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〔週刊 本の発見〕『言葉の展望台』(三木那由他) | ||||||
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マンスプレイニング、不誠実な謝罪、、、言葉をめぐるモヤモヤを哲学する『言葉の展望台』(三木那由他、講談社)評者 : わたなべ・みおき
こうした謎に関心をもって言葉とコミュニケーションに関する哲学的な研究をしている、という著者によるエッセイ集。著者自身が日常生活のなかで感じる言葉やコミュニケーションに係る疑問を、専門である哲学というレンズを使って、さまざまな角度、解像度から見ていく、と「はじめに」にあるとおり、哲学は単なる現実離れした抽象的な思考ではない、ということを思い出させてくれる本だ。 プロローグ「コミュニケーション的暴力としての、意味の占有」はこの本のエッセンエスともいえるだろう。言葉は、言葉いがいの力関係によって、その意味を決定されてしまうことがある。「意味が他者によって占有されるとき、対等な会話は成り立たない。意味を奪われた者にできるのは、会話をやめることだけだ」「自分には理解できない何かを相手は意味しているかもしれないという可能性を認めることでしか、コミュニケーションは、少なくとも対等なそれは、始まらないのだろう」。 いまだに女性差別発言が繰り返されるのはなぜか。一つの原因は、その集団に圧倒的少数者としてしか、女性が存在しないからだろう。多数者の側は、少数者の存在を意識することもない。少数者の側がどう感じているかを想像することすらできないに違いない。そんな状況下での発言がどのようになされ、受け取られているのか。 マンスプレイニングや差別的な発言が実質的な害を及ぼすのは、権力を持った人間による発言によって、その場でどのような振る舞いが許容されるかが決定されるから。「言葉の強奪」や「解釈的不正義」、「言語ゲーム」等の先達の考え方を使って、「権力関係」下での、言葉とコミュニケーションについて繰り返し丁寧に紐解いていく。 一つの例。著者は学生に向かって、自分のことを「先生」と呼ばないでほしい、と言う。「先生」と「教えを受ける者」という関係をつくりたくない、ともに哲学という営みに携わる仲間でありたいという思いからなのだが、「先生と呼ぶのはやめてください」と言うと、表現上は単なる「依頼」であるが、先生と生徒という権力関係がある以上、強制力を持ってしまう。依頼にみえて実際は強制力の強い「要求」という言語行為をすることになってしまうとの悩み。「そういうわけなので、呼ばなくて構いません」という著者の、誠実さよ。多くの人間はその肩書きによって「許容される範囲」が決まってくることに無自覚に生きており、それがハラスメントにも通じてしまうと思うのだが、自覚的であることは難しい。 他にも、コミュニケーションはいわば約束をすることなのだ、と捉える著者の、実存をかけた悩みまで、取り上げられるモヤモヤは多岐にわたる。 人は言葉を介してしか物を考えることができない。けれども、言葉にすることでこぼれ落ちてしまうものがある。そして、自分の中でこぼれてしまったものに後ろ髪引かれつつも発した言葉が、他人にどのように伝わったのか、あるいは伝わらなかったのか。 言葉を探しながら進む日々に、まさに「展望台」となる本である。 Created by staff01. Last modified on 2024-04-11 08:07:07 Copyright: Default | ||||||