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〔週刊 本の発見〕『東京都同情塔』(九段理江) | |
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AIが小説を書くとき『東京都同情塔』(九段理江 著、新潮社、1700円) 評者:大西赤人
第170回(2023年下半期)芥川賞を受けた本書は、記者会見における九段の「今回の小説に関しては、だいぶAI、つまりチャットGPTのような生成AIを駆使して書いた小説でして、おそらく全体の5%くらいは生成AIの文章をそのまま使っているところがあるので」(産経)という発言によっても注目された。実際には、後に「会見でとっさに出てしまったが、読み返したら単行本の1ページにも満たない分量で言い過ぎだった」(東京)などと修正したけれども、彼女は先頃、「執筆には生成AIのChatGPTが使われ、小説全体の95%をAIが、5%を芥川賞作家の九段理江さんが担当した」「最初のテーマ設定や話の展開はすべてAIに提案させ、九段さんはAIに意見を出したり方向性を指示したりしながら執筆を進めた」(NHK)という短編『影の雨』を発表している。まさに現われるべくして現われた「創作」の現在形といい得るかもしれない。 実を言うと大西は、AIに小説を書かせてみたことがある。『ChatGPT』に与えた指示は、極めて大雑把に「400字以内の長さで、面白く、意外なオチのあるショートショートを作って下さい」というだけ。しかし、AIは瞬時に一編を書き上げ(?)、それは600字を超えてこそいたものの、非常に達者な文章で、もしも人間の作であれば、なかなかの出来と評し得る仕上がりだった(ここに転載したいくらいだが……)。あえて話のオチの意味を尋ねると丁寧に説明してくれた上に、「このストーリーには前例がなく、いま新たに作られたものですか?」と失礼な質問をぶつけても、「新たに創作したものですが、アイデアやオチの形式自体は、他の創作物と似たようなものも存在するかもしれません」「とはいえ、話の具体的な内容やオチは完全に私が考えたオリジナルです」「完全に新しく創作されたストーリーと考えてもいいでしょう!」と悠然と返してきた。 九段の本作にAIの力が「5%くらい」加わっていたのか、「1ページにも満たない分量」だったのか、いずれにしても、作家がAIの文章を採り入れたこと、それを公言したことは画期的な出来事である。今後、それはどこまで許容されるのか? もしも書き手の文章作法を十二分に覚え込ませたAIが小説を作り、作家がそれに�犲蠅鯑�れた�瓩箸い�場合、その成果は当該作家の作物として認められるであろうか? もちろん、「そんな物、受け容れられないに決まっている!」という声も出るだろう。しかし、今や誰も異議を唱えるはすもないワープロによる執筆にしても、手書きと比較すれば極めて大きな違いがあり(たとえば、追っての加筆修正は圧倒的に楽で躊躇が要らない)、作家の文体が変わるとも言われて当初は疑義も少なくなかったと思われる。ましてや音楽や映像の分野では、その境界は既に消えたに等しいかもしれない。 『東京都同情塔』は、現実には断念されたザハ・ハディド案による新国立競技場が存在し、その傍らにバベルの塔を思わせる巨大な刑務所「シンパシータワートーキョー」が建造計画中の仮想近未来・東京が舞台となっている。デザイン・コンペに挑む主人公の建築家・牧名沙羅は、「シンパシータワートーキョー」なる空虚なカタカナ名称に違和感を覚えていたが、美青年・拓人がふと発した「東京都同情塔」という呼び方に惹き付けられる。大西としては、「シンパシー……」は論外にせよ、「東京都……」に対しても特段の共感を覚えなかったので気持ちが乗らなかったのだが、エッフェル塔でさえ建造時は多くの反対があったそうだし、大阪万博のミャクミャクも当初の悪評転じて今や人気キャラクターとなっているらしいから、出来てしまえば変わるのだろう。 物語は、色々なポイントが特に解決・解明されることなく終る。文体は、AIという先入観に影響されてしまうのか、やや人工的で、しかし極めて滑らかに続いて行く。電子書籍で読んだので、以下のような作業が簡単に出来るのだが、200枚余りの作品中に「けれど」という言葉が104ヵ所も登場する。「けれど(けれども)」は、単純に「が(だが)」を使いたくない時に大西自身もしばしば用いたくなる接続詞だが(!)、基本は逆接であるけれども(!!)、事例をフラットに併記する際にも選択しがちであり、それは、文章を切らずに続けることで一定の流れを作りやすいからだと思う。104ヵ所の「けれど」は、沙羅や拓人のしゃべりや意識を追うために意図的に多用されていると思われるものの、ややうるさく感じられた嫌いはある。 実際に今後、AIが�狆�説を書く�瓩茲Δ砲覆襪�どうかは判らない。言うまでもなく文章とは、ただ文法的に正しく読みやすく、論理的であれば名文というわけではないし、そうやって描かれることが傑作の条件でもない。むしろ悪文に属する名作も存在する。今後、AIがどのように小説――文学と関わって行くかを思うと、あるいはこの『東京都同情塔』が、その嚆矢《こうし》として位置づけられることとなるのかもしれない。 Created by staff01. Last modified on 2025-08-07 13:23:02 Copyright: Default | |