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 *写真誌「パトローネ」(2006年10月1日・607号所収)

市場原理の冷徹さを見抜け2
「ねぇ聞いてっちゃ!北九州連続集会」

北九州市 ■ 林田英明

「改革」の美名の下に何が行われているのか。労働者の側から市場原理を射抜く5回シリーズ「ねぇ聞いてっちゃ!北九州連続集会」は、核心を突く中身が続いた。“延長戦”も含め第4回以降を報告する。

追い払え人事査定

【教育改革】(6月25日)

 大阪教育合同労働組合書記長の竹林隆さん(51)を迎えた第4回は「教育改革の名のもと 息が詰まる学校現場から反撃を」。人事査定が教育に持ち込まれるとどう教室が変質してしまうかを参加者は共有した。

 教育合同は国公私立の小学校から大学まで、予備校や塾のみならず臨時講師も加入しているユニークな職員団体。1989年、190人で発足後、政党に左右されることなく、非常勤など弱い立場の職員の労働条件改善に力を尽くしてきた。現在、330人を数え、うち外国人が70人を超えるのも特徴の一つ。竹林さんは「職場でなかなかモノを言えず、追い詰められシンドクなって門戸をたたく例が最近は多い」と話す。

 新自由主義政策下の学校現場が抱える問題点を竹林さんは次のように整理する。(1)場当たり学習の蔓延(2)エリートのための教育拡大(3)評価制度による賃金格差拡大(4)非正規雇用拡大による教員分断、等々。

(1)は、少人数指導や英会話授業、パソコン活用、体験学習の拡大を社会のニーズに応えるという形で組み込んでいるが、場当たり的なため、学校労働者にとっては児童・生徒と接する時間が削られ、時間外労働ばかりが増えていく。残業代は出ない。過密労働に疲労だけが重なり、教材研究の時間が取れない。(2)は、習熟度別授業の拡大や小中一貫校の増設がそれにあたる。一方で校区自由化によって、家庭崩壊の児童は一部地区に偏り、学校は抱えきれない重荷を背負い、教員の病気休暇続発の原因ともなる。(3)は、成果主義として人事評価がもたらす教育砂漠を指す。大阪では、今年度の評価が来年度に導入される方向だという。(4)は、生徒から見れば同じ「教師」でも、賃金ベースの異なる講師の増加を問題視する。

この中でも竹林さんは(3)の成果主義について強く批判。単年度評価の弊害で、不登校や外国籍、障害のある児童・生徒を誰も見なくなる懸念を示した。「自ら目標を作って達成できるかどうかが『評価』だから、5年や10年かけて成長を見守ることより、安全確実な目標を立てて、すぐできることしかしなくなる。厳しい状況に置かれた子どもたちが脇に追いやられてしまう。進学校でも、大学進学率にとらわれ、一部の生徒にしか目が行かなくなる」。参加者からも現場の教員を中心に声が上がった。「校長自身も、どう評価していいのか分からず、教員も評価を気にして子どもにピリピリと対応する。これは、評価というシステム自体が間違っているのではないか」「北九州市はまだ評価を賃金格差にしてはいないが、十数年前に比べると余裕がなくなっていることを感じる。人間が破壊されているようだ」。教員は恵まれているとの誤解が今も一部に残る。競争主義を肯定する意見も、現場を知らない市民の側にはある。しかし、いま教員が置かれている環境は、朝日新聞の漫画「ののちゃん」に登場するノンキなフジワラ先生の存在を許しはしない。

竹林さんは、だが希望の言葉をつむぐ。絶対評価の自己申告票には所属を超えて同じ目標を書き、公正性と透明性を追求して評価そのものを有名無実化しようと考えている。「都道府県で状況の違いはあっても、規制緩和の中でどう人とつながるかだ。義を見てせざるは勇なきなり。同僚に声をかけよう、つながろう。労組の原点を忘れたくない」と結んだ。

社会壊す規制緩和

【飢餓賃金】(7月30日)

 ユニオン北九州(全国一般労働組合全国協議会北九州合同労働組合)書記長の本村真さん(53)は元タクシー運転手。82年に西鉄タクシーを解雇され、今も同分会に所属しながら復職闘争を続けている。2002年に規制緩和されたタクシー事業は、運転手の労働環境をさらに悪化させるものでしかなかった。本村さんの話は核心に迫る。第5回は「飢餓賃金か過労死か〜追いつめられた民間労働者の選択」。

 もともとタクシー運転手は仕事の性質上、トイレへ自由に行けず、腎臓結石を患いやすい。座席を長時間離れることができないため、エコノミー症候群にも気をつけなければならない。規制緩和で長距離などの割引が増えた影響だろう、強引に値切る客も増えた。降車間際のメーター加算は「ハネ上がり」といって、客が払わない場合、運賃収入から引いていたが、今は自腹を余儀なくされている。そんな背景を説明したうえで本村さんは「給与明細書」のコピーを掲げた。1枚は05年12月、もう1枚は06年2月の、ある運転手のものだ。12月の基本給は13万8729円なのに2月はゼロ。それはなぜか。売り上げの運賃収入が39万円にならなければ基本給は支給されないからである。2月の支給総額は10万円にも届かない。12月の売り上げも、39万円に届かせるための自腹が少なからずあることも想像できる。「福岡県の最低賃金(時給)648円をも下回っている。歩合制という仕組みが労働条件、賃金体系を解き明かすキーワード。累進歩合を禁止する通達は出されていても罰則がない」と、本村さんは本質的な問題点を語った。

 飢餓賃金にあえぐのはタクシーだけではない。集会ではトラックやガードマン、ビルメンテナンス業界からの肉声も聞かれた。

 なぜトラックは夜走るのか。在庫を置かず、製品をジャスト・イン・タイムで届ける効率化は、人件費を削減することで「安さとスピードアップ」を実現する。夜も昼も走り、何度も往復すれば疲労が極限を超えるのは当然だろう。ある運転手は「座席位置が高く、高速道路の景色はゆったりと流れる。単純走行で信号もないから眠くなる」と自分の危うい体験を述べた。飲酒事故がトラック運転手に絶えないのは、こうした労働状況が遠因になっているともいう。細切れに労働時間が空き、目的地によって出発時間が違う。家に帰れないため、「いま寝なければ」と酒の力を借りてトラックの中であおる。一度飲むと、もう切れない。労働者に事故の責任をすべて押しつけて解決する問題とは思えない。

 あるガードマンは「コンビニエンスストアのアルバイトと同じ。給料は10万円台前半ですよ」と嘆き、ビルメンテナンスの女性は、有給休暇が自由に取れない苦悩や一人職場で組織化が難しく、最賃が守られていない現実を明かした。「最賃があるけん、人が雇えんやんか」と、あるビルメンテナンス業界の社長が言い放つ裏には、底深いダンピング構造が横たわる。

 労働者の基本的な権利が奪われている職場の苦悶をまとめる形で本村さんは言葉をつないだ。「経営側は労働者を請負化して雇用関係をなくし、働く者を勝手に選ぶ究極の『自由社会』を目指している。モノが安くなった、と喜ぶだけでは社会がコワれてしまう」。95年、9人で発足したユニオン北九州は現在140人の組合員を数え、「情けは人のためならず」をスローガンにする。「労働基準法に違反する経営者は許さない。労基署に代わって私たちは闘う。仕事に対する個々の誇りを取り戻そう」と呼びかけた本村さんの顔には、同僚2人を過労死で見送った悔しさが刻まれている。

人権守れ銀輪快走

【連帯ロード】(8月28、29日)

 国鉄労働者1047人の人権回復を求めて、国鉄闘争四国共闘会議の中野勇人さん(43)が鹿児島から東京を目指すサイクルキャラバン「怒りをひとつに 連帯ロード2006」。北九州通過に合わせ、歓迎と送り出しの集会が2日間にわたってあり、小倉から関門トンネルまでの13キロには5人の伴走がつくなど盛り上がった。

 中野さんは北海道の国労北見闘争団に所属。3年前から徳島県池田町(現三好市)に居住し、オルグとして国鉄闘争のタネを四国にまいてきた。鉄建公団訴訟の一人として、昨年一部勝訴の判決(東京地裁が鉄道建設・運輸施設整備支援機構に1人当たり500万円の慰謝料を命じる)を勝ち取った日付に合わせて東京ゴールを9月15日と定め、鹿児島を8月26日に出発。山陽から四国を回って近畿、東海道を2300キロ東進する。北見から東北、北陸を南下する別動隊の2ルートで東京に攻め上がる構図だ。

 中野さんは昨年3月、四国から関東1047キロのランニングキャラバンを走り抜いている。今回は自転車「ロシナンテ?号」にまたがり、各地で交流を重ねていく。「国鉄を解雇された当事者が光を放たないと。確かに疲れはするけど、初めての出会いに元気をもらい、気持ち良く走っていける」と中野さんは笑顔を見せる。労働運動は冬の時代といわれるが、各地で健闘している姿に励まされるのだろう、中野さんは「いろんな思いが肩にかかってくる。困難な闘いをしているところの話を聞くと、その気持ちも乗せて走らなければと思う」と続けた。そして「頑張ってください、ではなく、一緒に頑張ります」と言われることがうれしい。伴走の力は、何倍にもなって中野さんを励ましている。

 宣伝カーからは、昨秋NHKで放映された中曽根康弘氏のインタビュー「国労をいずれ崩壊させようと思った。一念で、意識的にやった」の肉声を流していた。不当労働行為を得意げに電波に乗せる、1987年「分割民営化」時の首相の放言。秋の臨時国会には教育基本法改正、共謀罪新設など改憲に向かう重要法案が審議される。中野さんは人権を侵害するこれらの法案に反対し、命を守る「平和、環境、安全」も訴えながら走っていく。尼崎脱線転覆事故で犠牲となった107人は、安全第一を捨て去った民営化にこそ真因を見いだすべきだと考えるキャラバンは、中野さんに言わせれば「アタマより行動」。黙っていては、ますます状況は悪化するばかりだとの思いがそこにある。プロボクシング世界チャンピオン、徳山昌守の造語「道険笑歩(どうけんしょうほ)」を座右の銘に、ロシナンテ2号は快走する。


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