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LNJ Logo 松本昌次のいま、言わねばならないこと〜鶴見俊輔さんから学ぶこと
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第29回 2015年8月1日  松本昌次(編集者)

鶴見俊輔さんから学ぶこと


 *2002年12月13日イラク反戦デモ(中央)/写真提供=しんぶん赤旗

 鶴見俊輔さんのエッセイに「一つの日本映画論」というのが ある。六十数年も前、映画雑誌に発表されたもので、傍題にあ るように、川口松太郎原作・安田公義監督・長谷川一夫主演の 映画『振袖狂女』を論じている。これらのスタッフでも推察で きると思うが、『振袖狂女』は、鶴見さんが言うように、いわ ゆる「高級な映画」などではなく、大衆的な娯楽時代劇といっ ていい作品なのである。しかし鶴見さんは、映画の荒筋を丹念 に辿りながら、そこから現在わたしたちが抱える問題をひきだ し俎上にのせる。

 それではどんな問題なのか。アトランダムに並べるとーー男 の卑劣なエゴイズム、無責任な計画性なき急進思想家、主人と 奴隷的家来の関係、観念でのみ思想を説く日本のインテリの男 たち、権力に屈従し理論を正当化する学者、天皇制という家元 制度をうしろだてとする実業界・政界・官界、そして「現代日 本における異端者の宿命、男が女をうらぎる仕方、伝統のうけ つぎかた」などへ及ぶのである。驚くほかないが、このように、一篇の娯楽時代劇映画からさえ学ぶことこそ、鶴見さんが思想家として生涯をつらぬいた姿勢であり、真骨頂というべきであろう。


 *樺美智子さん追悼会(国会通用門前)/写真提供=大木晴子さん(下の写真も) 大木晴子「明日も晴れ」HP

 花田清輝さんは、このエッセイについて、「みずみずしい感 動を語った鶴見の文章は、アンリ・ルソーの絵のように、わた しの心を打つ。」と書いた。滅多に心など打たれない花田さん にしては、最大の讃辞というべきだろう。そして花田さんは、 いわゆる職業的批評家は、「鶴見を、映画のわからない、おめ でたい人物」とか、「牽強附会の説にたっている老獪な人物」 とかいうかも知れないが、それはかれらが「一つの尺度」でし か映画を計らないからだという。いかに「一つの尺度」でしか モノを計らない文化人・知識人・社会運動家が多いことか。豸 さんは書いている。「文化人たちと、好みの上でのへだたり を感じる。好みの上でのへだたりだけでなく、思想の上でも、 へだたりを感じる。」と。鶴見さんは、生涯、その「へだた り」の狭間を歩きとおした。

 1950年、わたしは一冊の本に出会った。鶴見俊輔著『アメ リカ哲学』(世界評論社・A5判上製295ページ)。プラグ マティズムを論じた本だが、敗戦間もなく二十代になったばか りのわたしには、論じられるバースもホウムズもサンタヤナ もハックスリも、そしてなぜかただ一人登場する日本人のユー モア作家・佐々木邦も、読むだけは読んだがさっぱりわからな かった。しかしただひとつ、鶴見俊輔という人がひとかどの人 だということだけが心に刻印された。以来、鶴見さんの「思想 の科学」、共同研究『転向』の仕事、安保闘争、ベ平連、そし て晩年の「九条の会」の活動などは誰もが知るところである。 わたしは編集者として、鶴見さんの本に一冊もかかわることは できなかったが、なにかの会で出会い、言葉をかわした時の温 顔は忘れることができない。

 現在、安倍政権を打倒するために、いかなる組織にも属さ ず、個人として日夜、国会をとり巻き抗議の声をあげる人び とに期待し、それに先駆的に応援を惜しまなかった人こそ鶴見さ んといっても過言ではない。60年安保の折、政府に抗議して 都立大を辞職した竹内好さんに呼応し、直ちに東工大を辞職し た鶴見さん。そんな知識人・学者がいまどこにいるか。「一つ の尺度」にしばられる党派や進歩的集団を批判しつつ、生涯、 日本共産党に投票しつづけたという鶴見さん。

 去る7月20日、鶴見さんは93歳の生涯を閉じた。その生涯 から学ぶことによって、憲法擁護の道を歩まねばならない。


 *『朝日新聞』号外


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