本文の先頭へ
LNJ Logo 共謀罪、自民修正案が意味するもの
Home 検索
 




User Guest
ログイン
情報提供
News Item 1172887262024st...
Status: published
View


小倉です。以下、わたしのブログから転載します。

http://www.alt-movements.org/no_more_capitalism/modules/wordpress/index.php?p=68

共謀罪をめぐる国会の動きがかなり騒がしくなっている。先月、自民党の法務部 会小委員会は、共謀罪対象犯罪を600から150前後に絞り込み、さらにテ ロ、組織犯罪、薬物、銃器、人身売買などの類型に分類して法案の名称も「テロ 等謀議罪」に変更する修正案を決定した。(朝日、毎日)

さらにこの修正案について、外務省が事実上容認の姿勢を見せ始めている。読売 は、外務省が自民修正案を正式に受け入れ、すべての懲役4年以上の刑を共謀罪 の対象としなければ条約(越境組織犯罪防止条約)は批准できないという従来の 立場を修正したと報じている。しかし、朝日の以下の報道によれば、外務省側は これまでの見解を撤回するつもりはないが、事実上容認するというかなり含みを 持たせた報道になっていて、外務省側の態度にはまだ不透明な部分が残されている。

「小委側は「修正について外務省の了解を得た」と受けとめるが、外務省関 係者は「方針転換したわけではない。これまで(組織犯罪阻止という)条約の本 来の目的に立ち返って絞り込むアプローチをしてこなかったが、そういうことで 成立できるのなら締結に向けて努力する。法案が成立するか注視したい」と「様 子見」を強調。別の外務省関係者は「従来の政府答弁と整合性のないものはだ め」と話している。」

しかし、政府・与党の調整がこの間急速に進展していることは間違いない。外務 省としては、これまでの見解を撤回するということになれば、国会答弁もふくめ て、これまでの方針の誤りを認めることになり、条約担当の省として、責任追及 は免れないだろう。しかし他方で、従来の方針を堅持するにしても、米国など諸 外国の越境組織犯罪防止条約批准に際しての国内法整備の動向についての外務省 の嘘の答弁や情報の意図的な隠蔽の責任問題はあいまいにされてはならないだろう。

今回の自民党新修正案について先月20日の読売は、日弁連が歓迎しているかの ように報じたが、実際のところは逆で、これまで反対を表明してきた日弁連や民 主党など有力な反対勢力のなかで、この修正案を受け入れるとしたところはな い。この意味では、自民が修正案を通じて野党を懐柔しようという作戦はいまの ところうまくはいっていない。

わたしは、共謀罪法案の問題は修正や対案による協議にはまったくなじまない問 題だと考えている。言い換えれば、廃案以外の選択肢をとりえない問題だと考え ている。その理由は以下である。

第一に、共謀罪は、共謀の疑いを警察が抱けば強制捜査が可能になるということ 自体に大きな問題があるということだ。どの段階で警察が捜査権限を発動できる のかについての議論は実は十分に尽くされていないが、この点にこそ代用監獄や 密室の取り調べなど冤罪と拷問の核心ともいえる部分があり、共謀罪はこの大問 題を助長する結果となる点を軽視してはならない。政府・与党は目配せだけでは 共謀の犯罪にはならないという。しかし犯罪になるかどうかという問題で重要な のは、その行為が裁判所で判断されるということだけではなく、それ以上に、警 察がまず共謀の疑いがあると判断して捜査に着手したり、逮捕・拘留できてしま うというところにある。共謀の容疑で家宅捜索し逮捕しても立件せずに釈放する というやり方が可能になるところが大きい。これまでも、公安事件では、さまざ まな口実で家宅捜索や起訴にいたらない身柄拘束が繰り返されてきた。共謀罪 は、実行行為やそれに伴う具体的な証拠がなくても裁判所に令状を出させること が可能になる。犯罪として立件できなくても権力の嫌がらせの道具にはなるので あって、今現在でも警察の権力濫用は目に余るのにさらにこれ以上警察に自由を 与えるような立法は断じて許してはならないと思う。

第二に、越境組織犯罪防止条約はそもそも批准すべきすばらしい条約なのかとい う問題がある。この条約は、文字通りの組織犯罪に適用できるだけでなく、とく に90年代に活発になってきた反グローバリズム運動やラディカルなエコロジス トの運動が国際的にゆるやかなネットワークを形成しつつあることへの対応とい う政治的な意図ももっていたことを忘れるわけにはいかない。米国はグリンピー スのような環境保護団体すら「テロリスト」のレッテルをはり、非暴力直接行動 をあたかも暴力的なテロ行為であるかのようにみなして弾圧の手法を模索してき た。麻薬や人身売買など各国政府が反対しにくい口実を設けて国連を舞台に治安 立法としての国際条約を通そうとしたものだという側面は、むしろ今回の「テロ 等謀議罪」という名称によってはっきりと馬脚を表したというべきである。

第三に、共謀罪をその一部とする「刑法等改正案」には、欧州評議会のサイバー 犯罪条約を批准するための国内法整備のためのコンピュータ監視・取締り法案が 抱き合わせで組み込まれている。コンピュータやコミュニケーションへの監視が なければ、共謀容疑の捜査はありえないことから、当然考えられる改正だが、そ の影響は甚大なものだ。このサイバー犯罪条約の評判はすこぶる悪く、提案した 欧州評議会の主要国ですら批准している国は少なく、G8でみても米国とフランス がやっと昨年批准しただけでロシアは署名すらしていない。問題になっているの は、コンピュータのデータに対して警察などが強制的に保全命令を出せること や、警察の捜査権限を外国にまで及ぼすこれまでにない警察の越境的な捜査の枠 組が提案されるなど、個人のプライバシー権も国家の主権も大きく制約される内 容を含んでいるからだ。このようなコンピュータ監視・取締り規定が残る限り、 ぜったいに容認できない法案なのだ。

第四に、「テロ等謀議罪」と名前を変えたことによって、法案の性格は大きく変 わったということだ。当初の法案の提案理由にはテロへの言及はひとこともな い。またテロの定義もあいまいなままであり、先にも述べたように、テロの口実 によって反政府活動や市民の政治的な自由、団結権や結社の自由、思想信条の自 由が大きく制約される可能性がある。また、「テロ等謀議罪」という位置づけに 変更されたことによって、刑法のなかに明確にテロ対策の条項が組み込まれるこ とになる。これは政府が画策しているテロ対策基本法の呼び水になる危険性をこ れまでの共謀罪以上にはらむことになりはしないだろうか。

共謀罪は妥協や修正の問題ではなく、原則として容認することのできない法案で あるという点を再確認する必要がある。たとえ、対象犯罪がひとつに絞られて も、共謀罪の成立を許してはいけない。


Created by staff01. Last modified on 2007-03-03 11:01:02 Copyright: Default

このページの先頭に戻る

レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について