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LNJ Logo 反WEFフォトレポート2〜警察による民主主義弾圧〜
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さてここから、雰囲気を伝えるために散文風になることをお許しください。2月2日レポートへ戻る


■2月3日:ネットによる街頭行動の情報伝達

 この日は日曜日なので、本来はかなり大きな行動があっていいはずなのですが、1/31から続いている会議的な催しが2つ予定に上がっているほか、街頭行動の予定は2つぐらいしかアナウンスされていませんでした。

 その一つは「反資本主義者スカベンジャー・ハント」(The Anti-Capitalist Scavenger Hunt、主催はthe Anti-Capitalist Convergence:ACC)で、もう一つは「地球と動物の解放を求めるマーチ」(Earth & Animal Liberation March、主催はThe Coalition for Earth and Animal Liberation)が午後4時からとアナウンスされていました。

 前者の行動は、時間と場所などの情報が明らかでなく、前日2/2夜の時点でインディ・メディアでもTBA(=To Be Announced:追ってアナウンスされます)となっているだけで、運動関係のメーリングリストでも何も話がなく、いつまでたっても情報が流れてきませんでした。

 これは企画倒れか運動体の身内だけの行動か、アメリカらしいやと思っていたところ、深夜12時過ぎ、インディ・メディアのウエッブのニューヨーク地域ページに小さく「ACCはセント・マーク・プレイスに12時半に集合」と流れました(全体のプログラム表は相変わらずTBAだったので、僕が気が付いたのは朝の10時半頃ですが)。

 セント・マーク・プレイスというのは3ブロックくらいにわたってある通りの名前で、その通りのどこかがはっきりしません。しかも内容は、「ご近所周辺を元気にお散歩」("a brisk stroll about the neighborhood.")だとかで、何のことやら…という感じですが、後から考えればいろいろ気付かされることがあります。

 いずれにしても、その日の街頭での行動予定が、インディ・メディアという運動体を通し、ネットを通して伝達されるという形ができていました。2000年4月のワシントンでの反IMF/世界銀行の行動の時は、このような情報運動体の事務所が警察に踏み込まれ、機能しなかったそうです。このへんの対策が、既に出来ていたものと思われます。


■2月3日:スネーク・マーチ

 さて、流れた情報どおりに12時半にセント・マーク・プレイスに行ってみましたが、正確な地点が分からない上に、集まっている人があるわけでもなく、どこに行けばいいのか分かりませんでした。太鼓を叩いて反WEFの歌を歌う5人ほどのグループがいますし、プロテスターらしい人たちもちらほら。警察の数もかなりいるので、たぶんここだろうと思いましたが、それらしい「集合」が何もありません。仕方なく、セント・マーク・プレイスの東端にあるトンプキンス・スクェア・パークで、途中で買ったパンなどをかじっていました。

 海外のホームレス運動に関心のある方には、このトンプキンス・スクェア・パークをご存じだと思いますが、90年前後、この公園と近くの空き家をホームレスやその支援者たちが占拠(スクワット)してコミュニティを維持していたことで有名です。様々な弾圧や運営上の困難に潰されたあと、今ではこの公園は、遊歩道と芝生の間に腰ほどの高さの柵のある、恐ろしく「つろぎにくい」公園となっています。

 パンも食べ終わってさてどうしようと思案していたところ、隣のベンチに座っていた体のでかいアフリカン・アメリカンの若者が携帯電話で話していました。「セント・マーク・プレイスって、ニューヨークにいくつあるんだ?今いるんだけど、何もやってないよ。コップが随分とたくさん集まっていて、公園の入り口を張っているだけだよ」。手を見ると、インディ・メディアの新聞を持っていました。この会話を聞いて、やはりこの行動は企画倒れかと思い、1時半頃、再度セント・マーク・プレイスを通って地下鉄の駅に向かいました。

 するとセカンド・アベニューの近くまで来たところ、群衆のかけ声が聞こえてきたので、大急ぎで交差点まで行ってみると、50人ほどの若者のデモが歩道で始まったところでした。大きな荷物を2つ抱えていた僕も、走ってそこに合流しました。

 かけ声の内容は昨日のデモとほとんど変わりません。ただ人数が少ないことと、このデモは無届けデモらしくて歩道を歩いていること、それともう一つ大きく違うことは、みんな断続的に小走りに走っていることでした。まさに町中をゲリラ的にぐねぐねと走り抜けるデモの様相で、大きな荷物を持っていた僕は、その「スネーク・マーチの隊列からどうしても遅れがちになりました(とても写真を撮っている余裕はありませんでした)。

 デモが始まってすぐ警察車両が続々と路上に集まり、まるで軍用車両のパレードのように車道をずらっと走り、歩道のデモと併走するような形になりました。あっと言う間にこれだけの警察が集まったのは驚きと言うしかありません。警察からデモ隊に向かって「交通の妨害になるのでやめなさい」と声が出ると、「ここは歩道だ。誰がいつ通ろうと自由だ!」「歩いているのに何が危険なんだ!」と反論します。そのうち、シュプレヒコールが始まります。「これこそが民主主義らしいのだ!(This is what democracy looks like!)」


■2月3日:スネーク・マーチへの弾圧

 そしてまた小走りに走り、小さな角を曲がると、警察車両もそれに付いてくる、ということが20分ほど続いたでしょうか。サード・アベニューに出てさらに北上したところで、そこには警察の阻止線が待っていました。僕は荷物のせいで20メートルほどデモ隊から置いて行かれていたので、必死になって追いかけていたところ、ある交差点ですでに混乱状態と一斉逮捕が始まっていました。思わず立ち止まってカメラを構えたところ、その間にニューヨーク市警の制服警官が警棒を構えてずらりと並び、「Show me your press card!」と僕に詰め寄ります。 僕はそれを避けて車道に出ていくつかシャッターを切りましたが、僕の前に行ったデモ隊列は、ほとんどみな一網打尽にされてしまったようでした。

 逮捕されたプロテスターたちは警官数人がかりで道路に押さえつけられ、後ろ手に縛られてから、建物ぎわに座らされました。座らされた後も、彼らは歌を歌って抵抗を続けていました。

 逮捕劇が始まると交差点の車道は警察車両でいっぱいになり、周辺の交通は封鎖されました。おそらく場所が分からなくていて、騒ぎを聞いて駆けつけたと思われるプロテスターたちが交差点に続々と集まり、警察の壁に向かって口々に抗議を始めました。

 また、すぐに救援の体制が組まれたようで、10人ほどのメンバーが、逮捕されて座らされている人や護送車に入れられようとしている人に向かって「名前は何?」「苗字を教えてくれ!」と叫び、被逮捕者もそれに答えようと叫んでいました。各地から来たいろいろな人が参加していたために、逮捕されても名前も分からない人が随分いるようでした。

 この間、交差点の一角では警察による逮捕者への対応が行われており、それを取り巻いて警備をする警察の壁が作られ、その外側にはさらに集まったプロテスターの群衆が、交差点の各歩道で太鼓を鳴らしたり抗議の声を上げたりしていました(交差点の中は警察車両で埋め尽くされた上、警察が「歩道に出ろ!」と追い出すため、歩道にかたまらざるを得ない)。また、救援の情報集めに動くメンバー10人ほどと、カメラやビデオを抱えた若者(ほとんどが報道関係と言うよりもプロテスター)が、警察の壁に近づいては押し返されていました。マスコミな どプレス関係でその場にいたのは、わずかでした。上空には、警察のヘリコプターが交差点上を何度も旋回していました。

 結局、僕は荷物のせいでデモ隊から遅れていて逮捕を逃れたわけですが、遅れたことをホッとしたような、悔やむような気持ちでした。もちろん、逮捕されていれば、このような報告は書いていられないか、ずっと遅くなって別の報告を書いていたでしょう。

 その時はっと気が付いたのは、あれだけたくさんいると感じた制服警官以外にも、私服警官が大勢逮捕に加わっていたことです。通行人のふりをして、かなりの数の私服警官に、僕たちははじめから取り囲まれていたのでした。

 はじめに一斉逮捕が行われた交差点の一角が小康状態になった頃、同じ交差点の別の一角で、抗議行動をしていた群衆と警察が小競り合いになり、再び逮捕が始まりました。周囲では警察に向かって "Shame! Shame!" と声が上がりました。僕は救援メンバーの中に混じっていたため、やはりこの時も逮捕を逃れました。

 交差点のプロテスターの中には、警察に向かって「おかしいじゃないか」と問いかけている人もいますし、ただの見物人かと思ったら突然猛然と警察に抗議を始め、大きな声で何事かを吐き捨てて去る女性もいました(そこにいたプロテスターたちは拍手で彼女を見送る)。また、交差点に面したビルの窓から手を振る人や不安げに見下ろす人がいました。

 警察はこれら群衆も含めて、集まった者たちのビデオを少なくとも3人がかりで撮影していました。

 さらにこれも一段落が過ぎたころ、交差点に入る道を機動隊の隊列が入ってきて、全ての群衆(プロテスターも見物人も)を囲い込む形で壁を作りました。「また警察が増えたのか、どれだけいるんだ」と思いましたが、何のことはない、さらにその後ろ(一つ向こうの通り)にも、さらに同じくらいの数の警官が待機して、外からその交差点に入ろうとする人を阻止していました。

 小康状態になってしばらく経ち、「プロテスターがしびれを切らして何かをするのを待っているんだろうな」と思っていたとき、警察が歩道にいた群衆を交差点から追いだし始めました。僕もその場にとどまろうとしましたが、「あっちへ行け!逮捕されたいのか!」と追いやられました。この時午後4時近くでした。

 ニューヨーク・タイムズによれば、この交差点に集まった人は数百人、被逮捕者は87人だそうです。

 ニューヨーク・タイムズは、一連の反WEF行動での警察のやり方にはかなり批判的です。この行動も、同紙が「交通の混乱に繋がるだろう」と書いたために、主催者側が予定していた「スカベンジャー・ハント」を中止し、代わりに歩道を歩く「スネーク・マーチ」になったと伝えています。そして、昨日のデモと同様に平和的であったのに、なぜこれほど逮捕されるのか、と疑問を呈しています。普段はお上寄りのニューヨーク・タイムズですら、と言った方がいいかもしれません。

 この行動に関して、あらかじめ詳しい行動予定が流されていなかったのは、情勢を見て予定を決めるためと、警備体制を固めさせないためということがあったようです。また、ある程度の弾圧を予想して、意志疎通のできている者を中心に行うつもりもあったのかもしれません。しかしニューヨーク・タイムズによれば、警察の準備ははじめから万全で、運動の中に警察の内偵者がいたのではないかという話が記事になっていました。

 この行動自体の評価については、僕には何とも言いようがありません。が、少なくともその前日のデモでの「完全に囲い込まれたマーチ」を越えたい意図は非常に感じましたし、少なくともこのような行動を生み出すアクティビティはここにはあり、しかし日本にはあまりないなあというのが正直な感想です。

 またもう一つ、このような形の大衆(?)行動が可能なのも、インターネット情報が運動の中で活用されリアルタイムで機能していることと、それらの情報伝達を技術的にサポートしているインディ・メディアという運動メディア組織があることが、非常に大きいと感じました(ふらっと来た僕ですら、一応この程度は参加できるのですから)。


■2月3日:地球と動物の解放を求めるマーチ(Earth & Animal Liberation March)

 僕はその後別のところに行ってしまったので、この行動については具体的には分かりません。この一見「平和的」そうな名称の行動で、70人の逮捕者が出たとニューヨーク・タイムズは報じています。その報道によれば、以下のようです。

 4時からThe Coalition for Earth and Animal Liberation の主催で始まったマーチは、はじめ20人ほどだったがたちまち百人を越え、警察車両を先頭にマーチを行っていた。ある高層アパートに来たときに、何らかの団体の管理者の家がそこにあると一人が指摘し、窓を叩いたりペンキをかけたりということが始まった。そこで3人が逮捕された。

 その後、マーチは周囲を警察にへばりつかれながら続けられたが、6時を過ぎたころ、警察の方がしびれを切らして「交通の妨害をしているので、一列か二列に並べ」と言いだし、それに従わないと見るや、数分後に逮捕が始まり、そこで60人が逮捕された。

 さらに歩いていたプロテスターに「どこに行くのか」「解散するか逮捕されるかどちらを選ぶ」と警察が問い、4人が逮捕されることを選んだ。


■アメリカでの街頭行動の良さと困難

 この2/2-3の二日間は、アメリカでの街頭行動の現状を典型的に表していると言っていいと思います。

 ある囲われた枠の中でなら、活気溢れる「平和的マーチ」を、万単位の人を集めて大規模にできます。それはうらやましい限りです。しかしそれは、しょせん警察の管理下であることは厳然としており、WEFが終盤になると警察が容赦なく逮捕を始め、場が解体されてしまいます。今回投入された警察官は総勢七千人だそうです。

 アメリカでは、警察の市民運動に対する不当な弾圧やひどい暴力が、何年か前から問題になってきています。

 2/2に同じ行動に参加していた友人も知り合いが逮捕されたそうですが、その人も逮捕容疑が軽微であるにもかかわらず、拷問されそうな脅しを受け、寒いところに毛布一枚すら与えられず、朝まで転がされていたそうです。彼は釈放されて他州の自宅に戻ったものの、裁判を受けにニューヨークまで行かなければならないそうです。

 日本でも、組織的犯罪対策法案の審議過程や、公安警察の内部が告発されるに従い、近年では市民運動がターゲットになっていることが明らかになってきました。

 アメリカでの運動の良いところばかりでなく、直面している問題点からも、いろいろ考えさせられる行動でした。


photo by NewYorkTimes

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文責:なすび



Created byStaff. Created on 2002-02-11 14:04:37 / Last modified on 2005-09-05 02:58:43 Copyright: Default

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