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「政府は決して借金をしない」

[ワーカーズ99%の経済]現代貨幣理論(MMT)の意味と限界

ホン・ソンマン(チャムセサン研究所) 2019.03.19 09:48

1996年末、外国為替危機が迫った時、モラトリアムという見たことも聞いたこともない言葉が政府の口から飛び出してきた。 モラトリアム? デフォルト? 国家不渡り? いったいどうすれば国家が不渡りになれるのか疑ったが、 国家がほろびるかも知れないという政府の発表を深刻に信じるほかはなかった。 国際通貨基金IMFに救済金融を申請すれば経済信託統治が始まるとし、 日本帝国主義の信託統治から抜け出すために始めた国債報償運動のように 国民は金具を集める運動をしたりもした。

国家財政は黒字でも赤字でもなく、ぴったり合うように使う均衡財政が最も良いと信じている。 そして国家も借金することができ、その上、不渡りも出させると思う。 しかしいつでも金を刷って使える国家は均衡財政ではなく、 ずっと赤字状態でもよく、 借りることもせず、不渡りになることもないという貨幣理論があって、 心をときめかせる。

現代貨幣理論(Modern Monetary Theory、MMT)が最近また米国で広く知られている。 民主社会主義(DSA)所属で最年少の米国連邦下院議員に当選した アレクサンドリア・オカシオ・コルテス(AOC)のためだ。 議員活動を始めてからわずか2か月でグリーンニューディール(Green New Deal)、 国家職業保障(National Job Guaranteeing)、 70%金持ち増税など大型の政策を提案して波乱を呼んでいる。 彼は最近、アマゾンの第2本社をニューヨーク市に設立する計画に対して ジェントリフィケーション、30億ドル税金支援、庶民の生活の質の悪化などを理由に反対し、 結局アマゾンはこれに屈服して第2本社計画を白紙化した。

コルテスは議会に入るとすぐ電気エネルギーを100%再生エネルギーに転換し、 緑色ビルへの転換、脱酸素化および温室ガス削減分野に対する大規模投資などを目標にしたグリーン・ニューディール決議案を議会に提出した。 決議案実現のためには 1) 気候変動対応のための1兆ドル以上インフラ投資 2) 1千万人の雇用創出 3) 健康保険の全国的適用、大学無償登録金、基本所得、生活保障最低賃金など包括的な社会保障確保 4)そのために果敢な財政赤字政策が必要だという提案も入れた。 グリーンニューディールと共に雇用を望むすべての人に国家が職業を保障する国家職業保障などを推進するためにも多くの予算を策定した。 国家主導でこれらの事業を進めるためには赤字財政が必要だという点と、 過去の大恐慌期にルーズベルトが進めたニューディール政策が 初期には赤字だったがその後には6倍以上の成果が出たという事例も提示した。 それと共に、この赤字財政政策の理論的基盤を現代貨幣理論(MMT)に求めた。

▲バーニー・サンダース(左)、アレクサンドリア・オカシオ・コルテス(右) [出処:米議会]

現代貨幣理論(MMT)はコルテスによってまた火がついたが、 バーニー・サンダース上院議員も2016年の民主党大統領選挙選挙に立候補した時、 現代貨幣理論に基づいて赤字財政政策を公約したことがある。 さらに遠くは2008年の世界金融危機直後に米国の中央銀行である連邦準備制度が 量的緩和を続けたが、この100年間に連準が供給したドルの二倍も多い金額を わずか2年間で解いて、この現代貨幣理論が注目され始めた。 連準が通貨量を空前絶後に供給したがインフレどころかデフレーションの兆しが大きくなり、 そのために伝統的な貨幣理論である貨幣数量説、新貨幣数量説などが現実に適していないという批判が激しく起こった。 同時に反射的に現代貨幣理論の内容が注目された。

MMTを理論的に説明すれば、 貨幣の起源と歴史、貨幣の価値から整理しなければならないが、ここでは簡略に見ていこう。 まずMMTは政府が自分が発行する貨幣だけで支払える租税義務を賦課することから出発する。 二番目に、税金納付者は税金として納付する政府発行の貨幣を得るために、 自分の財貨と用役を販売する。 三番目、政府はこのような財貨と用役を購入するために 独自の貨幣を発行することができる。 四番目、貨幣は租税義務を賦課した国家に受け入れられるので価値を持つ。 五番目、国家は民間が生産した商品の購買量を通じて貨幣の価値を決める裁量がある。 六番目、民間銀行の信用貨幣は国家発行貨幣を基礎とするレバレッジ資産と規定する。 [1]

MMTが主張する核心は、貨幣は国家が発行するもので(貨幣国政説)、 本質的に債務を清算するための決済手段であり、 そのうち最も重要な債務は国家に払う税金だということだ。 この時、税金に対する債務は国家が決める計算単位で算定され、 決済手段も国政貨幣(at money)と指定された。 MMTに最も熱情的なランドル・レイは 「すべての現代貨幣システムは国家貨幣システムで、 主権者が計算貨幣を選択してそれを単位として租税義務を賦課する。 次に主権者は税金を支払うために使う通貨を発行することができる」と強調する。 [2]

このように、MMTは国家の無制限な貨幣発行(永久的な赤字財政)が可能で、 これを通じて完全雇用を実現することができるという主張を含んでいる。 経済危機の時に一時的な赤字財政政策を追求するケインズ貨幣理論と違い、 MMTは永久的な赤字財政を追求する。 貨幣というものは政府が支払いを保証する証書のようなものなので、 貨幣を発行する主体である政府は望むだけ法定通貨を発行することができる。 ここでの争点は2つある。 一つは政府の貨幣発行権で、貨幣価値と商品の価格を調節または決定できるのかという問題だ。 もう一つは貨幣をとてもたくさん発行しても、 貨幣価値が暴落するインフレを防ぐことができるのかだ (二つとも価値決定という点で同じ問題だ)。

MMTは租税基盤貨幣として貨幣価値が形成され、 国家の貨幣供給量によって貨幣価値が決められると見る。 MMT経済学者のチェルネバは貨幣供給が国家独占なので政府は価値を決める直接の手段を持つと強調する。 「国家が外生的に重要な(財貨やサービス)価格を樹立して、 他のすべての価格に対するアンカーの役割を果たす完全雇用政策を提案する。 このような提案は、失業という通貨発行制限の結果であり、 国家は財政的制約に直面することなく、政府が外生的に価格の策定を行使することができるという認識に基づいている」。 [3]

またMMTの支持者で、2016年にバーニー・サンダース選挙事務所で経済補佐官だったステファニー・ケルトンは、 政府の通貨量調節と税金の徴収などでこれを調節できると説明する。 経済をシンク台だとして、シンク台に張る水を貨幣としよう。 政府がシンクの配管を栓で塞ぎ、水道の蛇口を開いて通貨を供給すればシンクに水が溜まる。 ここでインフレはシンクから水があふれることだが、 これを解決する2種類の方法がある。 シンクに供給する水の速度を遅らせるのだ。 つまり、政府は通貨供給の支出の速度を下げられる。 それでも水があふれそうになれば排水管を開いて(税金徴収を増やして)水(貨幣)を抜く。

このように変動為替レート制を採択して全国民に税金を賦課する能力がある現代資本主義国家では、 政府は必要な時にいくらでも貨幣を発行することができる。 政府は自国の通貨で価値が決められた債務に関する限り、 満期になるたびにいつでもすべて支払う能力がある。 特にこのような国家の支出能力は、歳入の規模に束縛を受けないと主張する。

しかし通貨量の調節だけで貨幣価値を決定できるだろうか? まず内生貨幣理論に従うMMTの基本前提は、 通貨の供給は外生的なものではなく内生的な要因、 つまり貨幣の需要に従うというものだ。 しかし政府の通貨供給独占と貨幣価値決定は、この前提を破壊する矛盾を抱いている。 貨幣の価値とこれを反映する商品の価値と価格が乖離しないように一致させなければならないが、 政府の通貨量調節だけでこれが可能なら既存の貨幣数量説を受け入れれば良い。

結局、同じ話なのだが、もし通貨量で貨幣価値を調節できるとしても、 MMTでインフレを解決することができるか? 国家は貨幣供給を統制することはできるが、 技術と労働条件、労働強度によって決定される商品の価値と受給状況によって変動する市場価格を調節する手段はない。 本当にこれを実現するには国家は貨幣供給だけでなく、 貨幣の需要の側面である生産過程(商品の生産量と受給調節)も直接統制しなければならない。 理論的に見ても、貨幣の供給調節だけで価値と価格の乖離を防ぐことができるという方法はない。 貨幣価値を政府が人為的に固定させると、 市場価値との乖離によって闇市が形成されるなど、 これによる相当な問題が発生しかねない。 実質貨幣価値の変動が市場価値の変化と結合して超インフレを誘発することもある。

それでもMMTは均衡財政論と危機時にむしろ緊縮財政を強要する新自由主義政策を批判して登場した点で、耳を傾ける必要がある。 均衡財政が物価安定に必須で、通貨量管理により物価水準を決められるという空理を揺さぶっているためだ。 また貨幣の供給と財政の積極的な役割を強調しているという点で、 貨幣に対してさらに社会化された接近を試みていると評価できる。 主流経済学の貨幣理論は現実の整合性と説明力が低い。 昨年3月の韓国銀行報告書によれば、 通貨政策体系が金利重視に変わった期間に通貨増加率の実質国内総生産(GDP)の 増加率・物価上昇率に対する説明力はすべて現れなかった。 [4] 伝統的な通貨政策が作動しないという意味だ。 すでに米国など基軸通貨国の量的緩和が物価や成長率の関係を失ったまま続いてきた点を考慮すれば、 主流経済学で貨幣と通貨理論は適切な説明力を喪失した。 資本主義経済において、国家の貨幣統制でインフレと失業の両方を解決ができるという MMTの主張も、こうした現実を考慮すればそれほど見慣れないことではない。

まだ歴史的にMMTによる財政政策が駆使された経験がなく、 実際に現実でどのように現れるのかも不明確だ。 だが貨幣に対する接近として、MMTはケインズ主義的な貨幣の社会化より さらに一歩踏み込んだと評価することができる。 国家の貨幣に対する統制権だけでは市場価格を統制できないというジレンマが存在しており、 そのような点で中途半端な社会化だ。 だが利益主導の生産ではなく社会的な必要による生産が行われるように 国家と社会が生産を統制して調節できるとすれば、 MMTはむしろ積極的に考慮され、現実化することができる実物的な基盤を持つことになる。

バーニー・サンダースとオカシオ・コルテスなどの民主社会主義者を自任する急進的な政治家たちがMMTに基づいて国家職業保障やグリーン・ニューディールなどを主張するのも 生産の社会化を避けた中途半端だ。 ただしまずは相対的にたやすく緊急な貨幣供給から社会化して、 ニューディールを経て生産の社会化に進もうとする 段階的かつ戦術的な対応と理解したい。[ワーカーズ52号]

[1] ミン・ビョンギ他、通貨政策体系変化と通貨供給の内生性点検、ギョンギ研究院、2018.02.

[2] レンドル レイ、ホン・ギビン駅、「均衡財政論は間違いだ」、本談、2015

[3] Pavlina Tcherneva、The Nature、Origins、and Role of Money:Broad and Specific Propositions and Their Implications for Policy、Working Paper No. 46 July 2005.

[4] 通貨政策体系変化と通貨供給の来生性点検、韓国銀行調査統計月報、2018.03.

原文(ワーカーズ/チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2019-03-14 20:38:12 / Last modified on 2019-03-22 22:05:28 Copyright: Default

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