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この国の病巣えぐり出す映画『「知事抹殺」の真実』〜佐藤栄佐久さんの闘い林田英明*映画『「知事抹殺」の真実』より 映画の力は大きい。短い時間で真理を突く。福島県知事の座を追われた佐藤栄佐久さん(78)を主人公に、なぜ彼は時の政権から目の敵にされたかを描き出すドキュメンタリー『「知事抹殺」の真実』(2016年、80分)は、この国の病巣をえぐり出す。8月27日、96人の定員に立ち見を含め140人が詰めかけた第七藝術劇場(大阪市)での上映に安孫子亘監督(58)と共にあいさつした栄佐久さんの人柄に触れながら、国策捜査による権力犯罪を見返してみる。
●原発への物言いで国策に対立 栄佐久さんは福島県郡山市生まれ。東京大学法学部卒業後、日本青年会議所の活動を経て1983年に参議院議員に当選後、大蔵政務次官。そして1988年に福島県知事に当選し5期18年の長きにわたって県政を担う。自民党の有能な保守政治家と評価できよう。 それがどうして「抹殺」に至るのか。映画は事実を追いながら、栄佐久さんの軌跡を振り返っていく。東京一極集中に反対し「地域分権・地域主義」を旗印として「闘う知事」を標榜。支持の厚い県民の幸せを願う施策を主張する。道州制は地域の権限が奪い取られる恐れから反対し、どうもこのあたりから政権にとっては好ましからざる人物と思われてきたようだ。しかし決定的なのは、当時県内にあった10基の原発に対しての物言いだったと後に感じる。福島原発は、第1、第2とも、さまざまなトラブルを繰り返してきた。ところが、運営する東京電力の報告には首をかしげざるをえない。マスコミも大きな報道とはならない。栄佐久さんは、あいさつで観客に語りかけた。 「国会議員として原発は絶対安全だと信じていたが、知事になって事故の扱いが小さい。このまま中途半端でいると、知事として責任をもって対応しなければ大変なことになる可能性があると思い、安全に対して可能な限り問題提起をしてきた」 まさかメルトダウンするような最悪の事態が起ころうとは思わなかったにしても、東電の姿勢に悪寒を覚えたというわけだ。知事就任前から事故を隠したり過小評価したりする傾向にあった東電。就任後も、自主点検検査記録のデータ改ざんで当時の社長が2002年に引責辞任するような体質は連綿と続いてきた。プルトニウムとウランの混合酸化物燃料(MOX燃料)を使うプルサーマル計画の了承を撤回し、国策に対立したことが決定打となる。
●「賄賂金額ゼロ」で有罪判決 2006年、実弟が経営する縫製会社が土地取引の不正を疑われ、検察の取り調べを受けることになるのだが、弟は東京拘置所で検事からこう言われる。「知事は日本にとってよろしくない。いずれ抹殺する」と。栄佐久さんは弟と共に収賄容疑で逮捕され、身に覚えのない自白を迫られる。栄佐久さんの支持者たちも次々と特捜部に呼び出され、取り調べが長時間に及ぶ。自殺未遂を図る者も現れて、独房で悩む栄佐久さんは支持者を助け、「事件」を終わらせたい思いで虚偽の自白を決意する。 検察のストーリーは明白だった。たとえ裁判で収賄罪の要件が崩れようと、それまで大々的に「知事逮捕」「自白」とメディアが広報してくれれば目的は達せられる。結局、栄佐久さんが知事室で土木部長に発したとする「天の声」は、日付から不可能と分かり、知事への賄賂で弟の会社の土地を買ったと証言していた水谷建設の元会長も「検事との取引」と暴露し栄佐久さんの潔白を補強したものの、裁判は「知事有罪」を言い渡す。控訴審の東京高裁が、収賄を認めながら「賄賂の金額がゼロ」とする珍妙な判決を下したのは、原告、被告双方の顔を立てるためだったのか。最高裁で確定した「実質無罪の有罪判決」に栄佐久さんは憤りを隠さなかったが、これが日本の司法の現実であろう。上映後のパンフレットサイン会で年配の男性が栄佐久さんに「三権分立なんてウソだ。日本は検察国家です。体に気をつけて頑張ってください」と熱く語りかけていた。その通りだと思うし、いや、もう栄佐久さんは十分に頑張っているとも感じた。 ●「一人一人が事件を裁こう」 すでに栄佐久さんは『知事抹殺 つくられた福島県汚職事件』を2009年に上梓し話題を呼んでいる。だが安孫子監督は、世間一般への浸透に映画の必要性を感じたようだ。今年1月公開。「見た人の感想は『そこらへんのホラー映画より怖かった』なんです」と笑わせつつ、過剰な情報の陰で真実が見えにくくなっていると説いた。そして、映画のために資料映像提供をメディアにお願いしたものの1社を除いて断られた一方、10年を経て重い口を開いてくれた貴重な証言を映像に収めることができた喜びを静かに語り、福島県外に出ると栄佐久さんのことがあまり知られていない情報格差を変えたいと願う。「逮捕されず、もう1期知事を続けていれば福島の悲劇はなかったかもしれない」と監督が語気を強めるのは、栄佐久さんなら津波対策の先送りを東電に許さなかったと思うからだ。「福島にいると『原発に近づく者は消えていく』といわれる現実も皆さんに知ってほしい。大変な状況は福島でまだまだ変わっていない。6万人近い方が、なお避難している」と言葉を継いだ。 映画は栄佐久さんに肉薄して一人の人間像として描いたため、“応援歌”のような色合いがないとはいえない。取り調べ時の再現や回想を含め栄佐久さんを栄佐久さん自身の声で通したため、素人のセリフ感が漂う。しかし、逆にそれが真実味を帯びてくる。監督が「こういう犯罪をする人かどうか、一人一人が裁いていってほしい」と観客に訴えたのも、無実を確信しているからに他ならない。 *映画は9/22まで大阪「第七藝術劇場」で上映中 Created by staff01. Last modified on 2017-09-04 17:01:34 Copyright: Default |