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新聞はジャーナリズムの原点に立ち返れ〜「朝日」社長挨拶で「稼ぐ力獲得」

伊藤千尋

 朝日新聞を退職して9年。つい先日届いた退職者の組織「旧友会」の会報を見て驚きました。今の社長のあいさつが載っています。そこにあるのは「新聞依存脱却、稼ぐ力獲得」という見出し。新聞ではもうからないので、他の事業で稼ごう。そのためにも「紙の新聞に頼る事業構造を早く脱却して、新聞以外の『稼ぐ力』をしっかりと獲得することが本社経営の最大の課題です」と社長は言うのです。デジタル、イベント、不動産を「収益の三本柱」と位置づけたものの、不動産以外は稼ぐ力が足りていない、とハッパをかけています。

 おいおい、新聞社がイベントや不動産に頼ってどうする、と言いたくなるではありませんか。いや、企業経営を健全化するのが悪いとは言いません。新聞の読者が急減している折、新聞の収入だけに頼るのは難しいこともわかります。

 しかし、肝心の報道、ジャーナリズムへの力の入れ方があまりにお粗末です。というよりも、ジャーナリズムを放棄するような動きが目立ってしようがない。社長はこのあと、文字を拡大して情報量を増やしたことが読者から評価されていると自画自賛していますが、スペースが同じで文字を拡大すれば、記事に含まれる文字量は当然、減ります。したがって情報量は増えるどころか明らかに減ります。スペースのもとである新聞のページ数は以前より大きく減って今は30ページそこそこ、それも広告だらけじゃないか。

 このところ後輩の記者から怒りの言葉を聞くばかり。「記者をはずされてわけのわからない新規事業の部署に回された。上からは『とにかくカネを稼げ』と言われています」というのです。

 地方ではものすごい勢いで人減らしが続いています。記者がいなくなったため、海外支局長をしていた記者が帰国して地方支局に配属され、しかも一番若手だというので事件記者をさせられるというひどい事態も。各県の県庁所在地に総局をおいていますが、すべての総局にデスクを置く余裕がなくなったので、多くの県でデスクをなくしました。山梨県の記者が静岡県のデスクに原稿を見てもらっているのだとか。これでまともな記事が載るわけがない。記者を減らせば情報は必然的に薄っぺらくなります。

 しかも、頑張る記者を冷遇する不可解な行動をとっています。本人が休みをとって自費で現地に行って取材して本を出そうとしたら、『業務とのバランス』がどうのこうのとわけのわからない理由で本を出すのを認めないと通告したという・・・報道機関としてあるまじき理不尽な態度です。これってジャーナリズムに逆らう行為じゃないか。言論機関が言論を弾圧するのです。

 まあ、僕も現役のときは3度左遷されましたが、それでも自前で取材して本を出すことに会社から何の干渉もなかった。だって、報道機関ですよ。本来なら社員に対して、新聞で書ききれないことがあったら本でもテレビでも何でも発表しなさいと言ってもおかしくない。なによりも記者は新聞社の社員である前に一人の人間であり、表現の自由は憲法で保障されています。社員の個人的な出版を差し止めるなんて憲法違反じゃないか。僕は会社員である前にジャーナリストだと自覚していました。今は会社員であることが第一で、ジャーナリストを否定するようです。これってジャーナリストを殺す組織じゃないか。

 そう思うのは僕だけではありません。現に、同じ旧友会報で朝日新聞の役員をしたあとテレビ朝日の社長になった人が現在の経営陣を痛烈に批判しています。経営陣に新聞へのこだわりが薄くなったと指摘し、本業と新規事業の二兎を追うのをやめて「本業重視を」と、実にもっともな指摘をしています。「旧友会」が社長のあいさつのあとにわざわざこの記事を載せたのは、今の経営陣のやり方がおかしいと思っているからでしょう。現役の記者諸君、先輩である我々は君たちの側にいます。ジャーナリストを捨て会社員として存在するヒラメのような上司に対しては、きっぱりと「あんたは記者として、人間として間違っている」と言ってやりましょう。

 新聞社がなくなれば新聞も出せないのだから、経営をきちんとしなくては、と言うならわかります。でも、経営のためにジャーナリズムを放棄していいのか? そんな新聞社って、何の意味がある? と問いたくなるではありませんか。

 朝日新聞に限りません。共同通信の経営陣も長崎駐在の記者が長崎新聞について書いた記事を問題にし、共同通信の収入源である地方新聞社を批判するような記事を書くなと記者に圧力をかけている、と「週刊金曜日」が連載記事で追及中です。

 報道機関みずから戦前に戻っているような・・・。15日夕刻には都内の文京区民センターで市民憲法講座「メディアがおかしい〜市民のためのジャーナリズムを取り戻すために〜」が開かれ、元NHKで武蔵大学教授の永田浩三さんが話されます。「許すな!憲法改悪・市民連絡会」の高田健さんが参加を呼び掛けています。(2023.7.14 FBより)


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