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第16回・JR北海道の事故多発の原因は国鉄分割民営化だ!
〜闘いのうねりで今こそ再国有化を!

2013年9月19日、函館本線で起きた貨物列車の脱線事故以降、JR北海道の事故、トラブル、検査・保守作業の手抜きは底なしの様相を見せている。2007年に相次いだレール破断から危険が表面化し、2011年には石勝線を走行中の特急列車がトンネル内で火災を起こし、乗客が避難する事態になった。今年になっても車両からの出火、燃料漏れ、脱線事故が続発している。

線路が歪んだまま放置されている場所は260ヶ所にのぼることがわかっている。JR北海道の内規では、線路が本来の幅(1067ミリ)より19ミリ以上広がっている場合、15日以内に補修を行わなければならないが、行われていなかったのだ。線路の歪みの放置は、列車が時速130キロメートルの高速で走行している路線でも見つかった。

すでに、2011年度の会計検査院の検査により、自社で決めた保守点検マニュアルすら守られていない実態や、点検記録そのものの不備が指摘されていた。にもかかわらず、JR北海道は放置し続け今日の事態につながった。現場では、線路が4センチ近くも広がりながら、人員や予算に余裕がなく、1年も修理されない場所もあった。予算もなく人員も減らされた現場は疲弊。ついには運転士の覚せい剤使用や、ミスを起こした運転士が発覚を恐れてATS(自動列車停止装置)をハンマーで破壊する事件まで起きた。こうした事故の背景に何があるのか。

 ●人減らしと労働強化

表1は、JR北海道の民営化当時と現在を比較したものである。JR北海道の社員数は、国鉄分割民営化による会社発足の時点では1万3千人だったが、11年の石勝線列車火災事故の時点では7千百人。現在はさらに減り6千8百人とほぼ半分に減った。その一方で、特急列車の運転本数は民営化当時の1日当たり78本から140本へとほぼ倍増した。札幌〜釧路間では高速化により所要時間を約50分も短縮している。

表2は、2012年度末におけるJR各社の概要を示したものである。営業キロ1km当たり社員数はJR北海道が際だって少なく、以下、少ないほうから四国、九州、西日本、東日本、東海の順となる。経営状態の悪い会社ほど人減らしが進行していることは一目瞭然だ。

JR北海道は2.72人であり、最多のJR東海の9.18人と比べると約3分の1だ。同じように経営的自立が不可能として「経営安定基金」の措置を受けたJR九州・四国と比べても少ないことが見て取れる。そもそも営業キロではJR東海よりも長いJR北海道が、この労働者数で安全な鉄道を維持できる方がおかしいといえる。

北海道に限らず、JR各社では分割民営化前後の極端な採用抑制と人員削減の結果、会社の中核を担うべき40歳代の社員が全体の1割しかいないという、歪な年齢構成も明らかになっている。人員削減と強引な列車増発によって労働者が極限まで追い詰められていることが、重大事故続発の背景にある。

 ●外注化で技術が崩壊

JR北海道では車両整備の外注化が進む。パーツの分解など、車両整備の最も基本となる作業は現在、すべて下請業者だ。JR社員は下請労働者が準備したパーツを点検、組み立てるだけ。部品に直接触れ、確認することのないJR社員は問題があっても発見することができない。

保線の外注化も進んでいる。09年、函館本線で、赤が表示されるべき信号機が黄を表示したため、後続列車が先行する列車に追突しそうになる事故があったが、この事故も下請労働者による配線ミスが原因だった。現場で技術の伝承が途絶えていることを象徴した事故だ。国鉄分割民営化で、優れた技術を持っていた国鉄職員が、国労・全動労(現在の建交労)に所属しているという理由で大量解雇され下請労働者に置き換えられたことが背景にある。

JR北海道以外に目を向けても、例えばJR西日本では下請労働者の偽名による登録がまん延している。その理由について、ある労働者は次のように指摘する。「実際に現場に送り込まれているのは、昨日今日、来たばかりの未熟練労働者なのに、協力企業(下請け)の経営者は自分たちを熟練労働者の名前で登録させようとする。送り込んでいるのが熟練労働者であれば、JRからは高い請負契約料が支払われるので、協力企業の経営者にとってはうまみが大きいのです」。

現場で熟練労働者が作業に当たっているとJRが認識しているつもりでも、実際に送り込まれているのは未熟練労働者…。安全を守るべき鉄道の現場で、安全・モラルの崩壊はいまや極限に達している。

 ●広がる混乱

JR北海道の現場では、修繕・交換のための資材を本社に要求しても、要望通りに投入されることはまずないという。現場には、「どうせ要求しても資材は来ない」という諦めムードも広がっている。あるベテラン保線社員は、「だましだまし補修しても、その後“予定通り”にレールが破断したこともあった。ベテランの経験や技術でしのいできたが限界もある」と話す。

北海道では、一連の事故によって利用者のJR離れも広がっており、今年の乗客数は対前年比2割減少したとの報道もある(一方で、航空の道内路線は乗客が5割増え、高速バスも増便が追いつかないほどになっている)。予算不足が事故を招き、利用者のJR離れがさらに会社の経営を悪化させる負のスパイラルに陥っている。経営安定基金も列車を走らせることによって生じた赤字を補てんするだけで消えていく現状で、JR北海道は民営化以来28年間、弥縫策を採り続けてきた。今回の事態は、そうした弥縫策の最終的破たんを意味する。

「列車がまともに運転されている日を数えた方が早い」JR北海道の事故は、北海道経済にも悪影響を及ぼしている。特に函館線は、本州と北海道とを結ぶ輸送の大動脈であり、運休の影響は大きいが、この夏、函館線がたびたび寸断されたことにより、北海道から本州に運ばれる農産物の荷傷みを招いたり、本州から北海道に輸送される雑誌など定期刊行物の発売が大幅に遅れたりするなどの被害が出ている。函館市では主要産業の観光にも大きな影響が出ており、地元で水揚げされた新鮮な魚介類が並ぶため観光客の人気が高い函館朝市も客はまばら。函館駅前のビジネスホテル経営者は「JRの運休は痛い。いつになったら正常化するかもわからず手の打ちようもない」と頭を抱える。

 ●エンジンだけで25形式

JR北海道は、札幌近郊の一部地域を除けば気動車(ディーゼル車)による運転だ。青函トンネルが開通するまで本州と線路がつながっておらず、本州と車両・設備の規格を統一する必要がなかったことも電化が遅れた背景にある。当然ながら、JR北海道で主力となるのは気動車だが、そのエンジンだけで現在、実に25形式もあるのが現状だ。

25形式もエンジンがあれば、そのエンジンを保守するためのノウハウも25通り必要になる。非効率この上なく、保守を効率化する上では、車両もエンジンもできる限り形式を統一する方が望ましい。なぜこんな事態になったのか。

国鉄時代は「1目的1形式」が原則だった。例えば特急用電車は交流、直流、交直両用で1形式。同様に急行型、近郊型、通勤型もそれぞれ1形式ずつ。機関車も日本全国で用途や路線の実情に応じて概ね10形式程度だった。気動車に至っては、特急型、急行型、一般型で1形式ずつ。北海道では寒冷地対策が必要なため別形式だったが、青森から鹿児島まで原則3形式、地域による特殊事情を考慮しても5〜6形式だけで列車を運行していた時期もあった。全国を旅する鉄道ファンからは「どこに行っても同じ形式の車両で地域性がなく、旅行に行った気がしない」などという声もあったが、車両の運用はきわめて効率的だった。列車が減った線区から増えた線区へ、車両の「全国転勤」もあちこちで行われていた。どこに行っても同じ車両を保守するのだから、国鉄職員は転勤しても「即戦力」であり仕事に不安もなかった。廃車になった車両から、まだ使える部品を大量に取り出し保存しておけば、別の車両で部品が破損してもすぐに取り替えることができた。

こうした現場の事情を、本社幹部などもある程度理解しており、新形式の車両を開発するときも、すぐに現場に投入はしなかった。じっくり時間をかけ、慎重に安全を確認した後、全国でいっせいに古い車両を新しい車両に置き換えた。一部で置き換えの間に合わない地域もあったが、「同じ目的に使われる車両は1形式、多くても2形式」という姿が維持されたから、現場での保守作業もきわめて楽だった。

安全性を落とすことなく、現場での保守作業を統一化し、効率化して生産性を上げるこうした国鉄のやり方が、国鉄末期、「技術開発が停滞している」として国鉄「改革派」(分割民営推進派)からやり玉に挙げられたことがあった。こうした政治的攻撃を恐れたためか、JR化以降、新車が出たらとにかくすぐ現場に投入しなければならないかのような雰囲気が生まれた。モデルチェンジといえば聞こえはいいが、次から次へと未知の形式の車両が送り込まれた結果、JRの現場は多形式の車両を抱えて混乱を極めていった。エンジンだけで25形式も存在するJR北海道は、こうした民営化以降の混迷の象徴に見える。

歴史をひもといてみると、日本の鉄道は民営で始まり、全国各地で民間企業が出資金を集めて路線を建設した。1906年に鉄道国有法が成立、主要幹線を経営する17私鉄を政府が買収して国鉄の基礎が築かれた。ただし現場は惨たんたるもので、買収前の各私鉄がそれぞれバラバラに海外から機関車を輸入していたため、国有化の時点で機関車だけで190形式もあった。私鉄買収後の国有鉄道幹部は、効率的な輸送を確保するため、多すぎる車両形式の整理に努めたが、最終的な終了まで数十年かかったという。

はるか昔、100年も前に解決したはずの問題が、21世紀にもなってJRの現場を再び苦しめているのは皮肉というほかないが、こうした事態は、鉄道100年の計を考えず、儲けのために国鉄を分割したことによる必然の結果である。

 ●28年前と同じ「労働者悪玉論」がまた始まった

JR北海道の安全問題が国鉄分割民営化失敗論に波及することを恐れたのか、28年前、国鉄を葬った者たちは、再び労働者に責任を転嫁しようとしている。メディアではJR北海道に「4つの労働組合があって対立しており、別組合の社員は冠婚葬祭にも呼ばれない」「業務の伝達もできず意思疎通に支障を来している」などと報じている。東日本大震災などの混乱の中でしばらくなりを潜めていた「JR総連に革マル浸透」説もここに来て再び宣伝され始めた。

もちろん、JR総連に革マル派が浸透していることは、この組合が旧動労(国鉄動力車労働組合)を母体としていることから、多くの識者にとって周知の事実である。彼らが国労組合員のJR採用を妨害してきたこと、1990年代にJR不採用問題の政治解決の気運が盛り上がった際に、彼らがスト権提起までして国労組合員のJR復帰に反対したことを、本稿筆者はおそらく死ぬまで忘れないだろう。彼らのように、左翼の仮面をかぶりながら反労働者的行動を繰り返してきた者たちがJRの労働組合から淘汰されることに筆者は全く異存がない。

だが、JRの労働者一般にメディアから攻撃が仕掛けられているとすれば見過ごすことはできない。鉄道ファンでさえ国鉄時代を知らない人が多くなった今、改めて繰り返しておく必要があるが、当時も今も労働者に責任はない。当時、国鉄解体を控えた混乱の中でも、1日に10万本を超える列車が整然と、時刻通りに動いていたのだ。

 ●JR北海道社員に「ぬるま湯」というNHKの大罪

とりわけ、メディアの中でも許し難いのがNHKだ。JR北海道の安全問題を取り上げた10月4日(金)の「北海道クローズアップ 安全はどこへ〜JR北海道 最新報告〜」は見るべきもののない酷い番組だった。JRで事故が続発する原因を「JR北海道社員の“ぬるま湯”体質」に求め、経営改善のために「さらなる経営効率化と不採算路線の整理」を求めるばかげた内容だ。JR北海道の黒字路線は札幌近郊の一部のみ。採算を基準にすれば北海道から鉄道はすべて消えかねない。札幌市営地下鉄と札幌市電があれば、道民の生活の足は消えてもいいというのか。道東地域では、冬になると暴風雪で視界がゼロになり、車に乗っている人にさえ死者が出ているというのに…。

しかし、NHKの「企業体質」を見れば、こうしたばかげた結論になるのも無理がないと思う。NHK現会長の松本正之氏はJR東海の元社長だ。JR民営体制への批判は、人事の面で完全に封じ込められている。

その上、驚くべきことに、安倍政権が松本氏の後任のNHK会長に、あの葛西敬之・JR東海会長を起用する方針を固めたと一部で報じられている。葛西会長こそ、旧国鉄職員局長として、国労組合員らの大量解雇を主導したA級戦犯である。JR東海が進めようとしているリニア中央新幹線計画に対する批判を封じ込めるための人事とも読めるが、いずれにせよこのような人事を許せば、ますますNHKは「暗黒報道機関」と化するだろう。

 ●命よりカネの民営化から、再国有化を!

今回の事態の根底にあるのは、日本での新自由主義改革の先駆けである国鉄分割民営化にある。10万人もの労働者を新会社から締め出した国家的不当労働行為はあらゆる企業に波及し、「首切り自由」社会、経営者やりたい放題社会の入口になった。

安倍政権は、「日本を世界で一番企業が活動しやすい国にする」と公言し、「首切り特区」導入などグローバル資本の無法の公認さえ狙う。労働者を全くの無権利状態に突き落とし、カネのために市民の命を脅かす「アベノミクス―成長戦略」に退場を宣告するときだ。

英国では、鉄道民営化後、線路の傷みが放置された結果、4人が死亡する脱線事故(ハットフィールド事故)が起き、政府が民営化の失敗を宣言。鉄道施設の保有と維持管理が非営利企業(レールトラック社)に移され、事実上再公有化された。日本でも、JRの責任追及を徹底し市民の厳しい監視と規制で再国有化を求める運動のうねりを作り出さなければならない。その際、再国有化される企業体は独立採算制を原則としないこと、国費による運営費の補てんを行うこと、利用者・国民の声が経営に反映する民主的な意思決定の制度が確保されること、等が最低限必要であろう。

(2013.10.20 黒鉄好)


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