民衆的量的緩和とグリーンニューディール

［イ・ジョンフェコラム］恐慌そして行ったことがない道

イ・ジョンフェ 2019.11.12 08:55

恐慌そして行ったことがない道

米国が景気低迷を予想して先制的に金利を引き下げた。すでに沈滞の沼に落ちていたEUは、マイナス金利を追加で増やし、量的緩和まで予告している。経済成長率、雇用率といったさまざまな経済指標や、米国をはじめとする主要国家の長短期国債の金利逆転現象を見て、景気低迷の兆候だという。韓国も金利を下げ、歴代最低金利の状態で再び引き下げの計画を明らかにした。だが韓国銀行は2008年の恐慌以後に続く量的緩和で流動性が増加し、金利逆転現象が現れると見ている。長期債券の需要が増えて金利が下がったためだという。このように景気低迷局面に対する判断も違い、これに対する処方にも答がない。資本も行ったことがない道を行っている。

もうひとつの景気低迷はすでに予測されていた。しかし処方はそのたびに違う。 2008年のサブプライムローン事態で金融恐慌が起き、その余波で世界恐慌が発生した。非優良住宅担保融資が不渡りを出して、世界の4大投資銀行のリーマンブラザーズをはじめとする世界的な投資銀行が破産し、最大の保険会社AIGが救済金融を申請するなど、保険会社がつぶれた。すると米国FRBをはじめ、ヨーロッパ、日本の中央銀行が直接、銀行の不良資産を国債に変えたり、握っていた国債を買い入れて銀行に流動性を支援した。中央銀行が直接流動性を支援する非伝統的な方式としての量的緩和がその処方だった。

恐慌という過剰生産による利益率の低下がその背景だ。恐慌の原因といえる過剰生産を解消するためには、構造調整などを経て限界企業を整理して需要を振興する政策を取らなければならない。一般的に、需要振興のためには金利を下げたり政府が税収を考慮して債権を発行し、それだけ中央銀行が流動性を発行することが一般的だ。しかし中央銀行が無制限に金融を緩めて、つぶれるべき限界企業は相変らず生きている。そして、銀行に集めた現金は銀行にそのまま積まれていたり、融資による需要を創出できず、もうひとつの金融商品として歩き回った。結局あふれるドル、ユーロ、円が全世界の株式市場をはじめとする闘銭盤をさらに大きくし、恐慌にもかかわらずバブルは消えなかった。

滅ぶと言われていた新自由主義は量的緩和という非伝統的財政政策と新自由主義的金融化の技法で命脈を維持し、「ニューノーマル(New Normal)」になった。だが決定的には限界企業が生き残り、資本と商品の過剰は解消されず、まともな資本循環サイクルも作れずまた別の恐慌を迎えるようになった。

どうであれ、ヨーロッパと日本はマイナス金利状態で、米国さえ景気浮揚のために金利引き下げの余地は殆どない。景気不況に入っても金利調節による流動性発行の弾力性がない。そして相変らず流動性があふれているのに不況に入り込み、どうすればいいのかもわからない。そうするうちに別に金融を緩める方案を探しているようだ。米国は中央銀行が政府の債権を買い入れて、政府に金を支援する方案を議論している。これは極めて正常な、既存の量的緩和方式で、銀行が握りこんだ金でなければ、金融的循環だけで形成される現実の打開策だ。 [1]

この程度になると一部はあるいは外国為替危機でもやってくるか、でなければ為替差益でも得ようという気持ちで外国為替通帳にドルを増やしているという。経済危機にも不動産価格が下がるのか上がるのか判断できないほどで、株式市場も同じだ。いずれにせよまた金を緩和するということで、韓国銀行も金利引き下げ以外に他の種類の緩和的通貨政策を研究するということには韓国も例外ではないようだ。非伝統的という修飾語がそうであるように、量的緩和により2008年の波を越えてきたとすれば、今回差しせまってくる景気低迷による処方も非伝統的方式であろう。

恐慌に対する処方、韓国型量的緩和

2008年の恐慌が近づき、李明博(イ・ミョンバク)政権は「4大河川生かす」等の緑色ニューディール事業に総額50兆ウォンの投資計画を確定し、 4大河川事業だけで22兆ウォンを解いた。続いて金利を下げ、企業が苦しいと法人税を下げて、労働者には賃金ピーク制などで苦痛分担を要求した。言わば金利の引き下げと財政支出拡大、減税といった拡張的マクロ政策により、内需を振興する正統経済学教科書的な解決法だった。

朴槿恵(パク・クネ)政権では大宇造船海洋と現代商船、韓進海運などの海運会社の不良問題を解決し、チョイノミクスの不動産景気活性化対策で起きた家計負債爆弾を除去するために「韓国型量的緩和」が議論された。不良会社の債権を持つ産業銀行と輸出入銀行に対する追加出資のために量的緩和が必要だということだった。また変動金利、一時償還で固定金利、分割償還で住宅担保融資の条件を変更するために、住宅金融公社に資金を支援しようとすれば韓国銀行が金を投資しなければならないということだ。住宅担保融資条件を変更するのは住宅金融化のためにも必要なことだった。しかしその程度の金額なら、韓国銀行ではなく追加補正予算などで政付加できる水準だったので、結局は実行されなかった。

「民衆的量的緩和」と「グリーンニューディール」

前の恐慌当時、米国中央銀行の財政で不渡を出した金融会社を救い、損失を社会化するという批判があった。量的緩和で金は解いたが結局銀行を救っただけで、銀行には金があふれ、中央銀行の口座にまた金を埋めておいたり、金融市場のバブルを大きくしただけだ。また恐慌初期に新自由主義金融政策を手入れするとして「トドフランク法案」の制定のような改革的な政策が議論されたが、結局実行されなかった。これに反し米国FRB議長だったベン・バーナンキはヘリコプターで金をばらまけと主張し、李明博と安倍は実際に通帳に現金を入れてやったり、商品券を配ったりした。しかし途方もない規模の流動性は、金持ちの投機に終わった。景気低迷だが2019年の韓国の家計および企業が保有する6か月未満の短期信用金融、言わば投資先のない現金のような短期不動資金は1000兆を越えた。それでも国際通貨基金(IMF)は韓国には余力があるとし、財政投資を拡大しろと勧告している。

いまや新しい財政政策は持てる者の投機に金を補い、バブルを膨らまし、不安定性を高める方式ではいけない。社会変化の基盤になると同時に、金が下へと流れ、需要を創出することを企画する最も適切な時期だ。朴槿恵大統領の時のチョイノミクスを押し通した崔炅煥(チェ・ギョンファン)の「地図にない道を行く」という言葉通り、行ったことがない道を行く最適の時期だ。英国労働党が出した「民衆的量的緩和」と米国民主党が積極的に議論をしている「グリーンニューディール」がそれだ。曺国(チョ・グク)を押し通した心情で、右往左往せずに行けば、行けない道ではない。

交通システムの現代化、庶民用住宅、超高速、総合情報通信網、教育施設などの建設プロジェクトを企画する国立産業投資銀行(National Investment Bank)を設立し、英国中央銀行のイングランド銀行(Bank of England. BOE)が発行した債権を産業投資銀行が買い入れれば良い。 [2] どうせ国立なのだから新しい量的緩和方式も何の問題にもならない。ここに教科書にも出てくる恐慌対策のニューディール政策と気候変動対応に関連する政策議題を結合した米国民主党のグリーンニューディール政策を内容的に結合しても遜色がない。最近、化石燃料の使用で人間が自然に及ぼす地質学的影響をさして「人新世」という話題も提起されたが、これもまた注目することができる。これは社会の根本的な転換がなければ地球の持続可能性が保障されないという「地球温暖化1.5度特別報告書」が採択されているこの時点で、積極的な企画でありうる。 [3]

「キャンドル政府」という文在寅政権の逆流は強化されている。「所得主導成長」は「革新成長」から資本主導成長の経路に転換した。「国家均衡発展プロジェクト」という名で予備妥当性調査さえ免除して、 24兆ウォン規模の投資をして、サムスンのような財閥を探す足取りが頻繁になっている。いまや資本を中心にする経済を越えなければならない。「投資の社会化を通して社会的需要中心の社会的経済体制に転換」することを模索し、経済危機の恐怖、収奪と搾取の恐怖、その無限反復の輪を断ち切らなければならない。

〈脚注〉

[1] ホン・ソンマン、米国連準、通貨政策体系変更と危機対応、チャムセサン。 2019.9.4.

[2] イ・ジョンテ、韓国型量的緩和=コービン式量的緩和?、時事in。2016.5・18.

[3] ハ・スンウ、経済成長主義との決別なしで代案が可能か?、〈転換期の韓国社会〉、2019.

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可（仮訳）に従います。

Created byStaff. Created on 2019-11-10 13:26:30 / Last modified on 2019-12-03 19:28:25 Copyright: Default

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