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LNJ Logo 木下昌明の映画批評「今夜、列車は走る」
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News Item 0417kinosita
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●映画「今夜、列車は走る」

世界で起きていた国鉄民営化
誇りや夢を奪われた男たち

 映画はその歴史がリュミエールの「列車の到着」(1895年)から始まったように 、鉄道とともに発展してきた。

 映画は人々に夢を与え、鉄道は資本主義発達の土台として、国家にとって基幹産業の 一つとなった。鉄道員は人一倍使命感と誇りを持っていた。それが日本では国鉄の分割 民営化により9万人の失業者が出た。職場復帰を求める鉄道員の記録映画「人らしく生 きよう―国労冬物語」は01年に劇場公開されたが、彼らの裁判闘争は今も続いている。

 遠いアルゼンチンでも、グローバル経済の波に押され、91年の国鉄民営化で6万人の 失業者が出た。この問題を描いたニコラス・トゥオッツォ監督の「今夜、列車は走る」 が日本で公開されている。

 鉄道で栄えた街を舞台にした群像ドラマだ。のっけから中年の男が拳銃自殺をするシ ーンがある。男は10代の息子あてに遺書をしたためる。部屋のテレビには華やかだった 時代の列車が映っている。男は鉄道組合の代表で、老朽化を口実にした路線廃止の会社 方針を食い止めることができず、路頭に迷う組合員を救えなかったのだ。

 映画は、会社を自主退職させられ、ばらばらになった五人の鉄道員の「その後」に焦 点を当てる。一人はサンドイッチマンに、一人は車持ち込みのタクシー運転手に、一人 は保険証がなくて子供の治療費も払えずスーパーの警備員にと、不安定な仕事にしかつ けず、誇りや夢を失っていく。

 一方、組合代表の息子は、父がなぜ自殺したのかを問いつつ、このどんづまりの鉄道 員の運命を変える“光”を求めて仲間と行動を起こす。そして一つの「事件」に街の全 員が立ち会うことになる……。

 人間が壊れていく状況は今の日本も同じである。その中で、ラストの驀進する列車か ら見た暗闇に浮かぶ鉄路が印象的だ。はたして夢は与えられたか? (木下昌明)

*映画「今夜、列車は走る」は東京・渋谷ユーロスペースでロードショー公開中

「サンデー毎日」08年4月27日号所収 


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