディゴ出版」に税務署(経済財務省)の会計監査が入った。双方とも「ネット媒体独立報道メディア組合」に加入し、2、1%の税率で申告してきた報道メディアである。メディアパルトに対する税務署の請求総額は、2008〜2010年3年間の消費税不足分に、罰金としてその40%と遅滞にかかる利子が加わり、100万ユーロ(現在のレートで約1億4500万円)以上にのぼった。

 メディアパルトは運転資金約500万ユーロ、社員29人(ジャーナリスト27人、職員2人)に3年間は給与を保障するという形で発足し、最初の会計年度3年間は赤字だった(2年半で採算ラインに到達)。2011年からは購読者が増えて黒字になり(現在の購読者は8万1000人強)、社員も49人に増やして独立メディアとしての基盤を固めようという時期に、この巨額の税金はとてつもない痛手だ。さらに、2014年1月13日には2011年度から黒字3年分についての審査が予定されており、その請求額を試算すると600万ユーロに達するという。2013年の総売上が680万ユーロ(利益約80万ユーロ)のメディアパルトにとって、これは死の宣告となる。

 会計監査のやりかたも異例である。監査の通知(17日午後17時に受領)から正味2日間で検査官が入り、2度の訪問後ただちに請求通知が送られた(24日付、巷がクリスマスイヴの用意をしている日)。それほど急いだのは、2013年中に行わなければ時効になるからだが、税務署が通常これほど露骨に敵意を示すことはない。メディアパルト編集長兼社長のエドウィー・プレネルは同社のサイト上で、請求通知24ページの内容は短時間の監査結果によるものではなく、既に用意されていたのが歴然であり、誤った情報による不当な措置も含まれていると訴えている。納得がいかないのは何より、メディアパルトなどネット報道メディアが2、1%の税率を主張しつづけ、その主張を2009年以来政府も妥当なものとし、19、6%課税は事実上「猶予」されていたにもかかわらず、経済財務省が彼らを脱税者のごとく扱い高い罰金まで課したことだ。この突然の措置はいったい何を意味するのだろう? 

 メディアパルトはふたりの予算大臣(ヴルト、カユザック)の脱税や不正疑惑を暴露しただけでなく、富豪や巨大資本に甘い経済財務省の財務政策(それを作るのは大臣ではなく高級官僚)を摘発してきた。メディアパルトの調査がなかったら、政界・財界癒着のいくつものスキャンダルを市民は知り得なかったのだ。そうした情報が明るみに出ても、税務署が富豪などに対して早急に粗暴な監査を入れることはない。この会計監査は、メディアパルトなど独立メディアを抹殺しようとする目的で行われたのではないか、と勘ぐりたくなる。このほか2種のネット媒体独立メディア、「アレ・シュル・イマージュ」と「テラ・エコ」にも会計監査が入っている(いずれも「ネット媒体独立報道メディア組合」の創立中心メンバーの媒体)。

 年末の休暇時にもかかわらず、「メディアパルト友の会」会長の数学者ミシェル・ブルエはさっそく大統領に抗議の公開書簡を発表し、紙媒体の新聞・雑誌の編集長、議員などを含む人々が呼びかけた「平等な税率を求める訴え」の署名運動が始まった(署名は1月3日現在、26000以上)。メディアパルトなどネット媒体のメディアに対する経済財務省の課税・罰金措置が不当だと訴えるためである。紙メディアとネットメディアの税率の平等化は、前述したように政府も賛同して法制化するまでの猶予が認められていた。おまけに2011年、欧州連合司法裁判所ではイギリスの課税に対して、「同類の内容の製品について、媒体が異なっても異なる税を課してはならない」という判決(ランク判決)を出したため、これが判例とされている。つまり、ネット媒体メディアを紙メディアと同等に扱う原則は、フランスに限らずEU内で合意されていたはずなのである。

 また、フランスの紙媒体メディアの税率は一般の製品(この1月1日から20%に増税!)や「生活必需品」(基本食品など、5、5%)より低い2、1%だが(イギリスでは0%)、そのうえ国から多額の補助金を受けている。その額はル・モンド紙やフィガロ紙の場合、2012年に1800万ユーロ以上であり、テレビ情報誌でさえ300〜500万ユーロにいたるという。メディアパルトは黒字になって以降、公的援助を拒んで独立性をさらに高める努力をしている。テレビ情報誌は言うまでもないが、独立性の薄れた紙媒体新聞・雑誌に比べて、ジャーナリズム本来の民主主義の監視という役割を果たしているメディアパルトの購読料に「一般商品」と同率の20%もの税率を課そうとするのは、なんとも不条理である。

 この突然の会計監査は何を意味するのか、国家機関の内部事情を知らない一介の市民には理解できないが、たしかなことは、経済財務省で高い地位にいる誰かが、暮れに異例の会計監査を命じた事実だ。同率課税を求めるメディアパルトのそれまでの主張や「猶予」を知らないはずはないし、「アレ・シュル・イマージュ」と当局が係争していることも承知のうえだろうから、彼らのネット媒体メディアへの敵意は明らかだ。政府内やEUにおける合意に反して独立メディア攻撃を決めた経済財務省の高官たちは、自らの権力が大臣や議員、大勢の市民の意見を踏みつぶせるほど強大だと信じているのだろうか?

 経済財務省の高官がそう思い込んでも無理からぬ事情は、実際に存在する。EU規模でネオリベラル政策を実際に進めるのは、各国の財務官僚たちだ。オランドが大統領に選出された2012年、政権が変わっても財務局のトップには、サルコジ前大統領が任命した銀行や大企業に「好意的な」高官がつづけて起用された。そして、低所得者にもっとも重く負担のかかる付加価値税(消費税)の値上げに象徴されるように、オランド政権の経済政策は公約に反して、左」とは言えないものになった。オランドが過激な左の政策をとるとは誰も思っていなかったが、銀行や大企業に甘く、脱税対策における経済財務省の特権を温存させたことに、左翼支持者は深い幻滅を味わった。

 しかし、独立メディアとして国際的にも評価されているメディアパルトを、個人やふつうの企業のように簡単に屈服させることはできないだろう。IWJをはじめとするネット媒体の独立メディアが、マスメディアに比べていかに市民の「知る権利」に貢献したかは、福島第一原発事故後の日本でも明らかである。時間をかけた調査にもとづく良質で長い記事をネットで発信するメディアパルトの存続は、フランスのみならず世界のジャーナリズムにおける新たな可能性として、重要な意味をもつ。市民社会を活性化するネット媒体の独立メディアがますます力を発揮できるように、今年も支援しつづけよう。

        2014年年1月3日記  飛幡祐規(たかはたゆうき)


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