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LNJ Logo 木下昌明の映画批評『長良川ド根性』
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●東海テレビ放送制作『長良川ド根性』
「長良川河口堰」運用から16年―再生に懸ける漁師の“ド根性”

 地方のローカル局ががんばっている。なかでも『青空どろぼう』(2010年)、『死刑弁護人』(12年)などの問題作を立て続けに公開した東海テレビ放送の阿武野勝彦と、そのスタッフの活動には目をみはるものがある。

 いずれも東海地方の事件が中心だが、ともすれば歴史の片隅に埋もれてしまう問題をドキュメンタリー映画によって蘇らせている。局の倉庫に眠っていた古い映像を活用するなど、個人ではなしえない地元局ならではの強みが表れている。さらにテレビではなく映画にすることで、地方枠に限定されていた問題性を全国に広げることができた。『長良川ド根性』も、そうしたローカル局ならではの力量がいかんなく発揮されている。

 長良川は、木曽川と揖斐(いび)川に狭まれて伊勢湾に注いでいる。その河口は淡水と海水が混ざる“汽水域”にあたり、ヤマトシジミの宝庫だった。また干潟で採れるハマグリは、浮世絵の広重が描いたほどの名物だった。それが高度経済成長期、干潟は「農地が必要」と埋め立てられた結果、ずっと荒れ地のまま。その時々に利水や治水と名目を変更してつけながら、漁師らの猛反対を押し切って河口堰が造られた。

 あれから16年。推進側だった愛知県が堰の不要論を唱え、開門調査を始めた。確かに堰によって下流ではヘドロでシジミが、上流でも砂の堆積でアユがいなくなっているという。

 映画はそんな悪環境に活路を見いだそうと、ハマグリの養殖や人工干潟づくりに取り組む漁協長の「ド根性」人生に焦点をあてている。彼の活動から、利権のために「人よりコンクリート」を優先させる国策に翻弄された漁民の不条理な歴史が浮かび上がる。

 開門調査のヒアリングに呼ばれた漁協長が、怒りを抑えて訴えるシーンは圧巻だ。「あれが間違いだったのなら、生きとし生けるもののゆりかごであった二千数百立米(りゅうべい/立方メートルの砂を元に戻してください」と。―公共事業とは何なのか。(木下昌明/『サンデー毎日』 2012年11月18日号)

*11月10日より東京・ポレポレ東中野にて。他全国順次公開。

〔付 記〕 本多勝一は「自然保護と開発―政官財、環境破壊の大罪」のなかで、長良川河口堰について「この計画に実際にゴーサインを出したのが、時の金丸信建設大臣です」と語っている。そして本多は建設理由を「金儲け」のためと指摘している。金丸信(自民党)といえば脱税で逮捕された折、事務所の金庫から金塊が出てきたニュース映像が目に浮かぶ。


Created by staff01. Last modified on 2012-11-09 12:06:09 Copyright: Default

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