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第8回・「残飯おせち」騒動から見えてきたグルーポンの強欲

 2011年は正月早々、ネット販売による「残飯おせち料理」騒動で始まった。すでに経過をご存じの方も多いと思われるが、横浜市の株式会社「外食文化研究所」が経営する「バードカフェ」製「謹製おせち」が見本と全く違うものだった上、遅配となり騒動に陥ったのである。実際に届いたおせち料理は見本からは想像もできない貧相なもので、インターネット上では「残飯」という酷評さえ見受けられた。遅配のほうも酷く、1月3日になってようやく届いたという例もあったようだ。

抗議が殺到した同社は年明けから自主休業に追い込まれた。同社のホームページはお詫びの文章とともに「食材不足と人員不足」「発送伝票が重複」「人員不足による対応の遅れ」などが原因とする見苦しい言い訳が掲載されている。さすがにこの貧相な内容では責任を持って販売できないとして、発売中止を求める声も社内で上がったようだが、水口憲治社長が「トップ判断」で販売を強行したというのが真相のようだ。

もちろん、このような事態を招いた原因がバードカフェとその運営企業「外食文化研究所」にあることは間違いなく、また食材不足、人員不足とみずから認める混乱状態にありながら、不完全なまま出荷強行の判断をした水口社長にあることは疑いがない。だが、今回の騒動を通じて見えてきたもうひとつの問題がある。ネットによるクーポン割引販売サイト「グルーポン」を巡る問題である。

●「ネット史上最速」の急成長の陰で

 グルーポンは、米国で2008年にアンドリュー・メイソンCEO(最高経営責任者)が始めたサービスである。飲食店が一定の割引を適用することを条件に顧客を募集、一定数の顧客が集まったら成約となり割引料金で飲食サービスが提供される。「最少催行人員○名」とチラシに記載して、その人数が集まったら割引ツアーが成立、実施に移されるという旅行業界のパックツアーと似た仕組みで、割引サービスとしてはインターネットを使っていること以外、特に目新しいものではない。日本では2010年秋頃から注目され始め、あっという間に「ネット史上最速」の急成長を果たした。

 この不況とデフレの時代、急成長する「ビジネス」の背景には必ず何かがあるはずだ。そう思って新年からいろいろ調べていると、グルーポンの驚くべき実態が見えてきた。手数料率が半端ではなく、なんと「基本50%」なのだ。

 例えばある飲食店で定価10,000円のコース料理があるとしよう。この料理に顧客を100人集めることを条件として、半額の5,000円で割引クーポンを売り出す。100人集まったら初めて契約が成立となり、生産に入る。グルーポンに納める販売手数料として半額を支払うので、1個売れるごとに飲食店に落ちる金額は2,500円となる。

この時点で、飲食店に落ちる金額は定価の25%にまで減少したことになる。飲食業界では、一般的に原材料費(食材の仕入れ費)が販売定価の3割といわれており、これでは原材料費もまかなえない。おそらくグルーポンに参加している飲食店のほとんどが赤字だろう。50%引きなんて極端だと思うなかれ。グルーポンのサイト(http://www.groupon.jp)を見ると、実際には66%引き、72%引きなどというもっと極端な値引き商品が並んでいる。72%引きで販売した売り上げの半分をグルーポンに持って行かれたら14%しか残らない。

 このような状態になってまで飲食店がグルーポンに参加する理由は何か。識者は、(1)広告費の代わり(広告は打っても空振りのときも多いが、グルーポンだと確実に売れ、食材が残らないだけ効率的)、(2)稼働率を上げるため(空席を抱えるより価格を下げても席を埋めたい)・・・等々をその理由として挙げている。

 だが、安売りが始まったら客が殺到して価格を元に戻したら急に閑古鳥、という牛丼業界などの「勝者なき消耗戦」を見ていると、とてもうまくいくとは思えない。安売りクーポンがあるときだけ客が殺到して、平常価格に戻ると見向きもされなくなるデフレ地獄に陥り、結果として「名ばかり店長」に代表される飲食業界の「ブラック化」だけが一層進行する、という未来が待っていることは容易に想像できる。

●呆れるほどの強欲

 「残飯おせち騒動」では、バードカフェと外食文化研究所に抗議が殺到したのは当然としても、内容をチェックせずに販売していたグルーポンにも抗議が殺到した。正月明けになり、グルーポンはおせち騒動の再発防止策を発表したが、その内容が商品の事前チェックの導入とお客様相談ダイヤルの開設というのだから、サービス業が聞いて呆れる。本来ならその程度のことは事業を開始する前に解決しておかなければならないものだ。

 そもそも、グルーポンのようなサービスは、意地悪な表現をするなら「単なる場所貸し」に過ぎない。知名度がなくて集客に苦労している飲食店と、安い店を探している消費者とをマッチングさせるため、ネット空間を提供するただの場所貸しである。グルーポンがみずからを単なる場所貸しだと認識して謙虚な姿勢で事業を行うなら、手数料率はせいぜい数%〜1割程度とすべきだし、逆にみずからをネットで飲食の提供を行う総合サービス業と認識するなら、ある程度高い手数料を許容される代わりに苦情対応などの社会的責任もきちんと果たすべきだろう。「手数料は半分寄越せ、でもウチはサービス業でもないただの場所貸しだから、買った商品に苦情があるときは出品したお店に言ってね」では厚かましいにも程があるし、こんなあこぎなビジネスをしているのだから、ネット史上最速の急成長もするに決まっている。

 「本家」である米国グルーポンのメイソンCEO自身、「利他的な目的で存在するサイトや商品が成功した例はほとんどない」という驚くべき発言をしている。メイソン氏は、自分が欲しいと思うサイトや商品がなかったから自分が作ったら、そこからヒットが生まれることが多いのであって、自分自身の利便性を考える姿勢こそヒットの源泉なのだという意味でこのような発言をしたらしいが、手数料率50%というグルーポンの強欲さと残飯おせち騒動の事実を知った後でメイソン氏の発言を聞いても、もはや私はそれを額面通りに受け取ることはできない。そこには「自分さえ儲かれば他人がどうなろうと知ったことではない」「どんな卑怯な手、汚い手を使っても勝った者が正しいのだ」という、いかにも小泉、竹中的腐臭がプンプンと漂うのだ。

 このような強欲なサービスは長続きしないだろう。グルーポンが、いずれもっと穏健で謙虚な同種のサービスに取って代わられることは間違いない。

(黒鉄好・2011年1月24日)


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