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LNJ Logo アイヌ文化から北方諸島の問題を考える
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投稿者: 加藤登

千島(クリル)列島と樺太(サハリン)からなる北方諸島は、アイヌ(エンチゥ)、ウィルタ、ニブヒら北方先住民族の領域でした。諸民族はここを舞台に大陸やカムチャツカ方面との交易で栄えました。アイヌの場合、外洋船イタオマチプに乗って毛皮などを売り、中国産品(「蝦夷錦」が有名)などを得ました。アイヌはニブヒや元朝と戦争も行い(13世紀)、それが英雄叙事詩ユカラにも反映されているといわれます。また、オホーツク文化のアイヌ文化への浸透、アイヌモシリ(北海道)では途絶えたが樺太では残っていたアイヌ民族楽器トンコリ、ウィルタ・ニブヒからアイヌに伝来し変化したとされる民族楽器へニュード、千島の島々の名がアイヌ語であることなど、様々なことが想起されます。このように、北方諸島では先住民族の独自の文化圏が育まれていたのです。

ところが北方諸島は、1855年の日露通好条約以降、日本とロシアの近代国家形成や帝国主義的な領土分割によって、勝手に国境が引かれました。諸民族は自由な交易を断たれてしまいました。国境画定にともないエンチゥ(樺太アイヌ)やロシア語・英語を話せるためスパイ扱いされた千島アイヌは強制移住で翻弄されました。アイヌ民族は皇民化により文化が抹殺されようとしました。第二次大戦後は、日ロが「北方領土問題」を争っています。しかし、日本がいう「固有の領土論」もロシアがいう「戦勝論」も、先住民族を無視しており誤りです。両国は北方先住民族を抑圧した歴史を反省しなければなりません。暮らしと文化を奪われた先住民族の視点から、「領土」問題を相対化する、ポストコロニアルなアプローチがぜひとも求められます。

おりしも2007年に「先住民族の権利に関する国連宣言」が成立し、アイヌら北方諸民族には先住権−自治権が生じています(第3条自己決定権、第4条自治権ほか)。同宣言に賛成した日本はこれを尊重すべきで、棄権したロシアは態度を見直すべきです。北方諸島の問題は、日ロ二国間だけで4島の帰属を争う「領土問題」に一面化することはできず、世界史的な先住民族の復権の問題として読み変えることが不可欠です。しかし2009年の「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会報告書」は、従来より踏み込んで北方諸島の歴史を書きながら、自治権を提起しない限界を抱えていました。報告書を受けて活動している「アイヌ政策推進会議」が、北方諸島問題に関し何もしていない点は問題です。

日本とロシアは戦争の歴史を反省して、1956年の日ソ共同宣言以降、課題にのぼっている平和条約を締結すべきでしょう。その際、「北方領土」交渉においては、政治利用ではなく先住民族の復権の見地から、アイヌ民族らの交渉参加が保障されねばなりません。南米先住民族が要求してきた越境権・自由往来権(国連宣言36条)は、北方諸島でも適用されるべきです。日ロ二国間での解決は難しく、現代版信託統治なども選択肢に国連の協力を得て、自治権を具体化することが問われます。乱開発には反対しつつ、先住民族によるエコツアーなどを整備し、北方諸島を自然と人間の、また諸民族の共生区にしていきましょう。


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