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巨象・JR東日本に負けなかった「新宿の小さな店・ベルク」

  松原 明 

東京・新宿にある「ビア&カフェ・ベルク」というお店が、JR東日本の子会社のビル「ルミネ」から追い出されようとしている、との話を友人から聞いたのは2年くらい前である。ベルクは、立ち飲み風の洒落た店で、ドイツビールやコーヒー、軽食が楽しめる。素材はすべて自然のもので添加物を使っていない。ビール300円・コーヒー200円と安いし、新宿駅改札から30秒の近さでちょっと時間をつぶすには便利なところだった。

追い出しの背景には、大家に有利な借地借家法の「改正」があった。今までは、店子がよほどの問題を起こさない限り、一方的に追い出すことはできなかったが、今回「定期契約」という制度ができて、これを使うと契約年数になれば理由もつけずに追い出しが可能になる。労働者には、派遣法という「使い捨て雇用」の法律があるが、それと同じように、大家や大資本が店子を数年で入れ替えできる法律だった。ベルク追い出しの理由はその後明らかになったが、ルミネ側は、駅ビルを若い女性を主な対象にしたファッションビル化をめざしており、雑居的な小さな飲食店が邪魔になったことだった。

こうして「王様のアイデア」など地下街の「小さな店」が、「定期契約への変更」というだましの手口で、次々に追い出されてしまった。しかし、ベルクの経営者は抵抗した。毎日1500人のお客さんに18年にわたって愛されていたベルク。経営者もスタッフもベルクを愛し、いい品物を安く提供することにこだわっていた。ルミネで一番の売上げも上げていた。どうして出て行かなくてはいけないのか、井野店長・迫川副店長は納得できなかった。何度の呼び出しにも負けずに「定期契約」を拒みつづけた。「おおごとにしたくなかったので悩みに悩んだ」(店長)が、追いつめられるなかで、ついにSOSを発信することになった。それを知ったお客の間に応援の声が拡がり、店内に署名ボックスを置いたところ、またたくまに数千の「存続要求署名」が集まった。

私たちJRウォッチ(JRに安全と人権を!市民会議)も「JR東日本のやり方は横暴だ」として、立ち上がった。千名以上の署名を集めたり、佐高信代表とともにJR東日本本社へ要請行動も行なった。会社側の対応は「当事者でないあなたたちは関係ない」という態度だったが、私たちは「JR利用者の私たちの声を無視するのか」と本社ロビーで迫った。ベルクのお客にマスコミ関係者が多かったこともあり、新聞に大きく取り上げられたり、ベルクの出した本が話題になったりもした。「小さなお店」のたたかいがジワジワ広がっていったのである。そして、09年3月に「退去勧告」が出されていたが、会社から一方的に「延期」の通告があった。追い出しにストップをかけることができたのだ。

 ベルグ・JRウォッチ・闘争団がつながった意味

この過程のなかで、JRウォッチが2月5日に開いた「ベルクの話を聞く会」(ゲスト=井野店長・迫川副店長)のことが私には印象が深かった。このとき国労闘争団のメンバーも参加していたが、一様に驚いたのは、会社がベルクに対してやったことと、闘争団員が当局にいじめられたやり方とが酷似していたことだ。07年2月、会社はベルクの迫川副店長を呼び出し「ルミネになったので契約書も新しくなりますので、サインして下さい」と迫った。不利益についての話はなく、その場で返事を求められる。幸い、持ち帰ったからよかったが、そこでサインしていたら終わりだった。ベルクが従わなかったため、会社は今度は執拗な嫌がらせを行った。お店の入り口にある看板を撤去しろ、イスをおくな、などスペースを制限したり、お客用のトイレを閉鎖してしまった。いまは「出ていかなければ家賃を倍にする」と脅している。この話を聞いた闘争団員は「JRの管理者と同じだ。踏み国労(国労脱退)を迫られ、ビクビクしていた当時を思い出した」と言っていた。

ベルクの理念は、「体にいいおいしいものをお客に楽しんでもらう」というだけだった。店内にベタベタ貼られた写真、お客の持ち込んだポスターやパンフレットも置いてある。老若男女でいっぱいのざわざわした空間。だれでもいらっしゃい、という自由なお店なのだ。迫川副店長は「みんなが行き来し、ふれあうところ。それが駅の店だと思う」と語っている。それに対して、JR東日本・ルミネが考えている店は、ターゲットを若い女性にしぼり、あとの人はこないでいい、という管理型の発想。駅はたんなる人の通過点であり、駅ビルでモノを買ってくれればいいのだ。そうしたJRの駅は息苦しく、管理された場所でしかない。ベルクの考える駅は、少しはみ出たくらいのあったかく楽しい場所。そんなまったく対照的な理念のちがいを私は感じた。職場も同じだろう。上意下達の締め付けられた職場か、当局に物言えて和気あいあいとした職場か、のちがい。JRが国労を目の敵にしたように、ベルクが憎まれたのは、ベルクのもっているそんな「自由な文化」のような気がする。

今回、ベルクの人たちとJRウォッチ・闘争団が手をつないだ意味は大きい。09年3月の退店勧告を撤回させた力のひとつになったことは間違いない。20年余の民営化はJR巨大資本による横暴の歴史であり、その歪みはいまいたるところにあらわれている。しかもそれに対して、ベルクのように泣き寝入りしない人々が確実にあらわれている。金儲け社会にうんざりし「もっと人間らしい社会を」とみんなが思いはじめているのだ。今回は小さな成果だった。しかし、JR民営化に痛めつけられている人たちがつながれば、変えられる! そんな希望を感じたベルクのたたかいだった。(JRウォッチ事務局・ビデオプレス)

*なお3月の「追い出し」は止めたものの、ルミネ側は家賃の大幅アップ(250万円→330万円)を提案してきた。年間にすると1000万円の値上げになる。これで「閉店に追い込む」かまえだ。ベルクを応援する輪をもっともっと拡げていこう。(がんばれ闘争団 ともにGO!ニュース・6月号所収)


Created by staff01. Last modified on 2009-06-20 22:58:10 Copyright: Default

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