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LNJ Logo 牧子嘉丸のショート・ワールド(41) : 共謀罪と大逆事件
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    第41回 2017年4月1日

  共謀罪と大逆事件

 今、アベ政権はテロ対策を口実に「共謀罪」創設の策動をしているが、これがどんな災厄をもたらすかは、明治の大逆事件を見るにしくはない。これぞ元祖「共謀罪」が引き起こした、日本近代史上最大の暗黒事件であった。大逆事件の全容はまだあきらかではないが、ある程度までは解明されている。大逆事件というと、すべてがデッチ上げだったという人もいるが、大弾圧の呼び水となった運動側の弱点・欠点もいくつかはあったのである。運動の今日的継承のためにもあえてそれらを指摘してみたい。
*写真=大逆事件に連座した幸徳秋水

1.暗殺主義・テロリズムの誤り

 大逆事件研究の「前人未踏の金字塔」と称された神崎清「革命伝説4部作」は、明治40年10月3日早朝、サンフランシスコの日本領事館に張り出された檄文による「天長節不敬事件」からはじまる。これは「日本皇帝睦仁(むつひと)君ニ与フ」と書き出され、天皇制の歴史的批判を縷々(るる)述べながら、「足下(あなた)ノ命ヤ旦夕に迫レリ。爆裂弾ハ、足下ノ周囲ニアリテ、将ニ破裂セントシツツアリ。サラハ足下ヨ」という過激な文言で締めくくられている。

 これが滞米中の帝大教授兼スパイの高橋作衛から、日本の元老山県有朋に伝えられ、明治帝にも内奏されるのである。異常な恐慌と疑心を呼び起こしたのは言うまでもない。在米社会主義グループとすでに帰国していた幸徳秋水との関連が疑われるきっかけになるのである。

 異郷の地に追いやられ、疎外された青年たちの怨嗟の気持ちは理解できるが、国内の厳しい運動状況を考えればあまりに無謀かつ軽率すぎる表現内容だった。明治藩閥政府を堂々と批判するならまだしも、天皇と天皇制を混同して「暗殺」「テロリズム」「爆裂弾」などと叫ぶのは、自身は安全地帯に身を置いた無責任な放言と言われてもしかたあるまい。かくして、大逆事件の伏線はここにあったのだ。

2.「赤旗事件」の挑発

 明治41年6月12日、神田錦旗館で警官隊との衝突事件が起こった。これは大逆事件の前哨戦ともいわれるが、もともとは不敬罪で捕まった山口孤剣の出獄記念の催しで、当時の軟派・硬派(右派・左派)の大同団結がその趣旨であった。それを硬派の大杉栄・荒畑寒村らが青年客気といたずらっ気で赤旗を振り回し、警官と激突したのである。

 先輩堺利彦などは盛会を喜ぶのも束の間、たちまち乱闘に巻き込まれた。必死になって両者の仲に入って騒ぎを落ち着かせたのに、結果自身も含めて多数検挙され、重罰を受けている。直後、西園寺内閣も倒れた。

 松本清張「小説東京帝国大学」によると、これは山県の指示で警視庁のスパイを潜入させて挑発したとある。まさにお互いが挑発したのである。メーデーやストライキで赤旗を振って示威活動をするならまだしも、和気藹々(あいあい)で終わった親睦会をぶちこわして、大きな損害を招く結果になった。このとき、土佐中村で静養していた秋水は運動再建のために急遽呼び戻される。そして、その運命は悲劇にむかってカウントダウンされることになるのだ。

3.指導者の優柔不断

 秋水は、菅野須賀子・宮下太吉・新村忠雄・古河力作ら4人の秘密計画について、積極的に賛成しなかったが、反対もしていない。なぜこのとき、断固拒絶し、またこんな幼稚な爆弾ごっこを厳しく批判しなかったのか。秋水がテロリズム思想を持っていたなら別だが、直接行動は主張してもテロや暗殺は否定していたし、獄中記にもそう記している。

 それなのに、火薬の調合方法を聞かれて、こともあろうに往年の壮士奥宮健之に訊ねている。奥宮は当時政界のラスプーチンと異名をとる権力側の内通者・飯野吉三郎にこの話を売り込んでいる。これが一因で事件が発覚したとの説もある。奥宮はスパイではなかったが、きわどい政治ブローカーであったのだろう。いずれにせよ、秋水の優柔不断が、他の19名もの無実の人を巻き込んでしまったといえば、この先覚者に言い過ぎだろうか。

4、大逆事件の真犯人

 いったいでは、この事件の真の犯人は誰か。それは明治維新によって勝ち取られた思想・信条・表現の自由を認めず、結社および政治活動等すべての権利を禁止し、徹底的に弾圧・圧政を加えた元老山県であり、首相桂太郎であり、命を下した明治帝である。そして、警察・検察・裁判官ら、これら権力者の意向をまさに「忖度」する官僚どもによって、冤罪はますます広がったのである。

 小動物を檻にとらえ、みんなで寄ってたかって棒で突いてみたらどうなるだろう。どんなおとなしい動物でも最後はキバをむくだろう。大逆事件はこの瞬間を奇貨としてデッチ上げられた、冤罪事件なのである。

5.共謀罪という毒蛇

 共謀罪は獲物にじっと目を光らせる毒蛇であり、見えない網を張って襲いかかる毒蜘蛛である。人の目の奥を執拗に覗き込み、心の底まで入り込んでくる刑罰である。

 戦前と今では時代が違うと御用学者は言うが、権力の本質は何ら変わっていないではないか。こんな悪状況のなかで、階級的警戒心を呼び起こすために、大逆事件のマイナス面を指摘した。今日の観点から「ああすべきではなかった」「こうすればよかった」とかはたしかにいくらでも言える。それは十分承知しながら、あえて批判を試みたのだが、わたしの革命的先達への敬意はいささかも失っていないのはもちろんである。(無断転用絶対厳禁)


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