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LNJ Logo 小林たかしの談話室・第5回
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第5回・ハリケーン「カトリーナ」の余波

●さ お り◎民主党政権が「社会主義」的で「左」すぎるといった非難が、野党やジャーナリストたちによって繰り返された結果、このところ民主党は急速に右旋回しているね。

★オッチャン◇普通の人が正論をいうとたちまち「左」にされるし、中国やロシアの人たちを擁護しようものなら「極左」扱いされてしまう。かなり危険な状態だ。

●さ お り◎テレビの『坂の上の雲』の登場人物たちが、思い入れたっぷりに「ニッポンの未来」を語るセリフにウンザリしているのに、現実の世界もナショナリズムの洪水になっている。

★オッチャン◇治安維持法で逮捕され、敗戦の一週間まえに獄死した哲学者、戸坂潤は1935年の著書『日本イデオロギー論』で、こんなことをいっている。「……『ニッポン』イデオロギーが(ニホンと読むのは危険思想だそうだ)大量的に生産され、それが言論界や文学や科学の世界にまで浸み渡り始めた……。日本は最近とくに国粋的に扇情的になった」と。《歴史は繰り返す》のかな。それと、11月の中間選挙でアメリカの民主党が大敗を喫したときも、オバマ政権を「社会主義」だとする非難が噴き出していた。

●さ お り◎2006年に放映された「ニューオーリンズ/ハリケーンのあとを歩く」の再放送を見たら、2005年8月に、死者1800人以上の犠牲者を出した「カトリーナ」による被災からの復興を映していたけど、番組には、州政府やブッシュ政権の防災対策の不手際などに対する批判的な視点はなく、ジャズ・ミュージシャンなどの行方を追っていくだけだった。

★オッチャン◇渡辺靖の近著『アメリカン・デモクラシーの逆説』には、「カトリーナ」悲劇の真相を多角的に探っていて興味深い。ニューオーリンズのあるルイジアナ州は、全米でもっとも個人所得額が低い州だそうだ。著者は、ニューオーリンズ大学のマーサ・ワード教授の話を紹介している。「阪神・淡路大震災では社会的弱者にも等しく支援が与えられたと聞きます。それがニューオーリンズでは持ち家のある者からだったのです。アメリカは先進的な社会ですが、その恩恵は裕福な者だけが享受できるもので、一般市民にとっては“第三世界”と変わらない状況にあるのです」と。

●さ お り◎アメリカは世界一の格差社会だから……。でも自然災害の被災者も、新自由主義的な不平等で差別されるなんてひどすぎるね。

★オッチャン◇ワード教授の話をつづけるね。「要するに我々は“アメリカ”ではないということです。……ニューオーリンズでは黒人が人口の三分の二を占め……アメリカでも特にカトリック教徒が多い町です。市長は代々民主党員。当時のブランコ州知事も民主党員で、しかも女性でした。ワスプ(WASP、アングロサクソン系の白人プロテスタント)で父権主義的な共和党員であるブッシュ大統領にとっての“アメリカ”ではないということです。それは、大統領個人だけの見方ではなく、アメリカ社会の主流に広く共有されている見方かもしれません。カトリーナの被害を大きくした要因はいろいろありますが、私自身は、最も根底的な部分にこうした差別的な眼差しがあると思っています」

●さ お り◎ふーん。でもそうした差別的な構造は日本にもあると思うけど、アメリカのそれはもっと複雑で対立的なんだね。

★オッチャン◇日本の格差社会も、アメリカ的になっていく可能性は大だね。「カトリーナ」の余波は、“アメリカン・デモクラシーの影”だが、渡辺靖のこの本には、ほんの少しだが“光”も紹介している。それはジョージア州ディケーターの「インターナショナル・コミュニティ・スクール」という小学校の話だ。児童400人の半数が世界30ヵ国からの難民なんだ。この話は、ぜひ本書を読んで考えてほしい。

●さ お り◎2006年放映の「チャップリン/世紀を超える」という再放送番組のなかにも“アメリカン・デモクラシーの光”の話があった。オハイオ大学の授業で『独裁者』(1940年チャップリン作)をみて学生たちが議論するシーンはよかった。一人の学生は、「あの時代はヒトラーが敵だった。大戦が終わるとソ連が敵になり、ここ数年はテロリストが敵だ。アメリカはいつも対立する敵が必要なのか? でもぼくは、敵と味方にわけて、敵を排除しようとする風潮が民主主義だとは思いたくない」と、はっきり主張していた。

【2010/12/31 通算9回目/転載・引用・援用など、すべて自由】


Created bystaff01. Created on 2010-12-31 14:13:45 / Last modified on 2010-12-31 14:19:52 Copyright: Default

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