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【解説】レイバーノーツ誌6月号は、ウーバーイーツなどのフード・デリバリー労働者たちの立ち上がりを伝えている。この運動の中心がメキシコなどからの移民労働者たちであり、それを組織しているのが労働者センターであることが注目される。(レイバーネット国際部 山崎精一) *毎月1日前後に「レイバーノーツ」誌の最新記事を紹介します。
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立ち上がるニューヨークのフードデリバリー労働者たち

 2021年5月20日 / ルイス・フェリス・レオン


*4月21日2000人の配達労働者によるニューヨーク市内のデモ

 ヨナン・マンシラさんは、マンハッタンの街角でシャッターの下りた店の前に立ち、仲間のフードデリバリー労働者たちにビラを配っている。

 ビラには覆面をした自転車乗りのシルエットが描かれている。このビラには、メキシコやグアテマラの先住民族を中心とした配達労働者たちが自分たちを表現するために使っているスペイン語が書かれている。"Los Deliveristas Unidos"(団結するデリバリー労働者)。

 ウーバーイーツなどのアプリで働くこれらの移民ギグ労働者たちは、4月21日に2,000人が土砂降りの雨の中、自転車やスクーターで市庁舎に向かって疾走し、交通渋滞を引き起こしたことで話題となった。

 求めていたのは、より良い賃金と、トイレの利用や盗難・暴行からの保護などの労働条件の改善である。彼らはブルックリンにある労働者正義プロジェクト(WJP)という労働者センターに加盟しているが、サービス産業労働組合SEIUの32BJ支部の支援も得ている。

 アプリを使ったフードデリバリー労働者の数は、ニューヨークだけでも5万人から8万人と推定されている。これらの移民労働者は必須労働者ともてはやされているが、同時に使い捨ての存在として扱われている。

 1年前、ロックダウンによって一部の人は在宅勤務できるようになったが、その他の労働者、特に清掃、飲食業、建設業などの低賃金の移民労働者は解雇され、街に放り出された。すぐに仕事を見つけて、簡単な手続きで仕事を始めること必要だった。そのために、派遣会社や悪質な請負業者の格好の標的となった。

 中でも、アプリを使った会社は、仕事が無限にあり、スマホで登録できるという利便性を提供している。多くの移民労働者たちは、これらのプラットフォームに集まり、家に籠っているニューヨーク市民に食料や日用品を届ける仕事にありついた。

 そして今、これらの労働者たちは、その数に力を見い出し、各地域で組織を立ち上げ、ハイテク企業に対して勝利を収めようとしている。

 33歳のMancillaは配達の仕事を4年前からやっており、仕事に自信を持っている。まるでオルグのように見える。電動自転車に乗った仲間たちは、彼とすれ違うと警笛で合図し、立ち止まって肘を交わす挨拶をしたりしている。多くの人は親戚やメキシコの同じ町の出身者で、共通の出自があるから活動がしやすいのだ。

 中には、強盗に遭った話や自転車を盗まれた話をする人もおり、安全が第一の関心事だ。「問題は、同僚が前に暴行を受けたことが分っているビルや公営住宅に行かなければならないときです」とマンシラは言う。

 トイレも問題だ。荷を受けに行くレストランのトイレを使用する権利を勝ち取ったと、アダン(23歳)は言う。

 「時には1ドルのチップだけで、30〜50ブロックの配達に駆り出されることもあります。でも、プラットフォームはトイレを使えるようにしろとレストランには言いません」。

●労働者センターWJPの活動

 WJPは昨年の夏からデリバリー労働者の組織化を開始した。それまでは、建設労働者や家事労働者を対象に活動していた。安全講習や、不払い賃金を何万ドルも取り戻すキャンペーンなどが主な活動だった。しかしコロナ感染が始まるとこれまでと違う労働者たちがやってくるようになった。アプリを使った配達労働者たちで、その労働環境は悲惨なものだった。

 「彼らは、トイレに行けないので、ペットボトルを持ち歩いていました。アプリに完全に支配されていました。」とWJP代表のリジア・グァルパさんは語る。独立自営業者とされる彼らには労働者としての法的保護はない。

 やがて、街中に配達員の大きなネットワークがあることが明らかになった。出身国や言語に応じたFacebookなどのSNSで自主的につながっていた。WJPは、アラビア語、ヒンディー語、ベンガル語、北京語、スペイン語、フランス語系クレオール語での調査を支援することにした。

 最初の組織化の課題は、適切な目標を特定することだった。労働者たちは当初、トイレを提供してくれないレストランや、安全を確保してくれない警察を非難していた。しかし、WJPは戦略を議論するための集まりを持って、誰に責任があり、解決する権限を持っている分析をした。

 市長や市議会議員などの名前をリストアップした。しかし、労働者たちはレストランが契約上の義務を負っている強力な企業、つまりアプリ会社に焦点を当てることにした。

 10月には、500〜600人の運転手が主要なフードデリバリーアプリの名前を書いたプラカードを持って集会を開き、団結力を初めて発揮した。その結果、DoorDash社は、12月に配達労働者たちと交渉を行い、約5,000店舗あるレストランのうち、200店舗にトイレの利用を拡大することに合意した。

●次は労働組合か?

 運動が発展すると、考え方の違いや対立点が明らかになるものだ。労働組合を作るのか、それとも法整備のためのロビー活動に徹するのかという問題だ。マンシラは労働組合を作りたいと考えている。組合があれば、警察に自転車の盗難や暴行を取り締まらせる政治的な力を持つことができると信じているからだ。

 短期的には、生活賃金、トイレの利用、屋内の休憩所、有給の病休、事故の際の労災補償、チップの盗難に関する問い合わせへの報復からの保護などを求めている。

 4月に市議会に提出された5つの法案は、これらの要求の一部に対応するものである。その一つは、配達労働者のトイレ使用を拒否したレストランに罰金を科すというもの。また、2018年にウーバー社やリフト社の運転手に最低賃金を設定したニューヨーク市の条例をモデルに、1回の配達につき最低賃金を設定するものもある。また、配達員が自分でルートを決められるようにするものもある。

 「新しい労働者の組織化なくして、労働運動はありえませんが、ニューヨークでは新しい労働者には移民が多いのです。昔の労働組合の始まりと全く同じです。移民が労働組合を始めたのですから」とグァルパは語る。


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