社内留保金で地位を守った李在鎔

［ワーカーズ28号］聴聞会にも揺れない…「社内留保金シナリオ」

キム・ハンジュ記者 2016.12.20 16:17

12月6日、サムスン電子の李在鎔(イ・ジェヨン)副会長が国政調査聴聞会に出席した。 9人の大企業総師が参加したが、李在鎔(イ・ジェヨン)副会長に質問の60%が注がれた。李在鎔(イ・ジェヨン)副会長は13時間続いた聴聞会で「朴槿恵(パク・クネ)-崔順実(チェ・スンシル)ゲート」の代価性を最後まで否定した。

共に民主党の安敏錫(アン・ミンソク)議員は、市民が広場で掲げた「財閥も共犯」のプラカードを取り出すと、李在鎔副会長は「申し訳ない。反省する」という言葉を繰り返した。正義党の尹昭夏(ユン・ソハ)議員も「李在鎔拘束」のプラカードを持った。このプラカードを見た李副会長は目を伏せた。続いて尹議員がサムスン電子白血病問題に言及すると、李副会長は「私も子供を持つ立場として重大な責任を感じる」と言った。窮地に追い込まれた李副会長は、未来戦略室の解体、全経連脱退などに言及した。

李副会長は聴聞会でこれまで積み重ねたイメージを失墜させた。マスコミは揺れる彼の姿をサムスンの危機であるかのように報道した。だが李在鎔のサムスンは堅固だった。聴聞会が開かれた6日、サムスン電子の株価は174万ウォン、8日には179万ウォンと最高額を記録した。株価上昇の基盤には、株主のための株主還元政策があった。正確に言えば「李在鎔のため」のサムスン電子の政策だった。李在鎔はサムスン内の権力を一層強化している。

［出処:写真ホン・ジノン］

株主還元拡大? 李在鎔の利益拡大

サムスン電子は11月29日、中長期株主価値向上方案を発表するにあたり、10兆ウォンの大株主還元政策を掲げた。 2016年、2017年の年間余剰キャッシュフロー(Free Cash Flow)の50%を株主に還元するという内容が入れられた。余剰キャッシュフローは、企業が営業活動で稼いだ現金から投資活動に出て行った現金を引いた残余のキャッシュフローだ。つまり、社内に留保される資金だ。これまで財閥社内留保金還収運動本部は30大財閥企業が溜め込んだ750兆ウォンの社内留保金を還収し、非正規職労働者や最低賃金支援のために使おうと主張してきた。

社内留保金は、利益余剰金と資本余剰金の合計だ。サムスン電子の2016年3分期の社内留保金中、利益余剰金は財務財表上136兆ウォンに達する。サムスンSDIは4兆6千億ウォン、サムスンディスプレーは8兆5千億ウォンだ。だが大企業は社内留保現金はいくらもなく、企業の再投資のために出すことはできないという立場だ。

財閥の社内留保金運用は労働者には厳しかったが、株主らには寛大だった。サムスン電子の昨年の余剰キャッシュフローは13兆ウォンだ。このうち30％にあたる3.9兆ウォンを株主に還元した。株主配当の規模は3.1兆ウォンで、残りの8000億ウォンは自社株買入-消却に使った。今年の余剰キャッシュフローは約20兆ウォンに達するものと見られる。今年は昨年の倍を超える約10兆ウォンを株主に還元する方針だ。ここで4兆ウォン規模の株主配当を約束した。株主親和政策により、サムスン電子の株価は沸き上がった。国内外の個人株主も歓迎したが、彼らよりも大きな利益を受ける人がいる。大株主の李健煕(イ・ゴニ)、李在鎔(イ・ジェヨン)総帥一家だ。

サムスン電子が公開した持ち株比率を見れば(2016年上半期、株式総数基準)、サムスン電子株式の54%は外国人が所有している。次に李健煕(イ・ゴニ)、李在鎔(イ・ジェヨン)など総帥一家と特殊関係の最大株主株式が約16%だ。自社株は14%、国民年金など国内機関が14%を持っている。残る個人は2%の株式を持っている。いわゆる「蟻投資家」は全株主数から見れば97%だが、全体の持株分は2%だ。このような持ち株構造で、10兆ウォン規模の株主還元に最大の利益を受ける者は、李健煕(イ・ゴニ)と李在鎔(イ・ジェヨン)総帥一家だ。一部の外国人株主と国内一般個人株主はお愛想の水準であるわけだ。

自社株燃やし…李在鎔三代世襲シナリオ

サムスン電子はこれでも足りなかったのか、最大株主の持分を高める自分株式(自社株)買入、消却活性化プログラムも発表した。サムスン電子は2016年余剰キャッシュフローの50%を割り振って残る残余財源と2015年の残余財源8000億ウォンを含み、自社株の買入・消却を実施すると明らかにした。概略6兆ウォンを越えると展望される。

自社株の買入・消却は、単に大株主の利益を極大化することを越え、李在鎔の三代世襲のシナリオの一部だという主張も出ている。ひとまず、サムスン電子が自社株を消却すれば、残る株式価値が上昇する。したがって、すべての株主が利益を受けるものと見られるが、大株主の株式価値が一般株主よりさらに大きくなる。自社株を買い取る時、買取りの対象から大株主の持分は除かれるためだ。小額株主や機関投資家が保有する株式を市場で自社株として買い取る。大株主の株式はそのままにして、残りの株式が買われて消却されるので、相対的に大株主持株比率がさらに上がる。

そのようにしてサムスン電子は今年例のない11.4兆ウォン規模の自社株を消却した。サムスン電子は「2016年の1株あたりの配当金は、特別自社株買入・消却プログラム効果が反映され、 2015年の2万1000ウォンから2万8500ウォンと約36%上昇するものと見られる」と明らかにした。特に李健煕、李在鎔などの総帥一家と特殊関係人の株式は、自社株買入・消却で持ち株比率が17.64%から18.44%に上がった。サムスン電子は2014年、2015年に自社株の消却がなかった。したがって総帥一家などの最大株主と特殊関係の持分も17.64%で変動がなかった。

自社株消却だけでなく、自社株を他の会社と対等交換したり必要なだけ売却したりもする。一般的に自社株は議決権がないが、必要によって自社株の議決権を復活させたりする。サムスン物産は第一毛織と合併過程で自社株5.79%をKCCに売却して議決権を復活させた。最大株主の経営権防御の便法であるわけだ。ところで、最近国会が自社株を経営権防御用に活用する事例に制約を加えている。また、持ち株会社体制を強化して、自社株の保有を制限するための立法の試みも増加している。自社株保有が制限されると大企業らは自社株に縛られる必要がなくなる。自社株保有が最大株主の経営権防御あるいは強化の機能を失うことになるのだ。それでさらに自社株の消却に熱を上げる。

サムスン電子はまた、中長期株主価値向上方案に「会社の成長および株主価値を最適化するための企業構造検討」を入れた。サムスン物産と第一毛織合併に続くサムスン電子の持ち株会社転換で、李在鎔体制を全面化するということだ。サムスン電子は企業構造検討に約6か月程度の検討期間が必要になると伝えた。サムスン労働人権守備隊のチョ・デファン事務局長は「株主還元政策発表と同時にサムスン電子の持ち株会社転換の検討は、サムスン電子の李在鎔副会長の世襲シナリオだったのではないか」とし「これは総帥一家の支配権を強化する政策の一環」だと主張した。

「朴槿恵-崔順実ゲート」で現れたサムスン社内留保金

余剰キャッシュフローの株主還元拡大、自社株消却の他にも社内に留保される資金があった。「朴槿恵-崔順実ゲート」と財団に流れたサムスンの寄付金だ。ほとんどの企業は寄付金を損金(費用)処理する。費用として処理しなければ利益余剰金として残る金だ。

企業評価サイトのCEOスコアによれば、2015年のサムスン電子寄付金が4464億ウォン、サムスン生命が803億ウォン、サムスンディスプレーが465億ウォンで、大企業の寄付金順位1、2位と9位を占めた。サムスングループの寄付金5000余億ウォンのうち、ワーカーズが確認できた寄付金は3770億ウォンだった。先に、サムスンは「朴槿恵-崔順実ゲート」が爆発した財団法人ミルに125億ウォン、Kスポーツ財団に79億ウォンを寄付した。国民の党のキム・ギョンジン議員によれば、サムスンは朴槿恵大統領の主な事業だった創造経済革新センターに120億ウォンを寄付した。サムスンはまた、知能情報技術研究院に30億ウォンを寄付した。今回のゲートで「不正オリンピック」になった平昌冬季オリンピックの開幕・閉幕運営会社になったサムスンが1000億ウォンを後援したと言われる。

また、サムスン電子は2000億ウォン近い金をサムスングループが運営する公益財団に寄付した。サムスン未来技術育成財団に500億ウォン、サムスン文化財団に400億ウォン、サムスン生命公益財団に659億ウォン、サムスン福祉財団に260億ウォン、湖巌財団に50億ウォンなど、総額1869億ウォンを出捐した。サムスン文化財団とサムスン生命公益財団は、李在鎔副会長が財団理事長になっている。サムスン福祉財団は李洙彬(イ・スビン)三星生命会長が理事長で、湖巌財団の孫炳斗(ソン・ビョンドゥ)理事長は、サムスン創業者の李秉喆(イビョンチョル)の時にサムスンで働いていた人物だ。

サムスン生命公益財団は、サムスン生命の株式の2.18%を保有しており、サムスン文化財団はサムスン生命、サムスン火災、サムスン物産など合計7.9%の株式を持っている。財団と系列会社の持分関係を見れば、寄付なのか資金運用なのかが分からないほどだ。残りは生活困難者助け合い寄付に500億ウォン、韓国戦参戦勇士記念財団に12億ウォン、大韓赤十字社に5億ウォン、京畿道LED事業に30億ウォンを出捐した。

寄付金の形態だけで秘線実力者や総帥一家財団に入ったのではない。 12月7日、金載烈(キム・ジェヨル)第一企画社長が崔順実のめいのチャン・シホが運営する韓国冬季スポーツ英才センターに払った16億ウォンは、サムスン電子の決定によるものだったと明らかにした。またサムスンは崔順実の娘、鄭ユラのために名馬「ヴィタナV」を10億ウォンで購入して支援した。サムスンはまた「鄭ユラ国家代表中長期ロードマップ」のために、大韓乗馬協会に180億ウォン規模の支援計画をたてた。最近、ドイツのヘッセン州検察は、サムスンが崔順実氏に渡した43億ウォンをマネーロンダリングの容疑で捜査している。これを入れてゲートにかかわるサムスンの資金は1603億ウォンだ。

サムスンの寄付金5000億ウォンのうち3770億ウォン程度が明らかになった。出捐しなければ社内に留保される寄付金相当が、秘線実力者とサムソン系列社に流れて行った。財閥社内留保金還収運動本部のキム・テヨン執行委員長は「これまで財閥が社内留保金は解除できないというのは虚構であった」とし「財閥は低賃金非正規職労働者のためには一銭も使えないといったが、政権の秘線実力者に賄賂を捧げ、系列会社どうしで資金運用をするためにはいくらでも可能だということを証明した」と指摘した。

サムスンの寄付が取り引きだったという賄賂容疑の中心にはサムスン物産、第一毛織合併がある。国民年金公団は諮問機構の反対意見にもかかわらず、2500億ウォン台の損失を受けても合併に賛成した。これでサムスンは「李在鎔-サムスン物産-サムスン電子」の体系に拍車をかけた。また、サムスン持株会社転換にとっての障害だった中間金融持株社許容の議論が公正取引委員会を中心に活発になった。公正取引委員会は中間金融持株会社法(公正取引法改正案)を年内に立法発議する計画だと明らかにした。公取委の年内の法案発議、来年の上半期通過は、サムスン電子が29日に発表した「持株会社転換検討に6か月所要」と合致する。そして政府はサムスンの「HT(Health Technology)産業」もバックアップした。朴槿恵政権は公共地方医療院である晋州医療院の閉鎖を始め、投資活性化のための病院付帯事業の拡大、営利子会社の許容、メディテルの許容、営利病院初の許可などを相次いで推進した。チャムセサン研究所のソン・ミョングァン研究委員は「財団を利用して社内留保金を分散配置する便法は、一日や二日の話ではない」とし「また、企業は寄付で社会貢献イメージを作り(減少した利益余剰金で)税金を減らす効果まで得る」と批判した。

「朴槿恵-崔順実ゲート」は、こうした政経癒着の問題をさく烈させた。史上初の財閥総師聴聞会が開かれたが、財閥は国会議員の圧迫にも屈しなかった。株主還元、自社株消却など、資本の方式があったためだ。サムスン電子の社内留保金は「李在鎔号」をさらに強固に構築している。だがこの船には二倍には李在鎔とその一家、そして大株主だけが乗っている。その船を作った労働者は乗ることができなかった。(ワーカーズ28号)

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可（仮訳）に従います。

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社内留保金で地位を守った李在鎔

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