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●映画「ナチス、偽りの楽園」
歴史に翻弄された天才芸術家 ナチス特権層収容所の真相は

 戦後の一時期、モダンジャズが流行った。なかでもソニー・ロリンズの「モリタート」はよく口ずさんだ一曲だった。これはブレヒト『三文オペラ』の「メッキー・メッサの殺しの歌」が原曲で、ドイツでは1920〜30年代に歌われた。それがユダヤ人強制収容所で、ある役者によって歌われていたことをマルコム・クラーク監督のドキュメンタリー「ナチス、偽りの楽園」ではじめて知った。

 映画は邦題のサブに「ハリウッドに行かなかった天才」とあるように、これは役者ばかりか映画監督までやったクルト・ゲロンの悲劇を描いたもの。彼ははじめ医者を志して地方からベルリンにやってきたが、キャバレーの舞台に魅せられ、ショービジネスの世界にとりつかれる。そこでブレヒトと親交をもち、「三文オペラ」の初演で主役となって美声を聴かせた(映画でその歌声を聴くことができる)。「嘆きの天使」ではマレーネ・ディートリッヒと共演もした。彼が華々しく活躍した時代はナチスも台頭してきた時代だった。多くの芸術家は亡命しハリウッドで活動したが、ユダヤ人の彼は映画作りに熱中するあまり渡米しそこない、ついにテレージエンシュタット強制収容所送りとなる。そこは芸術家や科学者などの特権層が収容される場所だ。

 ナチスは国際社会の非難をかわすために、収容所がいかに楽園であるかを見せかける必要に迫られていた。そこでゲロンに、この収容所を舞台にして地獄を牾擶爿瓩忙杜てる宣伝映画を作らせた。そのフィルムが興味深い。

「ナチス、偽りの楽園」は、ゲロンの足跡をたどり、収容所の生き残りの人々の証言をまじえて、お人よしで非政治的であるがゆえにナチスのあやつり人形となって利用されたゲロン像を浮かび上がらせる。宣伝映画は日の目を見なかった。が、彼はアウシュヴィッツへ移送される貨車に乗る時、「まるで王様のようにふるまっていた」という。

 彼の「メッキー・メッサー」が耳の奥で聴こえてくる。(木下昌明/「サンデー毎日」2011年5月8日・15日号)

*「ナチス、偽りの楽園」は4月23日、新宿・K's cinemaで公開。以下全国順次公開


Created bystaff01. Created on 2011-05-11 21:14:48 / Last modified on 2011-05-11 21:48:40 Copyright: Default

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