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LNJ Logo JR岩泉線廃止表明と三陸各線の復旧のあり方について/安全問題研究会
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黒鉄好@安全問題研究会です。

JR東日本が、2010年7月の水害以降不通となっている岩泉線(岩手県)に関し、3月末に復旧断念(廃止)の方針を明らかにしました。東日本大震災からの復旧途上にある三陸各線を巡る問題と併せて考察しました。ブログからの転載です。

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(参考記事)JR岩泉線、再開断念の方向 3月30日にも正式発表(岩手日報)
http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20120329_3

岩手日報記事にあるとおり、2010年7月に大雨に伴って起きた脱線事故の後、復旧ができないまま不通が続いていた岩泉線について、JR東日本が復旧断念(廃止)を表明した。もし廃止となれば、国鉄再建法に伴う特定地方交通線以外のJR東日本線では初めてとなる。

当ブログがこの事態に際し、どのような態度を表明するか、注意深く待っている人もいるかもしれないが、岩泉線が現在、JR線としては最も営業成績の悪い路線であることは疑いないだろう。JR東海には名松線、西日本には木次線、三江線という「超大赤字路線」が存在するが、これらの赤字線ですら岩泉線には遠く及ばないと思われる。何しろ岩泉線の2005年度の輸送密度はたったの85人である。国鉄再建法が特定地方交通線(廃止対象路線)の選定基準としていた輸送密度4000人と比べて実に2桁も少ない。

国鉄末期には特定地方交通線の選定に絡んでずいぶん話題になった輸送密度だが、最近はこれが話題になることも少なくなったのでもう一度おさらいしておこう。旅客輸送では1日1キロメートルあたり何人の乗客があるかを示すもので、単位は人キロ。貨物輸送では、1日1キロメートルあたり何トンの貨物があるかを示すもので、単位はトンキロ。旅客、貨物の両方がある路線では、この合計が人トンという単位で示される。例えば1人の乗客が10キロメートル乗車した場合、輸送密度は10人キロ。10トンの貨物を100キロメートル輸送した場合、輸送密度は1000トンキロとなる。

岩泉線の輸送密度85人という数字は、1人が仮に8.5キロメートルを乗車するとしたら、1日1キロメートルあたりわずか10人の乗客しかいないことになる。あらゆる公共交通が成立し得ない破滅的な数字だ。仮に鉄道を廃止して代替交通手段を用意するとしたらタクシーが2台もあれば充分だ。

これほどの大赤字路線がどうして今まで生き残れたかは改めて申し上げるまでもないだろう。国鉄再建法には、並行道路が未整備の場合には特定地方交通線から除外できる例外条項があった(並行道路が雪や凍結で年間10日以上通行止めとなる場合は未整備とみなす)。岩泉線も、いったん第2次特定地方交通線に指定されながら、並行道路未整備を理由に指定から外れ、現在に至る。

今なお岩泉線に並行するのは片側1車線の国道455号線のみだ。私はこの区間を車で走ったことがある。季節は夏だったと記憶するが、山岳区間のため勾配は急で、冬はとても通れる状況にはない。これこそ岩泉線が今まで生き残ってきた秘密なのだ。

「岩泉線はボランティアだ」とあるJR東日本幹部が語った、という話を伝え聞いたことがある。真偽のほどは明らかでないが、上記の輸送密度を見ればボランティア同然であることは明らかだ。1日1キロあたり10人なんて、遊園地のミニSLでももうちょっと乗客がいるんじゃないの、と言いたくもなる。

しかし、それでも、当ブログは岩泉線を廃止してよいとは言えない。根拠はいろいろあるが、先に述べた唯一の並行道路――まさに岩泉線が特定地方交通線指定を免れる原因となった国道455号線の冬の状況が思わしくないこと。JR東日本は今年3月に廃止となった十和田観光電鉄(青森)のような青息吐息のローカル私鉄と異なり、こんな赤字路線を抱えながらも黒字経営であるということ。

そしてなにより許せないのは、かつてJR東日本が「(JR東日本は)発足後、線路を廃止したことはない」と大見得を切っていることだ。

東北新幹線が新青森まで延長開業すれば、JRのどの路線ともつながらず、孤立した路線となるJR大湊線が廃止されるのではないか――そんな懸念が青森県内で強まっていた2007年11月、「東奥日報」(青森県の地方紙)がJR東日本を取材し、大湊線問題を質した。このときJR東日本広報部は同紙に対し、上記のように大見得を切った。2007年11月25日の同紙は1面トップでそのことを伝えている。

もちろんJR東日本は大湊線以外のいかなる路線にも言及していない。しかし、その大上段に構えた表現を見て、誰もが「JR東日本は未来に向かって、責任を持って自社路線の存続を約束した」と思ったに違いないのだ。

2012年1月22日、岩泉線早期復旧を求める決起大会には900人が参加した(2012.1.23付け河北新報、http://www.kahoku.co.jp/spe/spe_sys1062/20120123_05.htm)。もっとも、この決起大会参加者のうち何人が実際に岩泉線を利用しているのか私は聞いてみたいと思う。ほとんどの参加者が決起大会に参加はしても実際にはほとんど岩泉線など利用したことがないに違いない。彼らがせめて1ヶ月に1度でも岩泉線に乗っているなら、輸送密度85人などという無残きわまりない数字は決してあり得ないからだ。国鉄末期の「乗って残そう○○線」運動の時にも見られた現象だが、廃止反対集会に参加はするけれど自分は乗らず、自分以外の誰かが乗ってくれることで廃止を免れればいいという姿勢には大いに疑問がある。地方の衰退は住民の責任ではないし、それを招いた者に対して正当な批判を加えることはもちろん必要だが、鉄道を残したいなら住民みずから明日の地域の姿をイメージできるような未来図を示す努力も必要だ。

ただ、記事によれば、岩泉−宮古間は列車なら1時間15分で行けるのに対し、バスだと2時間かかるという。国鉄末期、岩泉線を特定地方交通線から除外しなければならなかったほどの並行道路未整備は現在でもまったく解消していない。この問題を放置したままの廃止には、同意できない。

次に、東日本大震災からの三陸各路線の復旧の望ましいあり方について述べることにしよう。

津波による甚大な被害を受けた三陸各路線の復旧に当たって、元通り沿岸部での復旧を望む声と、高台に移転した上で新しい鉄道のあり方を探る声とがあり、復旧が遅れる原因になっていると聞く。この問題は、誰のための復興なのか、地盤沈下してゆく地方の現実の中で「単にすべてを元通りにするだけ」の復興でよいのかという最も本質的な問題と直接つながっている。特に宮城県では大資本本位、住民置き去りの「名ばかり復興」が続いており、このままでは巨大な税金を垂れ流したあげく、ゼネコンが儲かるだけで終わりという「いつか来た道」を性懲りもなく繰り返すだけである。

かつて鉄道が沿岸部を中心に建設された背景にはいくつかの事情があった。

(1)長大トンネルを掘る技術と予算がなく、沿岸部の限られた平地を鉄道用地に選定せざるを得なかった。

(2)漁港を中心として地域経済が動いており、人が集まっている沿岸部に鉄道を通す必要があった。

(3)水揚げされた魚の輸送に鉄道が使われており、漁港に貨物線を引き込むために鉄道が沿岸部に敷設される必要があった。

――等々の事情である。

しかし、魚の輸送が鉄道から自動車に移行したこと等により、今日ではこれらの理由はほとんど失われてしまっている。津波対策を重視するのであれば沿岸部にこだわるのは得策ではない。

もうひとつ重要な点がある。JR東日本よりも財政状況がはるかに悪いはずの三陸鉄道の方が速いペースで復旧している理由が「三陸鉄道の企業努力と災害ボランティアの献身的活動」にあると商業メディアは伝えている。もちろんそれも理由のひとつに違いないが、精神主義的にそれだけを強調するメディアの報道からは決してわからない隠された理由も潜んでいる。

旧国鉄宮古線は開通が1972年ときわめて遅かった。しかし、そのために技術が進歩して長大トンネルや高架線が多用された結果、同線を転換した三陸鉄道の被災は比較的少なかった。少ないといっても甚大な被害であることに違いはないが、開通が遅かったためにトンネルや高架線区間の多い三陸鉄道が、結果としてJR各線に比べ早く復旧しているという事実がある。鉄道を高台に移転させる、長大トンネルや高架線を造って線路を付け替えるなどの方法が津波対策としてきわめて有効であることがわかるだろう。

それでもなお、沿岸部で元通りの形での鉄道再建が必要だと主張する人たちは、津波の危険を減らすためにトンネルや高架線区間を増やしたり、鉄道を高台に移転させたりすることよりも優先すべき「何か」があることを地域住民に示し、納得させる必要がある。

私が見る限り、津波対策の重要性に優先するほどの価値観というのはただひとつしか存在しない。「もう一度、若者に継承してもらえる産業として新しい漁業・漁港を創造し、それを鉄道とともに地域経済の中心に据える」という価値観のみである。これなくして唱えられる沿岸復旧論は単なる惰性にしか過ぎないように、私には思われるのだ。

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黒鉄 好 aichi200410@yahoo.co.jp

首都圏なかまユニオンサイト
http://www3.ocn.ne.jp/~nakama06/

安全問題研究会サイト
http://www.geocities.jp/aichi200410/

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