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LNJ Logo JR不採用問題・1047名「和解」についての私見(木村信彦)
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投稿者 : 木村信彦

1047名「和解」についての私見  木村信彦


 4月9日の政府・4党合意案なるものはあらゆる意味で容認できない。

 第一に、そもそもこの「解決案」においては、あらかじめ「解雇撤回」の旗を降ろし、「不当労働行為については今後争わない」ことを前提に、なにがしかの「和解金」を受けとるというもので、国鉄1047名闘争の日本労働運動における歴史的位置を考えたとき、まず根本的な次元において容認できない。国鉄分割・民営化攻撃とは、労務政策的にいえば、国鉄解体=JR移行時に、国鉄労働者の採用・不採用をその所属組合によって差別・選別するという国家的不当労働行為である。これを認めるということは、憲法28条の労働三権とそれに基づく労働組合法・労働委員会制度の国家の名による否定・解体を受け入れることを意味する。事実この国鉄分割・民営化以降、全産業・全産別において、資本によるむきだしの労組破壊・労働基本権破壊攻撃が拡大していったことは周知の事実である。JRに限ってみても、不当労働行為は何も発足時の採用差別一度限りのものではなく、配属差別、出向差別、昇給差別等、さらに今日の外注化攻撃、あるいは辻井バッジ問題まで無数の不当労働行為の積み重ねの上に成立している企業といってよいのである。不当労働行為問題は23年前の問題であるだけではなく、今日の問題なのである。にもかかわらず、今回の「解決案受け入れの条件」においては、これらの不当労働行為をめぐって係争中の一切の訴訟を降ろすだけではなく、「不当労働行為や雇用の存在を二度と争わない」ことまで確認させられているのである。奴隷的屈服という以外にない「解決案」である。

 第二に、だがこれは前提的確認だが、今回の「解決案」は、国家権力の側が、国鉄分割・民営化に際しての不当労働行為を単純に否定し去った上での結論ではない。国もまたこの23年の間の曲折をへて、国家的不当労働行為の存在を否定するにも否定しきれない状況に追い込まれた上での、苦しまぎれの「解決案」であったという側面も見落としてはならない。最近の動きに限ってみても、05年9月の鉄建公団訴訟をめぐる東京地裁難波判決などの経緯の中にそれははっきり現れている。そもそも今回の最低・最悪の4・9「解決案」においてさえ、原告一人あたり1千数百万円の「和解金」(訴訟費用等を含めてだが)を国=鉄道運輸機構が支払うとしている。なぜなのか。JR発足時に採用差別などなかった、何の非もなかった、不当労働行為など一切なかったというのであれば、総額200億円をこえる「解決金」を国が支払うなどという結論が出てくるはずがない。

この背後には国が、いやいやであれ、不十分であれ、国家的不当労働行為の存在を否定し切れなかったという現実がある。「不当労働行為を二度と争わない」などという条件じたいが、裏返していえば過去における不当労働行為との闘いに対する国側の打撃感を吐露している。この側面を無視し、今回の「和解」においてただ組合の側が100%敗北したかのように言うことは、これを主導した国労本部をはじめとする4者・4団体路線批判としては理解できても、現実には極左的・宿命論的敗北主義というほかない。長期のギリギリのせめぎあいの中で強制された敗北、闘い方いかんでは全く違うレベルの「解決」をかちとりえたにもかかわらず、4者・4団体指導部の屈服的路線によってもたらされたのが4・9「解決案」だということである。

 第三はしたがって「解決案」の中身である。この点についてはすでに多く論じられているので詳述はさける。ただ簡単におさえておけば、今回の「解決案」の推移は、2・23各党担当者素案→3・3四党担当者合意案→3・18四党正式案(国交相に提出)→4・9政府・四党合意案となっている。ここでは時間をおって解決水準のレベルが低下していくが、特に4・9最終案では、3・18案の中身が一変し、4者・4団体が掲げてきた「雇用・年金・解決金」の要求(これ自体が「解雇撤回」の旗を降ろした屈服路線だったが)のうち、解決金そのものがガタ減りし(2・23案時点での3千万円弱がほぼ半減)、これと連動しているが、雇用と年金はゼロ、ないし限りなくゼロに近い内容だ。2・23案段階では「年金相当分」として1300万円あった項目がその後「生活補償金」「雇用救済金」などと名を変えるが、4・9案では丸ごと消えている。「年金」を云々する事じたい「解雇撤回」につながることを国あるいはJRが嫌った結果だろうが、いずれにせよこれによって和解金は当初の半分近くまで減った。団体加算金なる使途不明金が加わったが。

また雇用については、一貫して「55歳以下のJRへの雇用要請」という項目があるが、3・18案までは約200人という人数も明記されていたのが、4・9案では、それもなくなり、わざわざ「保証できない」と記載、しかも、この雇用確保のために、3・18案まであったJR会社への「雇用助成金」も消された。4・9案への質的な変化を最後に強制したのは、国交省と財務省の官僚であり、JR会社と言われている。ともかく雇用が基本的に落ちたことは決定的であり、原告団・闘争団の中に最も強い不安と不信を呼んでいる。
 
 だが第四に、私は今回の「解決案」のより深刻な問題は、そのやり方・プロセスにあると思う。全てを一握りの幹部で決め、この結論を問答無用で全闘争団・原告団に押しつける。全てを密室で、幹部請負で、政党に下駄をあずけ、当該を蚊帳の外において結論を出し、これを強制する。23年におよぶ闘いをこのような形で終わらせることは許せない。

 誤解を恐れず繰り返すが、これは労働運動である。最後は、勝つ場合も、負ける場合もある。和解でも、20の場合も、50も場合も、80の場合もあるだろう。もちろんその水準は重要だ。だがそれ以上に重要なのは、かつて岩井章が強調していた「当該が納得出来る解決」なのだ。最後まで力を出し切って闘い、その結果が50なら、それが納得出来る解決である場合もあり、それは必ず次につながる。

 だが今回の「解決案」は、4者・4団体路線の本質でもあるが、闘争団・原告団を先頭とする大衆運動をまともに取り組もうともせず、ひたすら永田町の尻を追いかけた挙げ句の果てに生まれたものであった。闘争団は主役ではなく、その過半は重苦しい雰囲気につつまれ、何か意見を言いたくても言えない状況におかれている。

 私は今回の「和解」は全く屈辱的なものだと思っているが、しかしこれを受け入れるものは全て裏切り者だなどとは思わない。闘争団員にも、いろいろ事情がある。すでに80歳近い人もいる。例えばそういった人が1千万円でも、2千万円でも「和解」したいからといって、誰に彼を罵る資格があるのか。だが他方で北海道や九州ではまだ40歳台の闘争団員もいる。彼らは、雇用のない「解決」に言いしれぬ不安を抱いている。しかし国は、「解決」の条件に、原告全員の署名を求めているのだろう。水俣訴訟でもそうだった。今回の一部幹部による居丈高な恫喝オルグの背後にこうした事情があるにちがいない。だからかつて岩井は、「最後は当該の一票投票以外にない」と言ったのである。国労組合員ではない、あくまで被解雇者・闘争団員の一票投票である。もちろん時間がかかるだろう。長い議論が必要だろう。混乱も不可避だろう。分裂の危機に陥るかもしれない。しかしこれを通して以外に「当該が納得できる解決」などかちとれないのだ。

第五に、いわゆる4者・4団体路線の原点・原罪ともいっていいが、動労千葉争議団9名をはじめ1047名のうち100名余りが、この「和解」の対象からも排除されていることである。4者・4団体という枠組みができるのは06年夏ごろだが、その直前の同年2月には、さまざまな国鉄闘争支援者などの努力もあって、「1047連絡会」という、文字通り動労千葉も非組も含めた大同団結の組織が生まれていた。それが半年後には、一部にさまざまなレッテルを張りつけて、排除の論理に貫かれた4者・4団体に換骨奪胎される。このことと、今回の「和解」が、現場を置き去りにして、極めて幹部請負的なそれになったことは一体である。特に国労という労働組合のすぐれたところは、あらゆる意見・対立を包含しながら、とことん組合民主主義を貫いて、その進路を決めてきたところにある。この決定的な点を踏みにじる4者・4団体路線などの登場をなぜ許したのか、あらゆる角度からの総括・切開が必要である。
(2010.5.18記 国鉄闘争支援者/なおこれは、元になる原稿の一部を省略し要約したものです〔木村〕)


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