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「人が死んだのに」…性暴力容疑の議論がない哀悼は本質的にバックラッシュだ

[寄稿]朴元淳市長の死と哀悼をめぐる論争に送る

クォン・スンテク(言論改革市民連帯) 2020.07.13 10:58

朴元淳(パク・ウォンスン)ソウル市長の葬儀について 青瓦台国民請願一つが書き込まれた。 「朴元淳氏の葬儀を5日葬、ソウル特別市葬で行うことに反対します」という請願がそれだ。 「性暴力疑惑で自ら命を絶った有力政治家の華麗な5日葬を国民が見守るべきか」 という質問で始まった国民請願。 公務とは無関係な死で、MeToo加害者と指定されたところだったので、 短い期間に多くの人々の同意を得た。 7月12日現在、54万3486人(午後7時30分)が請願に参加した。

しかし「今回も」だ。 加害者は死亡し、その「死」は性暴力疑惑を無力化させるために大きな力を発揮している。 韓国社会には死者に対する哀悼ばかりがあふれる。 青瓦台国民請願にはすでに朴元淳市長支持者を中心に 「死者名誉毀損を止めろ」という請願まで掲示された。

朴元淳市長に対する多面的な評価がありえる

朴元淳市長は長い間 人権弁護士、市民運動家として活動してきた。 そして2011年にソウル市長に当選してから3選を守った政治家であり行政家だった。 死者の人生を反すうしようというのではない。 朴元淳という人物は さまざまな領域で活動し、 それだけ多様な人々と会って因縁を結んだと話したいのだ。 それらの関係は全く同じ形態ではない。 朴元淳市長に対する評価もそれぞれだろう。 この単純な事実を認めなければ、 朴元淳市長の死亡と 「哀悼」をめぐる論争は政争で終わってしまうかもしれない。

[出処:チャムセサン資料写真]

個人的にもそうだ。 朴元淳市長のさまざまな面を見て、それに対する評価も同じではない。 7月9日に朴元淳市長が潜伏した事実が報道される直前、 ある知人と有力大統領選挙走者を主題に対話した。 そして「朴元淳市長が大統領になったら?」と想像した。

行政家としての朴元淳市長に対しては、肯定的に評価する部分が多い。 2014年のセウォル号惨事以後、ソウル市はソウル図書館に合同焼香所を設置した。 焼香所を訪れる市民らの哀悼の歩みが絶えず、自然に駐車問題が発生した。 すると、ソウル市はソウル広場を囲む道路を駐車場として活用できるように措置した。 セウォル号惨事の意味と、彼らを哀悼する市民の便宜を考えた行政の姿だった。 その場面を直接目撃した。 そして考えた。 「朴元淳市長の行政はこうしたものなんだ」と。 朴槿恵(パク・クネ)前大統領弾劾のためのキャンドル集会が開かれた時のことも覚えている。 ソウル市は市民に放水銃を撃てないように、水道水に対する管理権限を行使した。 そして使用可能なトイレの位置情報をキャンドル集会に参加した市民に提供した。 漢江公園には配達ゾーンを作って配達車両による事故の予防をした。 このように、朴元淳の行政は「ディテール」にあると考えた。 李明博(イ・ミョンバク)・呉世勲(オ・セフン)元ソウル市長とは違うソウル市長の誕生であり、われわれは経験した。

それだけではない。 ソウル市交通放送tbsで非正規職労働問題に対する指摘があると、 すぐに正規職転換を約束した。 その後、tbsはソウル特別市メディア財団TBSとして新しく出発をすることになった。 開局30年で独立したソウル市の支援機関として発足することになったのだ。 これもまた朴元淳市長の決断がなければ不可能なことでもあった。

しかし朴元淳市長を支持しない

しかし朴元淳市長を支持してはいない。 「支持できなかった」という言葉のほうが的確な表現かもしれない。 朴元淳市長には良い面があったが、 それらの評価がそのまま支持につながりはしない。

個人的には「朴元淳」という名前が頭の中に刻印されたのは2006年だった。 文化連帯で活動をしていた時、「市民社会団体共同新聞」を標榜してきた「市民の新聞」のイ・ヒョンモ社長の性暴力事件が暴露された。 当時、イ・ヒョンモは市民社会内の多くの団体の代表など、大きな役割をしていた。 それだけに、市民社会は運動社会内の性暴力事件に対して公論化して、 再発防止のための方案を立てることに力を集めなければならなかった。 だが残念なことに、「仲間同士」の甘やかし文化が作動した。 その多くの人々の中に朴元淳市長がいた。 朴元淳市長は当時、 「市民の新聞」の理事として事態解決のため責任があったが、 性暴力事件にはきつく口を閉ざした。沈黙のカルテルの作動。

その結果は惨憺たるものだった。 朴元淳市長をはじめ、 市民社会内で強大なパワーを発揮する人々が口を閉じ、 「市民の新聞」は歴史の中に消えた。 「市民の新聞」正常化のために戦った記者たちはちりぢりに散り、 性暴力被害者は2次、3次加害で苦しんだ。 その時にこんなことを考えていた。 「口を閉ざしたあの人々にとって運動とは何なのだろうか」、 「市民運動の運動家と騒ぐ彼らを尊敬することはできないようだ」ということだ。

行政家に変身した朴元淳市長に怒った時もあった。 2014年、ソウル人権憲章制定市民委員会は「性的指向による差別禁止」を含む人権憲章を作ったが、 ソウル市が制定を取り消して議論が提起された。 そして性少数者や人権団体は、ソウル市占拠座り込みを始めた。 朴元淳市長は当時、 保守キリスト教徒たちと会った席で 「同性愛は支持しない」と発言したと伝えられた。 「政治家」としての朴元淳という人は、 さらに高い地位に上がるために性少数者の人権を切り捨てられる人物なのだと印象付けられた事件だった。

朴元淳市長に対する前の二事件は、とても強烈に脳裏に打ち込まれた。 朴元淳市長を「市民運動家」、 そして「政治家であり行政家」という二つの領域で支持できなくなった契機だった。 特に、「市民の新聞」のイ・ヒョンモ性暴力事件は、 朴元淳市長がMeToo加害者と指定された現時点で、もういちど考えてみる必要がある。 それも「威力による性暴力事件」だったからだ。 もし、朴元淳市長が当時、 もっと被害者の言葉に耳を傾けていれば、 それで事態解決のために表で動いていればどうだっただろうかという空しい考えがよぎる理由だ。

「哀悼」しないというのではないが…

朴元淳市長が「失踪」したという報道に心配したし、 性暴力容疑で告発された状態だったという知らせに怒った。 そして死亡したという発表が出てからは、さまざまな感情がごちゃまぜになり始めた。 恐らく朴元淳市長に対する多面的な評価とからんでいたからだろう。

朴元淳市長の死を個人的に哀悼する。 しかし、その気持ちを乱すことが起きている。 「性暴力容疑はない」ことにするような社会的雰囲気がその原因だ。 ある人は「朴元淳市長の弔問は自由」だとし、 弔問を政争化するなと話す。 性暴力容疑に対して語ることは「死者に対する名誉毀損」だとも主張する。 「人が死んだのに、まず哀悼をして、性暴力事件は後で話せ」という言葉も聞こえる。 「朴元淳市長は死んで反論できないのだから、 被害者の一方的な主張に過ぎない」という言葉もあふれた。 こうした主張は一部、合理的に思われるかもしれないが、 本質的にはナンセンスで、バックラッシュだ。

朴元淳市長が死亡して 性暴力容疑に対しては「公訴権なし」で終結したことは変わらない。 性暴力容疑と被害者の実体が明らかな事件だからだ。 被害者は朴元淳市長から2017年から性暴力に苦められたという。 これまで朴元淳市長からテレグラムで不適切な写真を数回受け取ったと伝えられている。 それらのの証拠はすでに捜査機関に提出された。 被害者はさらにあるとも言う。 事件が終結したからといって、無かったことになるのではない。

それでも被害者は朴元淳市長が死亡し、二次加害で苦しんでいる。 朴元淳市長の支持者を中心に「MeTooが人を殺した」という非難があふれる。 被害者が性暴力容疑を提起したことをめぐり、政治的陰謀説に追い込もうとする動きも見られる。 他方では、被害者さがしが行われている。 朴元淳市長から長い間、性暴力被害で苦しみ、 やっと告訴した被害者がなぜそんな言葉を聞かなければならないのか、彼らに問いたい。 朴元淳市長に対する 哀悼と弔問について考えなおすべき部分はここにある。 安熙正(アン・ヒジョン)前忠南知事と呉巨敦(オ・ゴドン)前釜山市長、 そして朴元淳(パク・ウォンスン)ソウル市長まで、 高位公職者の威力による性暴力事件を韓国社会がどのように記憶して記録するのかという問題なのだ。

哀悼と弔問をしないというのではない。 性暴力容疑を受けて死亡した者に対する哀悼、 そしてその表現には注意をしなければならないということだ。 社会的に影響力が大きい高位公職者のほうがさらに慎重でなければならないことは 改めて言うまでもない。 ソウル特別市葬で葬儀をする問題はここにある。 これは安熙正前知事の母親の遺体安置所を訪れた公職者の追慕と 大統領名義の弔花の議論ともからむ問題だ。 しかし、今どうだろうか。 共に民主党のイ・ヘチャン代表は、 朴元淳市長の性暴力容疑に関する質問をした記者に「礼儀ではない」と怒る姿を見せた。 彼らの動きが韓国社会にあたえるメッセージは自明だ。 性暴力被害者に「静かにしろ」ということと違わない。 それが韓国社会にとって利益になるのだろうか。 朴元淳市長の死亡について沈黙すべき人々は、他にもいる。

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2020-07-14 04:04:59 / Last modified on 2020-07-14 04:05:01 Copyright: Default

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