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LNJ Logo 報告 : 11・22裁判員制度に反対する集会とデモ
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News Item 1122hokoku
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来年5月に実施が迫る裁判員制度に反対する集会が11月22日、都内であった。会場となった東京・永田町の社会文化会館には640人(主催者発表)が集まり、同制度の問題点を論じあった。集会後、参加者は銀座に向かってデモ行進。5.7キロの距離を2時間かけて歩き、力強いシュプレヒコールで沿道の人々に制度の廃止を訴えた。

集会の主催は「裁判員制度はいらない! 大運動」。制度に反対する弁護士が呼びかけ、作家やジャーナリストら著名人が多数賛同している。裁判員制度は来年5月の施行が決まっているが、裁判員に選ばれる可能性のある「候補者」として、名簿に登録されたことを知らせる通知が、来週28日にも、約30万人の市民に届く。選ばれた国民は原則として拒否できず、凶悪犯罪を裁く法廷に、突然召集されることになる。

最初に交通ジャーナリストの今井亮一さんが開会のあいさつ。「制度の実施を前に、政府は宣伝に懸命になっている。しかしこの8月には、かつて賛成していた社民・共産両党が実施延期を求め、民主も同調する動きだ。この制度は私たちが参加しなければ成り立たない。全国で反対運動が展開されている。今日の集会を成功させよう」。

新潟弁護士会の高島章さんは、広島大学教授で憲法学者のKさんがカトリック信者であることから、死刑の立会人になり、以来体調を壊しているという事例を紹介。「各地の弁護士会で制度延期の決議があがっている。私も議員など、さまざまなつてを使って制度廃止をめざす」ときっぱり。

「人を裁きたくない」――日本人の最後の美徳

玄侑宗久さん(作家・臨済宗福聚寺住職)はビデオ映像で参加。 仏教も神道も、罪人を裁くことには関心を持たなかった。国民の「人を裁きたくない」という感情は、日本人のなかに残った最後の美徳だ。仏教でも最高の罰は破門。たとえ教団追放になっても、別の世界で生きていける。百姓一揆などが為政者にとっては「罪」であっても、民衆にとってはヒーローであり、両者の共存にこそ世界の深みがある。

この制度では、裁判官と市民の両者に裁かれ、被告の「逃げ道」がまったくなくなってしまう。「市民が決めた」判決に、ケチがつけられなくなってしまう。玄侑さんはスクリーンから静かに、そして力強く制度を批判した。

高山俊吉さん(弁護士)の司会で、シンポジウムが始まった。パネラーは漫画家の蛭子能収さん、元教員の森本孝子さん、地域ラジオ放送のパーソナリティ吉沼紀子さん、町会長の藤原隆男さんの4人。

「最近売れなくなったが、残った人生を自由に生きたい」という蛭子さんは、「賭けマージャン」で取調べを受けた自身の体験を披露。逮捕されてから、テレビの仕事がぱったりと来なくなり、石を投げられたり、自宅の玄関に糞を置かれたりしたという。「芸能人は、怒ってキレる市民が恐い。そんな人が裁判員になって人を裁くことが本当に恐ろしい」と語った。

愛国心教育と裁判員制度

 昨年まで小学校教員として勤め、「石原ババア発言」の原告として裁判を闘う森本さんは、東京の下町・荒川区で護憲運動の共同代表も担うなど、多忙な毎日を送っている。森本さんは、教育基本法改悪以降、教育現場にかけられている攻撃の数々を紹介した。
「文科省の指導に基づき、子どもたちの教科書にもこの制度が書かれようとしている。これで子どもの未来まで縛っている。愛国心で戦争に駆り立て、仕事がない若者たちには軍隊への入隊が待っている。それ以外の人々には、裁判所への召集で戦争司法へと慣らされる」。

「死刑存続派が国民の8割だというが、犯罪報道などではタレントたちが軽々しく『死刑』を連発している。『悪い奴、敵は容赦なく殺せ』と大合唱している。そんな『常識』がメディアによって作りだされている」と指摘。

『葛飾FM』の吉沼さんは、高山弁護士をゲストとして番組に招いた。忙しい人々は、小さなラジオ番組などにはなかなか反応しなかった。だが地元で模擬裁判が行なわれると、制度の複雑さに、さまざまな意見が出たという。

下町の中小零細業者は猛反発

 藤原隆男さん(台東区内・町会会長)は、徴兵を受けた経験を持つ。石原都知事の「ババア発言」に触れて、同区山谷への差別的発言に言及した。秋葉原と御徒町の中間に位置する台東区竹町は、戦災を免れた古い町並みが残り、中小零細家内工業が軒を連ねている。

裁判員制度については、地元学校長・教頭、町会レベルで学習会や議論を経て、「反対、迷惑だ」との意見が圧倒的だったという。 「戦争で苦労したうえに、裁判に強制動員されるなんてまっぴらだ」――藤原さんは怒りをあらわにした。

日本政府は第17代最高裁長官に、竹崎博允(ひろのぶ)・東京高裁長官(64)を起用する方針を固めた。最高裁長官は、現職の最高裁判事の中から選ばれることが慣例だが、彼ら14人の判事を飛び越える、極めて異例の人事である。竹崎氏は裁判員制度の導入に向けて、積極的にリードしてきた人物。最高裁ら制度推進派の、並々ならぬ執念が込められた抜擢である。

締めくくりの行動提起をした佐藤和利さん(「大運動」事務局長)は、「いいじゃないですか、相手がその気なら、受けてたちましょう。やってやりましょうよ」と、力強く決意を表明した。

3時からのデモ行進は、青山通りを西へ歩き、赤坂見附〜溜池山王〜虎ノ門 〜新橋〜数寄屋橋〜東京駅〜常盤橋公園という、全長約5.7キロにもおよぶ長距離コース。参加者は色とりどりのノボリやパネルを手に、沿道に人々に訴えた。

「仕事のじゃまをするな、休めない人はどうする」
「裁判を3回で終わらせるな」「死刑判決を強制するな」
「国民の8割が反対だ」「裁判員制度を廃止させよう」
寒風を吹き飛ばす力強いシュプレヒコールが、夕闇せまる都心に、いつまでも響き渡っていた。(写真と文/レイバーネット会員・Y)


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