CS神奈川懇話会 : 「尖閣問題と東アジアの平和」テーマにディスカッション

12.8 第二十二回CS神奈川懇話会「尖閣問題と東アジアの平和」報告

2012年12月8日、川崎市の中原市民館において、市民連帯神奈川懇話会「尖閣問題と東アジアの平和」を開催しました。話題提供者は、共同通信社客員論説委員で、桜美林大学非常勤講師の岡田充さん。岡田さんは、11月20日に蒼蒼社から、『尖閣諸島問題－領土ナショナリズムの魔力』を出版しました。集会参加者は全体で10名でしたが、宮古島や西表島の出身者もいて、活発に討論しました。岡田さんの報告要旨は、次の通りです。

「領土ナショナリズムの魔力」に、日本も中国も台湾も取り憑かれている。石原慎太郎前東京都知事の掌で、われわれは踊らされている。彼は3年前には「棚上げ」を語っていたが、今年4月、ワシントンで尖閣諸島購入計画をぶちあげた。緊張激化と新党結成が、恐らく彼の思惑だろう。「領土ナショナリズムの魔力」から逃れるのは困難だが、現在の中台関係を考察することで、魔力を解く呪文が見つかるかも知れない。

中国(中華人民共和国)の尖閣に関する公式見解は、「台湾本島に付属する島嶼である」が、「大陸も台湾も共に一つの中国に属するから尖閣は中国固有の領土である」というものである。その台湾(中華民国)の馬英九総統は8月、「歴史的・地理的・国際法的にも中華民国の固有の領土である」「日本が尖閣を力尽くで奪った」としながらも、「主権は分割できないが天然資源は共有できる」とし、「主権争いの棚上げと対話による解決」すなわち「東シナ海平和イニシアチブ」を提案した。台湾が尖閣の領有権を正式に主張したのは、ニクソン訪中や沖縄返還協定と同じ1971年だが、1943年のカイロ宣言、1945年のポツダム宣言、そして1951年のサンフランシスコ条約が重要文書であり、それを読み解くためには歴史をさらに遡る必要がある。

[関連略年表]
1871　　台湾先住民が南方に漂着した宮古の琉球人54人を殺害。
1872　　第一次琉球処分。
1874　　台湾出兵。
1879	　第二次琉球処分。清朝が強く反発。米グラントが調停「三分割案」。
1880	　明治政府が宮古・八重山を清朝に割譲する分島案を提示し仮調印。後に清朝は拒否。
1885　　尖閣への国標不許可。　
1894　　日清戦争開始。  
1895.1　魚釣島・久場島への国標建設を認める閣議決定。日本領に編入。
1895.4　下関条約で台湾を日本植民地に。 
1909　　尖閣の魚釣と久場島に248人の移住者が定着。

さて近年、中台関係は急速に変化している。これまで台湾の内政や外交をめぐっては、①統一か独立か、②独裁か民主か、②反日か親日か、④外省人(人口の15%)か本省人(同85%)か、という対立軸で語られることが多く、「統一・独裁・反日・外省人の国民党(ないし中国)」「独立・民主・親日・本省人の民進党」とモデル化されていた。だが1996年ミサイル危機を経て、総統選が直接投票になり、2008年に馬英九が当選することで、このモデルは意味を失った。馬英九は2004年から、「統一でもなく独立でもなく現状維持」という両岸政策に転換したが、背景には統一5％以下、独立15％～20％、現状維持70％～80％という世論がある。他方で中国の胡錦濤は、「統一はしていないが分裂(独立)もしていない」という現状認識であり、中台双方が「一つの中国」を認める現状に問題はない、という態度である。

「現状維持」という第三の選択肢により中台関係は安定化し、2009年から飛行機の直行便が両岸を結び、2010年にはFTAに相当するECFA(両岸経済協力枠組協定)が締結された。主権論争を「棚上げ」し、仮想国家「一つの中国」の下で現状を維持するというモデルを、尖閣問題へも応用できないか。日中の領有権に関する主張には各々それなりの根拠があるが、固有領土論と「領土問題は存在しない」という態度は、対話と平和解決の道を閉ざす。「実効支配」している有利な側が、それを強化すれば紛争になる。尖閣も竹島も「北方領土」も、人工的国家のものではなく、そこに生きる生活者のもの。「共通生活圏」が、主権・領土論を越えるキーワードになり得る。香港返還に際して、「一国二制度」というキーワード
が、「一国一政府」という国際法の常識を乗り越えたように。

以上が報告の要旨ですが、質疑応答では2000年の日中漁業協定と2008年の東シナ海日中ガス田開発に関する合意、江沢民や周近平の対外政策、そして米国の東アジア戦略などをめぐって議論になりました。終了後の懇親会でも、台湾2.28事件からの逃亡ルートとしての与那国など、様々な話題が出ました。領土ナショナリズムや東アジアの地殻変動をめぐっては、議論が尽きないのですが、充実した懇話会だったと思います。

佐藤和之(CS神奈川世話人)