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LNJ Logo 「派遣切り」雑感〜緊急雇用対策と新たな労働運動への視点
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*以下は「地域と労働運動」2009年4月号に発表された論文です。(編集部)

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「派遣切り」雑感

緊急雇用対策と新たな労働運動への視点

         伊藤彰信(労供労組協議長)

 労供労組協は、正式名称を労働者供給事業関連労働組合協議会といい、労働組合に限って認められている労働者供給事業を行っている(行おうとする)労働組合が集まっている。全港湾、労供労連、サービス連合、全自交労連、全日建運輸、電算労、音楽ユニオン、東京ユニオン、全建総連など23組合、85万人が結集する組織である。

 年末年始に日比谷公園で行われた「年越し派遣村」が大きく報道された。派遣労働者の更新打ち切り、途中解約などの雇い止め、いわゆる「派遣切り」が横行し、雇い止めされた派遣労働者は寮からも追い出されて、ホームレスにならざるを得ない状況である。職業も住居も同時に失うと言う、今まででは考えられない事態が発生している。これは、構造改革によって、労働法制の規制緩和がおこなわれ、社会保障が削減されて、社会のセーフティーネットが崩壊してしまった結果である。

 労働者派遣法の抜本改正を求める運動は、一昨年の院内集会を中心とした運動から、昨年秋には政府の改正案を批判する院外の大衆行動を組織する段階へと発展してきた。そして、政府案に対峙して今までの院内集会の成果を踏まえて野党案を通常国会に提出しようとしている。

 「年越し派遣村」の相談コーナーでの相談は、労働相談はほとんど無く、生活相談ばかりであった。労働者派遣法の抜本改正をすれば、「派遣切り」問題が解決するのかといえば、そうではない。「派遣切り」問題と派遣法改正問題の区別した上で関連性を捉えるように整理しておかないと、要求が混乱したままでの運動になる心配がある。社会保障制度のセーフティーネットをつくりあげること、そして、労働者派遣法の改正など雇用・就労プロセスにかかわる労働力の需給調整システムの見直しが課題になる。今必要なのは、)_正を伴わずに最低限のセーフティーネットを確保する緊急対策、∈D名鏐餡颪任遼_正を経て行う緊急対策、自公政権打倒後の政権に実現させる制度改革と段階を分けて課題を整理することである。

 雇用・労働問題の視点から、これら3つの段階をふまえて、雑感を述べてみたい。

法改正を伴わない緊急対策

まず、生活保護の水際作戦を止めさせ制度の弾力的運用を前広におこなうことが求められる。「年越し派遣村」からの生活保護申請は、通常、審査に何週間もかかるのに、翌日決定されるなどスピード審査であった。行政の姿勢ひとつで、やろうと思えばやれるのである。

次に雇用保険への加入を積極的に行うことである。雇用保険は、労災保険と同様に強制保険である。雇用保険には一般雇用保険、高齢者雇用保険、短期雇用保険、日雇雇用保険があり、雇用形態や雇用期間にかかわらず、いずれかの雇用保険に加入すべきものである。にもかかわらず、厚生労働省は、加入要件を通達などで定め、雇用保険への加入を促進しようとしないのである。

労供労組協は、日雇や数日単位で就労する派遣労働者に日雇雇用保険を適用するよう一貫して要求してきた。厚生労働省は、派遣労働者は特定の派遣会社に登録しているので、雇用関係を予定しているものであるから、不特定多数の事業者に雇用される日雇労働者と異なり日雇雇用保険は派遣労働者には適用されないと言い続けてきた。ところが、日雇派遣が社会問題になったとき、日雇派遣労働者でも日雇雇用保険が適用されると言い始めた。しかし、派遣ユニオンがフルキャストと交渉し、日雇派遣で働く労働者に日雇雇用保険を適用させることを確認させたにもかかわらず、フルキャストが就労者に日雇雇用保険の印紙を貼るために印紙購入事業者の申請をしたところ、厚生労働省は認めなかった。現在、日雇雇用保険の給付を受けている者は25,000人ほどであるが、おそらく、日雇派遣労働者で日雇雇用保険の手帳(白手帳)を所持しているものは数名であろう。

厚生労働省は、雇用保険への加入促進を行うとともに、雇用保険の未加入事業者や未納事業者に対して、強力な処分を行うことである。事実上、営業ができなくなるぐらいの処分をすべきである。

連帯カンパから産別雇用制度の展望を

 連合が、「雇用と就労、自立支援カンパ」に取り組み始めた。電機連合は、雇用と生活を脅かされている非正規労働者を支援し、雇用の維持や住居の確保を図るために「連帯カンパ」を提起した。パート、有期雇用、派遣、請負労働者などともに働く仲間への連帯はすばらしいことである。

私は、このようなカンパが、産業別の雇用対策基金に発展できないかと思っている。まず、雇用対策基金の財源は、労働者のカンパによるものではなく、企業から売上高の一定率を拠出して積み立てるようにする。そして、その産業で働く非正規労働者に産別労働組合に加入を呼びかけ、非正規労働者に先任権制度を導入し、先任権の低い者から一時帰休をする。そして雇用対策基金で生活助成をおこなう。景気が回復したら先任権にもとづき職場復帰する。企業が正社員を雇う場合は非正規労働者の先任権の高い労働者から雇うことを制度化してはどうだろうか。

 また、非正規労働者が正規労働者になれる回路をつくることは非常に重要である。日本では、正規労働者と非正規労働者は身分差別がある。それが正規労働者と非正規労働者の労働条件が異なっても当たり前であるという前提になっている。非正規労働者は正規労働者になる一過程であると位置づけることができれば、同一労働同一賃金原則など均等待遇が実現していくのである。

 さらに、地域の雇用対策基金づくりも構想すべきである。企業が派遣労働者の雇い止めを行うことによって、地方自治体は、失業した労働者の住居を確保し、就職を斡旋し、自ら雇用したりしている。地方自治体にしてみればかなりの財政支出である。もともと、地域の雇用創出になるから税金の減免措置を行って企業誘致をおこなったわけだが、誘致された企業が、労働者を解雇して地方自治体に負担を強いることは理不尽である。労働者を解雇した場合には、減免された税金を遡って支払い、地方自治体はその資金を雇用対策に使うことができる制度をつくるべきである。

今通常国会での法改正を経て行う緊急対策

 今通常国会で雇用保険法が改正され、加入要件が半年に短縮される案が衆議院を通過した。しかし、半年以内の雇用期間によっては加入できない状況が残された。隙間のない制度づくりのためには、民主・社民・国新党案のように31日以上の雇用見込みの者を対象とすべきである。

30日以下の雇用期間の者には日雇雇用保険が適用されることになるが、加入している者が少ないことは先に述べた。さらに問題なのは、2ヶ月26日以上の就労という受給資格要件である。この経済情勢で2ヶ月26日就労が難しくなっているので、労供労組協は、緊急対策として1年間だけ受給資格要件を2ヶ月20日以上にするよう政府、各政党に申し入れた。そもそも、雇用保険改正にあたって、与野党とも日雇雇用保険について検討しなかったことが驚きである。日雇労働者は忘れられた存在、あってはならない存在なのであろうか。労供労組協の働きかけによって、受給資格要件の見直しを含め制度が活用されるよう周知徹底する付帯決議が採択された。 その他、雇用保険改正案の採択にあたって、民主・社民・国新党が提出した求職者支援法案の趣旨を生かした雇用対策、すべての労働者に雇用保険を適用するよう適用基準の緩和などの付帯決議がついている。

特に長期失業者に職業教育訓練を受けている間、手当を支給する求職者支援は重要である。なぜなら、雇用調整給付金が企業内雇用対策、先に述べた雇用対策基金が産業内雇用対策としたら、求職者支援対策は、労働力の産業間移転を支援する施策であるからである。企業内対策、産業内対策は、いわば景気変動に対応する雇用対策である。景気が回復すれば雇用も回復して元の職場で働くことを前提とした政策である。これに対して求職者支援の考え方は、産業構造の転換を前提としたもので、今までの仕事と異なる仕事を習得するには、数年の系統だった職業教育が必要であり、その間の生活保障がともなわなければならない制度である。北欧諸国では、手厚い職業教育制度があるので、産業構造の転換にともなう最先端の技術教育を実施して、スクラップ産業から最先端産業への労働力移動を可能にし、国際的に優位に立つ企業を支えてきたと聞く。日本でも、第一次産業の振興、クリーンエネルギー、介護、医療、教育などの分野での職業教育の充実が求められる。

労働者派遣法の改正については、民主党を除く野党では、99年改正前に戻すことが共通認識になっている。労働者派遣法を廃止すべきとか、登録型派遣を禁止すべきとか意見があるが、労働者派遣制度の抜本的見直し議論を行う前に、今国会でできることは何かと言う視点で捉えないと、この2年間の抜本改正運動の結実点が見出せなくなる。

その他、労働基準法の改正をおこない、ホワイトカラーエグゼンプション反対運動で培ってきた内容を、ワークシェアリングの観点からも規制強化に結びつけることが重要である。日本でのワークシェアリングは、企業内でおこなわれるので、結局は、労働時間規制は野放しのまま、賃金を下げて雇用を守ることにしかならないのである。日本の場合、社会的な規制無しにワークシェアリングは不可能である。休息時間(次の勤務までの時間)を11時間以上とする、時間外割増を50%以上とする、有期雇用期間を短縮するなどの国際的な労働基準の水準を実現する労働基準法の改正が急がれる。

自公政権打倒後の政権に実現させる制度改革

 社会保障制度の全面的な見直しを政策課題として準備しておく必要がある。正規労働者を前提とした現行の制度ではなく、正規・非正規をカバーする一元的な制度づくりが求められる。

 労供労組協は、2001年、中央省庁の再編にともない厚生労働省が設置された際に、社会・労働保険の適用基準の統一、労働時間に応じて保険給付が受けられるよう制度の抜本改正の検討を求めた。「今後の検討課題ですね」と担当者に一蹴されたが、労働時間にもとづいて保険納付をおこない、労働時間にもとづいて保険給付が行われる一元的な社会労働保険制度が必要であると考えている。

 岩波ブックレット「労働、社会保障制度の転換を」に収められている「共同提言 若者が生きられる社会のために」は参考になる。社会労働保険の項目の提言を要約すると、_弾要件を所定労働時間20時間以上(復数就労も合算)、⊆入要件・期間要件をはずす、J欷盈僧┌横飴間では本人負担率を低くし、順次労働時間増に応じて引き上げる。短期雇用の雇い主負担を高く設定、ぃ横飴間未満は、雇い主に厚生年金・健康保険の保険料義務付け、ゼ唆伴圓悗亮匆駟欷渦弾の保障、保険料は国が肩代わり(「失業者」とは、就労時間が20時間未満で週20時間以上の仕事を探している人)、若年者で国民健康保険、国民年金に属する場合、保険料算定・減免の基準を若年者本人の個人単位とし、本人の負担能力に応じて保険料を減免、などである。

労供労組協は、3月13日に開催した第26回総会で、労働組合が行う労働者供給事業を広めていくために、あらたに労働者供給事業法制定の検討を始めていくことを確認した。

労働者供給事業は、自らの支配関係にあるものを他者に雇用させて働かせるもので、労働ボスによる強制労働や中間搾取を伴うものとして職業安定法第44条で禁止されているが、第45条では労働組合に限って労働者供給事業を行うことが認められている。労働者派遣法は、労働者保護のルールを定めることによって、禁止されている労働者供給事業を部分的に解除したものであるから、本来的には労働組合しかできない分野に民間企業が参入できるようにしたものである。しかし、労働者保護が図られていないことは、「派遣切り」と言われる現在の状況が示している。したがって、職業安定法第44条で本来的に禁止されている労働者派遣事業、狭義の労働者供給事業、在籍出向などは、労働組合しかできないものなのであるから、労働者供給事業法という法的枠組みをつくることによって、労働者保護を図り、非営利、公開・公正、民主的な運営である労働者供給事業を広めていこうというものである。まだ、発想だけであり、具体的検討がすすんでいるわけではない。

労供労連が3月14日に開催した「労働組合の労供事業法制定に向けて」という集会で講演した労働政策研究研修機構の濱口桂一郎氏は「登録型派遣と労組労供と臨時日雇型紹介はビジネスモデルとしては同じものだから、無理に派遣元がフルに使用者だからいいんだという派遣に押し込めたり、無理に派遣先がフルに使用者だからいいんだという紹介に押し込めたりするより、全部素直に労供事業であるという原点に戻って、それにふさわしい規制のあり方を考えていくべきではないか。その点でいうと、組合労供にも、事業主体が労働組合であるがゆえに事業者性が認められないという妙なゆがみが生じており、労働組合法上の労働組合との関係を法的にもういっぺん再検討すべき時期に来ているようにも思われます」(同氏のブログより)と述べた。

さらに、非正規労働者の団結を促進し、非正規労働者の声を反映できる労働運動をつくるために、労働者代表制法を検討すべきである。同一事業所内で働く正規労働者、非正規労働者、請負労働者に労働協約が適用される状況をつくることが、労働者の3分に1以上を占める非正規労働者が資本に使い捨てられる労働者にならないために必要なことである。

以上


Created by staff01. Last modified on 2009-05-23 11:21:17 Copyright: Default

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