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毎木曜掲載・第280回(2022/12/8)

たんなるマニュアル本ではない

『失敗しないための ジェンダー表現 ガイドブック』(新聞労連ジェンダー表現ガイドブック編集チーム)評者:わたなべ・みおき

 「ジェンダー」と聞くと、何かまたややこしいことを言われそう、と、ひるむ人もいるかもしれない。言葉狩りや男性を攻撃するような本ではないのだが、その点、「失敗しないための」というタイトルで損をしているのではないかと心配してしまう。

「女医」や「女子アナ」など、あえて「女」を付ける必要はあるのか、「男医」「男子アナ」と言わないならば「女」は不要、「美しすぎる市議」がだめな理由など、具体例を挙げてその改善策を記載してはいるが、ネット上での炎上を避けるためにルールだけを覚えこむような「マニュアル本」ではない。帯にある通り、無意識の差別や偏見を自覚する「気づき」から始め、言葉の背景にある考え方を見つめ直すきっかけをくれる本である。

 日本はジェンダー・ギャップ指数が先進国の中で最低レベルと言われて何年たつだろう。政治家が率先してセクハラ発言を繰り返し「そういうつもりはなかった」と開き直る。批判が集中したので(心外だが)撤回する(だが辞任はしない)など、人権意識がない公人が多すぎる!と呆れながらも私自身、長年男性社会で生きてきたせいか?感覚が鈍くなっていたことに気づかされた。

 これまで男性は、多数派に属していることが多く、無意識に女性に対して自分を優位に思っている(アンコンシャス・バイアス)結果、その発言によって誰かが嫌な思いをしているということに気が付かない状況を丁寧に解き明かしている。そしてそれは男性・女性に限らず、例えば、正社員と非正規社員や、障がい者とそうでない人、高齢者と若者、日本人と外国人など(外国に行けば逆転)、さまざまな関係に当てはまる。人は「多数派」に立つこともあれば「少数派」になることもあり、多数派に属している時、無意識に差別的な思考をしているかもしれない。それを意識し、多様性を認め合える社会にするための組織作りの具体案も記載されており、こちらも参考になる。

 これらに加えて本書を作成するに至った過程も書かれており、私はこれにとても感動した。新聞労連の組合員たちが、働く場のジェンダー不平等を改善すると同時に、発信者として「表現や発信そのものに根付くジェンダー不平等な要素を改善していかなければならない」と、力を合わせて制作したという。

 きっかけは2018年、財務省事務次官によるセクハラ。被害者である女性記者を孤立させず寄り添いたいと集まった女性たちが、自らのセクハラ被害を語り合う集会を開催。その後、「社会正義やグローバルスタンダードが必要だ」と書きながら、社内ではジェンダー不平等がはびこっている状況を告発する『マスコミ・セクハラ白書』を出版した。この過程で、女性たち自身が、セクハラが仕事の一環であり一人前の記者となるには必要な洗礼だと思い込まされ、被害を告発しないできた結果、セクハラや性暴力に寛容すぎる土壌を作ってしまったという痛苦な猛省の想いが明らかになった。

 思い込みや偏見を自ら修正するのは難しい。だからこそ、こうした仲間との活動や本の存在は重要だ。多くの人に手に取っていただきたい本である。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人、志水博子、志真秀弘、菊池恵介、佐々木有美、根岸恵子、黒鉄好、加藤直樹、わたなべ・みおき、ほかです。


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