東埼地域中小労組 : 労組主導、競売物件を「任意売却」労働債権回収に成功！

労組主導、競売物件を「任意売却」労働債権回収に成功！
　　～東埼地域中小労組・Ｔ工業分会の取り組み～

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　２０１２，０８，０９　　

２０１２年６月９日、東埼地域中小企業労動組合（佐々木勝美委員長、板橋区常盤台
に本部。個人加盟労組・創立後４０年を経る）は、２年余にわたる労働債権回収行動
の：まとめ：会議を行った。

勝利の内容は、労組分会員一人当たりの配分金とし、要求額の１００％以上を獲得
した。更に、会社側の諸経費をまかなう事が出来、中小銀行他には競売提訴金額を決
済時満額クリアーさせ、労組本部にも諸活動経費の精算を済ました。総括では「労働
組合が有ったから今回の債権回収行為が成功裡に執行出来た。諸運動の先輩達の様々
な教訓に学び、その歴史ある運動の延長線上と、我々の努力が勝利をもたらした。こ
の教訓を生かし、本労組の更なる持続・発展に尽力したい」とした。そしてご支援を
頂いた関係各位に総括文（全文８ページ、約１２，０００文字）を、お配りする事を
決定し、７月初旬実行した。更に、レイバーネットのご好意により、ここに配信する
事となった。

２０１0年（平成２２年）７月、Ｔ工業のT社長は東京地方裁判所からの『競売通告書』を持ち
『何とかして下さい！』と駆け込んで来たのが組合でした。労組本部として
は、分会員の勤務先のＴ社の借地上に建つ工場兼社屋が競売にかかる、労働者は給料
も長年の間未払いで、膨大な額になっている。

労使双方から解決の依頼を受け、「対策本部」を立上げ、半年余の行動によって、回
収に成功した。　強制的な裁判所による『競売通告』を取下げ、労組主導による『任
意売却』を成功させ、借地上に建つ建物「会社側・組合差押」と、底地権を持つ「地
主」を説得し了解を頂き、一括売却し、回収目標を成就させた。また、債権回収に当
たり「譲渡課税をゼロ」更に会社の積年の未納税問題を「消滅通知書」送達を得て解
決した。又、社長の希望で倒産を避け「解散」で処理した事例です。

回収へのプロセス　として下記を実行

１）労働協定書の締結(売れたら支払います、と記入)。２）公正証書化(未払い給与
の労働協定で)。３）競売・売却物件を労組が「差押」(公正証書で)。４）売却物件の
高品質化・一括売却。５）「按分協定書」他を、売却契約の前に調印。６）売買契約の
締結・決済。７）労組指定口座に入金。８）税務問題の解決。以上の方針を決め、漸次
実行し、解決した。

＜対策本部の構成＞佐藤進分会長、穴田維雄任意売却提案者、中村二郎会計責任者、
池田新一書記長、元工場長千葉氏、同じく東氏等で構成された。豊嶋興儀１級建築士
・宅建取引主任が労組・会社の委託を受けコンサルタントとして参加。対策本部は、
随時執行委員会に報告・討議し、決定に基づき行動し成果をおさめた。

ーー以下は全文ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

20１２年9月２日、東埼労動組合（佐々木勝美委員長、板橋・常盤台に本部。個人加
盟労組・創立後４０年を経る）は、２年余にわたる労働債権回収行動の：まとめ：を
発表した。以下全文である。

●労組主導、競売物件を「任意売却」　労働債権回収に成功!

はじめに　　　　　　　　　　　　　２０１２，０９，０２,　　　文責　村上　広

20１0年（平成２２年）７月、Ｔ工業のT社長は東京地方裁判所からの『競売通告書』
を持ち『何とかして下さい！』と駆け込んで来たのが労働組合でした。中小企業労働
者を組織し４０年以上の歴史を持つ個人加盟の　ささやかな労組です。

労組本部としては、分会員の勤務先のＴ社の工場兼社屋が競売にかかる、労働者は給
料も長年の間未払いで、膨大な額になっている。

Ｔ工業㈱の労働者全員と、その経営者のＴ社長の双方から解決の依頼を受け、執行委
員会で鋭意検討し引き受ける事にした。「対策本部」を立上げ、全力で取り組む事を
決定し半年余の行動によって、全面的な勝利、労組員が要求した１００％以上の回収
に成功した。

強制的な裁判所による『競売通告』を取下げ、労組主導による『任意売却』を成功裡
に執行、借地上に建つ建物「会社側・組合差押」と、底地権を持つ「地主」を説得し
了解を頂き、一括売却し、初期の目標を成就させた事例である。

グローバル経済構造と言われ、世界経済は金融主義が台頭し混迷の最中であり、ポス
ト資本主義の明確な展望に欠ける今日である。生産拠点の急激な海外進出、日本に於
ける空洞化の進捗は、大企業や政府の現状からして、当分続くと考えられよう。海外
への生産拠点の急激な移転は国内産業の崩壊にもつながり、衰退は避けられない。
（小生は、世界各国が自立的経済システムに回帰し、自国が必要とする物は自国で生
産・消費し、余力で輸出する。また、必要最低限の物資を輸入する。グロ－バルスタ
ンダードが、あくなき奢侈経済化の追及・半面差別化の進行が、果たして人類の未来
を豊かにするものかと疑問を抱いている。この文は表題のものであり、本意は別の機
会にゆずる。）

現在の世界的金融危機・デフレ経済の状況下、労働者や中小企業の経営者は大変な犠
牲を強いられております。国内の労働環境の悪化は当分避けられない。

ここに記すＴ社の経験は、現在の日本の中小企業が抱える普遍的な問題であり状況で
あろう、と思う。

裁判所の手による強制的「競売」を避け、労組主導で「任意売却」を行い、銀行等の
債務を決済し、併せて労働債権の回収を図り、更には会社側にも諸費用の充当をした
い。あくまでも　組合の自主的・恣意的な方針で解決する、との方向を決めました。

労組は、会社側の物件所有者３人及び分会員５人、計８名の全面的な『委任』を受け
た。競売問題に関する一切の処理の件、の委任であり、不動産の売買・労働債権の回
収・それに関連する税務問題の処理・裁判所の競売通告の取下げ・付属業務、などの
全ての代理権限付の委任を受け、事案の処理に取り組んで参りました。

裁判所に依る強制競売を取止めさせ「任意売却」で労働債権の回収と　銀行等の債務
の諸支払い、会社側への諸費用の支払いは、一昨年末（平成２２年１２月）すべて完
了しました。

そして、昨年（平成２３年）３月の確定申告期には、労働債権回収に伴う売却物件の
決済金受領に際して「譲渡課税」の「未発生の申告」方向で済ませた。受領総額を　
差押えた労働債権分・・未払い給与引当金として受取り、源泉税を納め、労働者に配
分した。労働者に配分した中から拠出金を集め、諸費用・諸経費の処理を行った。

更に、平成２３年７月～８月にかけ、解散したＴ工業㈱の年次決算、精算決算・結了
登記・登記簿閉鎖などを完了させました。

平成24年3月、Ｔ工業㈱の積年からの、残余の税務問題について「消滅」したとの
「通知書」が届けられ、残余問題も解決しました。

その過程で、労働運動とは馴染みない業務も発生し、その処理にあたり専門分野の
人々からの御意見をお聴きし、集団討議を経て、方向付けを行いつつ　逐次処理し解
決にいたりました。

当然、任意売却の実施に向けて　物件の買取る業者側の諸条件、更地化・建物の解体
や整地・近隣との諸条件の打ち合わせやその解決・整理、任意売却にむけての銀行へ
の返済・差押えられている滞納税（都税・区税、など）の決済などを組合側主導で行
い、地主の持つ底地権と　会社側及び労働側の持つ借地権を　併せて一括売却した。

概　要

2010年7月初旬、会社は銀行からの借入金、元利も払えなくなり借地上に建つ「建物
を差押」られ、矢の催促状。会社は払えないので返信もせず放置。（事業所は、昭和
31年個人創業、昭和42年法人格・株式会社化、現社長は平成19年６月就任）建物は木
造瓦葺２階建ての古色蒼然とした古家であり、以後増築を行なったが、つぎはげだら
けの4棟。建物だけでは無価値に等しい。

その借地権上に建つ建物の所有者は個人の3人（会社の連帯保証人が、同じ3人・御兄
弟。うち一人が社長、他の2人は10年前から会社の役員を退任していた。先々代社長
から１/３ずつ相続、以降会社の連帯保証人）を、銀行は貸金を取戻す為差押物権の
「競売」を裁判所に訴えた。

裁判所は銀行の訴えを認め、裁判所として「担保物権」を売却して銀行に払うとし
『競売通告』をＴ工業及び連帯保証人の個人3人にもしてきた。

裁判所からの競売通知書を持参した社長は、現役の労働組合員（中小企業の労働者を
中心として組織する労働組合・Ｔ分会員）に、解決の相談をした。分会は直ちに労組
本部に持ち込んだ。
労働組合本部は、執行委員会で検討した結果、Ｔ分会の問題を、組織全体の問題とし
て、本部で全力をあげて取り組むことを決定した。

方向として

実体調査・協議と方向付け

当初は、職場防衛の立場で、企業継続の方針を持った。調べてみると2000万円弱の資
金調達をすると、銀行への返済が可能であった。資本金の増額などにより継続方向で
会社側・労組分会員と話し合いに入った。

数度の話し合いの結果、残念ながら事業継続は労使共に不可能であるとの結論に至っ
た。

金属加工の注文の激減による経営不振、その慢性化。労働者には賃金の遅配続き、事
業資金の借入れもこれ以上出来ず、銀行からは逆に既存の返済を迫られ生産工場を
「差押」された。

経営側の先代社長の急逝による、いきなりの現社長就任が平成19年６月で、努力をし
たが経営者としての限界を越えていた。直接働く現場労働者・組合の分会員は、社長
に全面協力したが、平成20年秋のリーマンブラザーズの経営破綻（2,008年9月15日）
に伴う金融混乱と不況の状況下、労使の協力による経営の安定化を目指しているその
最中に、今回の平成22年7月の裁判所からの『競売通告』であった。

金属加工では優れた技術を持つ工場労働者だが、おりからの産業空洞化の波が押し寄
せ、受注加工の注文の急激な減少・・売り上げ増加の道筋は見出せない。４０年以上
勤務実績を持つ熟練労働者も、高齢化している。若年労働者を受け入れるなどをし、
何とかならないかと労使とも真剣に協議したが、経営継続の方途・展望が出て来な
い。円高による単価の切り下げに対応せざるを得ず、やればやるほど労働者に未払い
賃金の増加を招き、昂じれば取引先にも迷惑をかけてしまう。

上記の如く労使で協議したが「事業継続は労使共に不可能である」との苦渋の選択・
結論に至った。

組合本部の継続協力支援の意思表示にもかかわらず、直接現業従事者の労組の分会員
・会社側、一致して『会社の閉鎖』に、同意したとの決定報告である。労組本部も了
承した。

7月下旬、会社側親族会議（会社の連帯保証人3人、及びそのご子息をも含めて）開
き、競売通告問題の処理・解決を、正式に労働組合に委託してきた。

労組本部は調査を本格化、競売通告への対応策の検討に入った。現場で働く人々への
『未払い賃金』は膨大な額に達していた。また過去に取り決めた労働協約に基づく
『退職金』協定によれば、未払い賃金の１/2相当額が存在し、それ等が無視された銀
行等による債権回収の「競売通告」である事を直視した。

しかしながら、労使は中小銀行資本である競売原告の立場をも考慮した。

　労働組合の基本方針

Ａ）労働運動の一環として、Ｔ社の「競売通告」問題を組合員の権利擁護の概念か
ら、労働対価・労働債権の回収をはかる事である。

Ｂ）日本の現時点での、中小企業の経営者の実態を可能な限り調査・配慮し、広義の
社会情勢の認識のうえで取り組む。　また、経営に現在は直接関与していない親族が
連帯保証人であった事で、会社の負債問題から発生した「被競売通告人」にされた経
過を考慮する。

Ｃ）40年以上勤務して来た労働者が殆どであり、経営者は、個人加盟の本組合員であ
ることを認め、組合活動を制圧するような行為をせず、当然な事として応援的な実績
を持って来た。

現場の労組分会員の要望・・労使が理解し合える　解決策を模索し探し出しつつ、進
行・処理して行きたい、とした。　組合本部も了承した。

Ｄ）先々代からの長い経営実績が有り、地域内外の業界内で一定の信望を持った事業
所であった。従って、多くの中小企業経営者や市民の見守る中での、取り組みであ
り、労働組合のエゴなどとの非難の生じない解決策を打ち出したい。

　　等が議論され、出来得る限りこの方針で解決に勤める事を確認した。

　具体的方針

１）任意売却

執行委員Ａが、競売問題の一般的事例の調査・分析の結果から『任意売却』を検討し
てみたらどうか、と提案してきた。労組本部では、専門家一任との意見もあったが、
今件は分会の要望もあり任意売却の方針で問題解決を追求してみる事とした。

銀行・経営者・裁判所の三者の合意が得られれば、裁判所による強制的な「競売通
告」を（放置すれば、告示・競売・執行、に進むが）取下げられる。借地上に建つ建
物をより有利な条件で売却を図れるようにし、労働債権（未払い給与・退職金）問題
の解決につなげたい、とした。

しかし、労働組合としての「任意売却」など当然未経験であり、一応その方針を出し
たが、当初は願望にしか思えなかった。

率直に云って雨漏りのする---バケツの並んだ作業場---こんな古い工場を買う人が出
て来るの？。

しかも借地であるし、など、決めたものの不安だらけであった。

２）相談役

労働運動に一定の理解を持ち、且つ方針への一定の協力ができる、力を持つ者が望ま
しかった。
7月末、執行委員Aは、組合本部の了承の上、ｍに相談をした。ｍはAのメール一本で
即、相談者として、対策会議に馳せ参じた。ｍは、四十数年前の組合結成時からの協
力者であり、その後も組合の催事に顔を出したりしておった。

本業は或る業務の技術者・経営者で、宅建取引主任の免許・資格を持っていた。宅建
の事業は行っておらなかったが、本業を進める上で知識として宅建業法関係を若干つ
かんでいた。

ｍは、高校時代から月謝値下げ運動の成功経験を持つなどの学生運動、その後の労働
運動、地域の世話役活動、中小業者の地位向上運動などの経験者であった。

上記のｍを、労組として「コンサルタント」に委嘱した。

３）媒介業者・一括売却方針

8月に入り、「任意売却の媒介業者」の選定に入った。競売物件として公示済みの
「任意売却」は業界で云う荒業でもあり、事件屋の跋扈する世界である、と言われ
る。

幸いｍの知人の不動産業者のＡ社は、荒業に得意なＢ社との2社連合を申し出た。
（選定過程を逐一労組の合議にかけた）労働運動に一定の理解をもつＡ氏と競売物件
のエキスパートＢ氏の２社連合を組合に推薦した。

媒介業者と協議し、会社の建物は「借地権」上に建つが、それに併せ「底地権」を持
つ地主との「一括売却」を目指し、市況価格に近い値段で買い上げてくれる買主探し
に入った。売りやすい様に更地化をも行った。

売却物件は会社（法人）の地上権付き建築物ではなく、会社側の親族3人の個人の所
有物件で若干複雑で、会社の銀行負債の連帯保証人がその３人であった。

覚　書

「媒介契約」は所有者を代表しＴ社社長と、不動産業者の２社連合を代表してＡ氏間
で調印した。媒介契約書に「労働債権の回収の内容を含む」媒介契約であるとの事項
を記入し、労組名入りの「覚え書」を添付した。形式的には二社連合の代表会社Ａ社
と所有者を代表してＴ社長との間の「媒介契約」であるが、労組の覚書に債権回収の
売却委託業務である事項を明記し、実際は３者が契約書に押印した。

回収へのプロセス

１）労働協定書の締結

労働者の未払い給与が幾らなのかを、最初に調べ「労働協約」として会社側、労組分
会側との間に確認しあい調印した。競売通知書の処理をめぐり会社側の混乱の最中、
分会員は過去５年分の債権のまとめに取り組んだ。協定書はきわめて重要なもので、
労働債権の金額を労使の双方で確認した文書であり、更にこの承認文書に、会社側の
意志として「売れたら支払います」とし「差押・抵当権の設定」を、必要な場合は了
承する、との文言を入れたものとした。労働協定書の締結を行った。

２）公正証書化（未払い給与の労働協定書で）

労働債権を顕在化し、法的根拠を持たせる為、公正証書化をはかった。

労使交渉で「労働協約」として締結していた、その成文化したものを公証役場に提出
し「公正証書」の作成を申請した。あくまで労働債権の回収確保を狙った公正証書で
あり、競売行為の進行中の関係者に、その存在を周知させる為の行為であった。その
証しに、直接債権人では無い、労組委員長の氏名を頭書きに入れて公正証書の作成を
申請した。当初労組名及び労組委員長の氏名挿入を公証役場は

拒んだが、関係者の努力により申請通り受理された。

当然、裁判の第一審の判決と同様な効力をもつものとして、必要な場合所有する「建
物の差押え」を承認する、との文言入りの　公正証書謄本が出来上った。

早速、労組員が手分けし、労働債権の存在を知らしむべく、公正証書の原本を持ち、
裁判所（２ヶ所）などの関係者に内容証明にして送付した。銀行などには直接伺い担
当者へ手渡しを行った。媒介業者にも原本を渡し、改めて労働債権額の大きさを知ら
せた。地主へもそのコピーを送付し、競売物件にからむ労働債権の存在を知らしめ
た。

３）競売・売却物件を「差押」

次いで、労働債権による差押の了解済みの「公正証書謄本」を持ち、登記所を訪れ
た。競売物件として裁判所から「競売通知」の来ている物件を、労働債権により差押
えるための行為であった。労働債権での差押え、しかも、競売告示後の登記は、司法
書士も複雑だとしていたが組合の意向を理解し、折衝し、抵当権の設定の登記を無事
に済ませた。

　　但し、これらの「差押」行為は、売却不動産の業者による取引の　折衝・進行具
合をみて、支障のないタイミング・時期に、仮登記申請を行った。

地上権付きの建物を、労働債権で「差押え」をし「抵当権」を設定したが、銀行・都
税等に次いで労組の３番抵当権・仮差押であった。回収債権の保全を狙ったものであ
り、売却：決済：の時、有無を言わせず支払いを受領する為のものであった。

また、事後に来る税法上の売主・個人３人の確定申告時、譲渡課税の未発生をクリ
アーさせる為のものでも有った。（事後の平成２３年３月１５日の、会社側３人の個
人の「確定申告」時、借地上に建つ建物を労組が差押え、その事項が記載された「登
記簿謄本」、売れたら払いますと記載された「公正証書謄本」及び、未払い給与の労
使合意の「労働協約書」を添付し、「譲渡課税は未発生」であるとの証として税務署
に提出し、申告書は受理され、承認された。）

４）売却物件の高品質化・一括売却

借地上に立つ、古い工場に労働債権の差押付きでは、売れるかどうかも分らず、原告
の銀行も困惑の体であった。また、借地上に立つ「建物」の「競売通告」を取下げて
「任意売却」を図るだけでは労働債権回収には到底満たない、との認識を労組等はし
ていた。

原告の銀行や債権者は、一括売却・高品質化を願う労組の方針を、表立っては支持表
明をしなかったが、実質的にその方向での進行を期待した。そこで多方面から地主を
説得し、地主の持つ「底地権」と、会社側・労組差押の「借地権」を、だきあわせて
の一括売却を追及した。ねばり強い労組・媒介業者等を先頭にした一同の懸命な努力
により、方針通り執行できた。

更には、築５０年近い雨漏りのする木造建物を解体し、大きな工台の基礎の塊を撤去
し、整地までもした。官民の境界査定をし、隣地との調整を行った。周辺が借地で
あった経過から境界などあいまいで、近隣の合意と納得を得つつ境界確定作業がおこ
なわれた。

誰が見ても即利用出来る様、売却物件の高品質化を進めた。

幸い、執拗なまでの、一括売却方式の追求、及び物件の高品質化により、予期した金
額で売却できた。先行した２番までの抵当権設定者の決済金・返済後の残金で、３番
抵当の労働債権の「成功的回収」という、成果をあげることが出来た。　労組主導で
「任意売却」の物件を、市場相場に近い値段で売れる様に、工夫しつつ実施したが、
媒介業者の努力と相まって初期の目標の近くで売却できた。

５）「按分協定書」他を売却契約の前に調印

建物売却契約前に、想定される売却額を基に、売却後の配当・配分案を作成し、会社
側複数の個人、労組分会員の全ての人々と打ち合わせ、合意に基づく「配分協定書」
に実印・印鑑証明付で法的根拠を持たせた文書に調印した。契約前に済ませた協定書
であり正式名称を「按分協定」とした。これは組合の執行委員会（対策本部）で、何
度かの討議を経て承認されたものであった。

その過程で会社側の複数の個人所有権保持者間・親族間の一部で、過去の軋轢が持ち
出されたりもし、あわや破談の危機もあったが、労組等はねばり強く説得にあたり、
合意形成に取り組み売却契約前の「按分協定」の調印を済ませた。

　関係者との合議

更に売主側の分配率を売却契約前に決めて、当方の取り分を６０％、地主の取り分を
４０％とした。

相続問題を抱える地主側は「物納」方針を決め、我々に通告して来た時期もあり、肝
を冷されたが関係者一同の懸命な努力により目標を成就させた。

借地上に立つ「建物」のみの「任意売却」では、如何なる売却額の上限をクリアーし
得ても、銀行と未納税他で消えたでありましょう。また、強制的な競売には労組の徹
底抗戦にあい、順調には執行出来なかったでありましょう。

銀行・裁判所・経営者の三者は、合意して、労組の主導する方針のもとでの「任意売
却」を見守り、お任せし、契約・決済前「競売」を取下げた。

６）売買契約書の締結・決済

売主側・労組３人の立会いのもとで、地上権付き建物の会社側の個人３人、底地権を
持つ地主側・相続人２名に顧問税理士が同行。買主側は社長以下２名、媒介業者が２
社、３名が参集し総員十数名であった。媒介不動産会社の応接間で、とどこうりなく
調印。平成２２年１１月下旬であった。

決済について、　契約の１ヶ月後：決済：が銀行の応接間で行われた。１～２
番抵当権設定者

の銀行、都税の担当者、区税の担当者、買主指定の司法事務所の司法書士２名が新た
に参加。３番抵当権設定者の会社・労組、物件購入の買主が集まった。プラスして、契
約当日集まった地主側や媒介業者の、同様メンバーが集合し：決済：業務が行はれた。

この「決済」の時、都・区税の未納が支払われ、大口の銀行返済他を済ませ、会社・
労組への決済と同時に、その入金額の確認後、差押の解除書類の受渡が行われた。売買
に伴う物件の法的移動が行われ抵当権設定の解除手続き等、即時実施された。買主は：
決済：の支払いを現金で行った。

７）指定口座に入金。

売却決済時、事前に会社側の了解を得て、決済後の代金を　労働組合の指定する口座
に振り込ませた。先ず労働債権による受領額のすべてを、労働者に未払い給与分とし
て配分し、その源泉税を算出し税務当局へ納めた。源泉税納入後の残額を受領権保持
者の労働者へ配分した。労働者のその拠出金をもって、按分協定に基づく会社側他の
経費の処理を行った。その中から（源泉税納入後の配分金）労働組合本部に債権回収
経費等の清算を行った。

しかも、分会員の当初からの要求額を満額クリアーし、納得と合意のもとに上記が執
行された。

以上で、労働債権の回収と、それに伴う諸決済が完了した。

法的処理　（会社解散・税務処理）

未経験の労働組合が、取り扱いを開始したのが平成２２年７月であり、任意売却の契
約・決済が同年１１～１２月に行われた。翌年の平成２３年３月、会社側の３人の確
定申告で売却費の入金のすべては労働債権の差押分の決済金・債務返済金として受領
し支払った旨で税務当局へ申告し受理された。

裁判所からの「競売行為」の執行行為は、任意売却の契約・決済時に、取下げられ
た。

会社の社長は「倒産・破産」を好まなかったので、社長の経済経歴にひびかないよう
会社「解散」の方向で企業閉鎖・終結をはかった。労働債権で差押えその債権を回収
し、決着後の平成２２年１２月会社は「解散」し、その清算人になった元会社社長の
法的処理・清算決算などの手続きは、平成２３年７月に終え、会社の清算結了、商業
登記簿の閉鎖は９月であった。

その間、平成２３年夏と秋には、税務署の担当官が２～３度税理士や当事者の所へ調
査に来たが、問題は生じなかった。既に申告し処理した内容の確認と言えよう。同年
１１月末には捜索調査謄本が交付されたりもした。　　

以降、平成２４年３月末まで、本件の「競売問題」と直接的には無関係の、解散した会
社の「積年の税務問題」があり、その解決に取り組んできた。解散した会社の元社長が
清算人となっており労組として黙視する事をしなかった。

この問題では商工団体やその顧問の先生方から貴重な教え、協力を頂いた。先般「積年
の税問題」に就いて「消滅通知書」が、当局から発行され送付されて来た。

労働債権の回収等は半年で解決できたが、それに伴う税務処理、会社の「解散」と云
う希望方向で処理した。それ故元社長の清算人としての整理や精算、その抱えた問題
解消に１年以上の日時を要した。

　労組はこの問題でも真摯に対応し、関係者の協力を得て、完全なる解決・処理を
行った。

組合が委託を受けた競売問題の処理、その業務や税務問題など、関連するすべての
「法的処理」は、平成２４年３月末をもって完結しました。

おわりに

未知の分野であり、弁護士をはじめとする多分野の専門家の協力を得た事に感謝した
い。厚生労働省発行の「労働債権回収の手引き」その多くを参考にさせて頂いた。組
合が当初相談した専門家は「手引き」の範疇の方向を薦めて来た。

それらの有効部分を用い、組合の方針で整理し運用させていただいた。組合は学ぶ所
は学ばせて戴いたが、自主的方針を堅持しました。

基本は組合の執行委員会で、初期に立てた任意売却方針で、会社側の銀行・未納税等
の負債を決済し、労働債権の回収を行い、他に必要な配当をして終結をはかった。

裁判所による競売では「借地上に立つ建物」のみの競売であり、執行し得たとしても
銀行・未納税や未払い地代・他だけが債権を回収し（それのみも、足りたかどうかも
不明であり・・）労働債権回収は不可能であったろうし、他の諸経費捻出はとうてい
出来得なかったであろう。

仮に、競売執行中の物件内に、労働債権で「民事訴訟」を起こしても、借地上に建つ
「建物の競売」と言う、コップの中の「取り分」争いであり、抵当権設定の優先順位
からしても労働者側にはゼロに近かったでありましょう。

競売通告から半年以内の猶予期限内に任意売却が出来なければ、裁判所の手に戻され
強制的な「競売」にかけられる、期限的にゆとりの無いものであったが、組合の果敢
な対応力と関係者の協力で無事任意売却で解決できた。しかも短期間内に困難視され
ていた、会社側・組合の持つ「借地権」に、併せて地主の持つ「底地権」の：一括売
却：方針を実施できた。関係者一同が総力をあげ取組んだ結果、具現化する事が出来
た！ものであります。

諸条件を分析し、優位な可能性を追求すると言うしたたかさは労組の本領であり、
それをいかんなく発揮した成功事例であり、努力の賜物である、と云えましょう。

因みに

労組分会員の一人当たりの配分金は、その要求額の１００％以上をクリアーし、ま
た、会社側の諸経費をまかなう事が出来、中小銀行他には延滞金をも含め競売提訴金
額を決済時満額クリアーし、労組本部にも諸活動経費の精算を済ますことが出来た。

労組が自からの力で方向を決め、その方針に向い組織を挙げての取り組み、集団討
議、意思統一、適度な柔軟性、対応力、展開力、それらの努力の結果が、成果をもた
らしたものであると「勝利宣言」を発しても支障はないと考えたい。

労組が主導する任意売却を成功させ、労働債権を回収しました。

これまで未経験の分野に、当労組は足を踏み入れ、労組主導で　労働債権回収要求を
見事に解決しました。

未知、未経験の分野と言われるものへの挑戦を、労組が、或いはささやかな幸せを求
める市民が、知恵を出し合って　取り組んで行く時代で有るのかもしれません。

多数の力が、その　ひとつ　ひとつの運動が、世の不条理を幾分かでも正し、住み良
い世の中に変化をもたらしましょう。

まことに、小さな経験ですが、なんらかの参考になればと筆をとりました。